ゲームシナリオ

 ゲーム制作に使用しているメインシナリオです。
 元々は小説として書かれたものなので、ゲームとは異なる部分が多々あります。

はじめに
 こちらの文章は、以前ノベルゲームとして「吉里吉里KAG」というソフトで使用していたテキストを移植したものです。
 途中で選択肢が出て、選択肢ごとで進み方が変わるという風な書き方がしてあります。
 分岐地点には、 * ←このマークがあり、この横に選択肢の分が書いてあります。
 例)*森…ってことはアイツ…
  ――選択肢を選んだ後の文章――
   *なんで森なんかに?
  ――選択肢を選んだ後の文章――
   ――共通文章へ合流――
 ↑こんな感じの書き方になっているのでちょっと小説としては読みにくいかと思います。
 分岐部分が長い所はリンクを設定していますのでご利用下さいませ。
 友好度システムを使っていたので友好度の変動値メモがそのままになってます。
 ; ←このマークがコメントアウト箇所ですので、シナリオとは関係ありません。
 少し読みにくい部分はあるかと思いますが、予めご了承された上でご覧下さいませ。

はじめから読む

 現在【第一三回】までまとめて読めます。
 【第一四回】以降は重要なネタバレを含んでおります。
 パスワード制となっておりますので、ご希望の方は製作者までお問い合わせ下さいませ。

第一回:旅立ち

 コルの村(現:コルジ村)の時期村長・ルイ。
 いつものように幼馴染のリュウランとお勤めをしていた二人。
 そこへ精霊を名乗る者から、「世界を救ってくれ」と言われる。
 困惑のまま村へ戻ると、なんと村が襲撃されていた!?
 幼馴染のリュウランを連れ、ここから世界を救う長い旅が始まる―――

第二回:初めての仲間

 コルの村を旅立ち、近くの町・マニラへ到着するルイとリュウラン。
 初めて見る他所の町で、初めての仲間と遭遇する。
 不思議な生物を連れた少年はナイアと名乗った―――

第三回:水の都・カラミラ

 ナイアを仲間に加え、次の目的地カラミラへ向かう。
 着いて早々一悶着を起こすナイアを助けたのは美しい女性。
 だが、女性は実は男性で、しかも二人目の仲間だった!?

第四回:遺跡

 ラフィエルという新しい仲間を加え、旅を続ける一行。
 その途中で遺跡に立ち寄る事になる。
 歴史を感じる古い遺跡で、ルイ達はある物を見つけた―――

第五回:初めての接触

 遺跡を後にした一行はフェニア山という山を越えようとしていた。
 そこで出会った盗賊に苦戦していると、一人の女剣士が加勢する。
 褐色の肌に大きな刺青…新しい仲間、エルフィーと出会う。

第六回:再会と情報

 フェニア山を超えたチャーンの町に入った一行。
 魔術についての講義から逃げたルイはリュウランと共に町を散策する。
 そこでまた、新しい仲間と出会う―――

第七回:虐殺

 ラウスとロゼッタを新しく仲間に加えた一行はビンズバーグを目指す。
 その途中で見た光景にルイは現実を再確認する。
 皆殺し…それを成す相手に挑もうとしている事に―――

第八回:ラウジエル

 無事ビンズバーグに到着して一夜。
 霧が濃い中、町を散策していると人攫いの一団と遭遇してしまう。
 そこへ一人の傭兵がルイに加勢する事に―――

第九回:武闘大会

 傭兵・ラウジエルを仲間に加えた一行は無事、チェルニアに到着した。
 資金が尽きかけていた一行の前に飛び込んできたのは「武闘大会」の張り紙。
 優勝賞金の為にルイは武闘大会に参加する事になる―――

第十回:召喚

 武闘大会で新しい仲間、セリアを加えた一行は迷いの森へと足を踏み入れる。
 死者が絶えない森で、突然の襲撃を受けたルイ達。
 襲撃をした人物は森に入った反乱軍を追っている人物だった。

第十一回:戯れ

 迷いの森で出会った反乱軍はリュウランの力によって撃退する事が出来た。
 しかし、リュウランは眠ったまま起きる気配が無い。
 新しい仲間、ヴィレンドによると力を使った反動だと言うが…
 そこへ、反乱軍を名乗る人物が一行の前に立ちはだかる―――

第十二回:背中を預ける

 反乱軍のメンバー・ザジとルイの一騎打ち。
 ザジのパートナー・ルキニンを相手にするのはルイの背中を守る相手―――
 ルイの背中を守る相手とは…?

第十三回:誘拐

 ザジを退けたものの、未だに目を覚まさないリュウラン。
 ゴラス林を通過中に、瓜二つの子供と遭遇する。
 「お姉ちゃんを頂戴?」…二人は反乱軍のメンバーだと名乗った―――

第十四回:-------

 こちらは重要なネタバレを含んでおります。
 ご希望の方のみID・パスワードを入力してご入室下さいませ。
 ご入室は【こちら】からお願い致します。

【精霊の守護者メインシナリオ】

【シナリオ1】

<The Holy Ghost knight>

古より精霊の力が息づくシャルグニア大陸――――
1つの大陸に多くの多様な民族が存在しながらも
彼らは互いの均衡を守りつつ、共存しあって平和な世界を築いていた
しかし、世界の均衡はある日を堺に崩壊への道を歩み出す
人種差別、奴隷制度、虐殺…
崩壊のループが歴史の中で繰り返され
世界は崩壊への階段をひたすら下り続ける
そんな崩壊のループを止めんと帝国に反抗する者が現れた
帝国軍と、ある魔導師率いる反乱軍の戦い…
それは長きに亘り繰り広げられ、後に反乱軍が勝利を治める
だが、世界は崩壊への階段を下る事を止めることはなかった
事態を重く見た精霊長は、ある力を持つ子供を世に産み出す
再生へと導く救世主(メシア)として―――…


シャルグニア、西側の田舎村・コル――――始まりの地。
【?】「おばさん!リュウラン知らないか?」
長い黒髪を風に靡かせた少年が、川で洗濯をしていた女性に尋ねる。
【村人】「おや、ルイじゃないか?今日も村長の手伝いかい?」
笑顔でそう答えた女性の言葉にルイと呼ばれた少年もニッコリ微笑み返す。
【ルイ】「いや、今日は神子の仕事。…で、リュウランは?」
【村人】「リュウランならさっき森の方へ行ったよ」
【ルイ】「そっ、ありがと!」
女性に礼を言い、ルイは空に向かって大きく背伸びをしながら歩き出した。

*森…ってことはアイツ…
;リュウランに+1

思い当たることがある。
そう呟きながら、ルイは心当たりのある村外れの森へと足を進めた。

*なんで森なんかに?

森に一体何の用事があるのだろう?と思いつつ、そう呟く。
不思議には思ったが、ルイはそのまま村外れにある森へと足を進めた。


小鳥の囀りと木々の葉の擦れ合う音だけが響く森の中をルイは真っ直ぐ突き進む。
【ルイ】「気持ちいいな……」
木々の隙間から微かに覗く光を浴びて、ルイは思わずそう呟いた。
気持ち良く伸びをしていたら、突然目の前が真っ暗になった。
【ルイ】「!?」
【?】「だぁ〜れだ!」
悪戯っぽいその声で、ルイはやっと自分の目が誰かに塞がれたのだと理解した。

*誰だっ

【?】「あははっ!びっくりしてやんのー!」
【ルイ】「! リュウランか!?」
そう笑われると視界が開けた。
開けた視界で見た相手―――

*その声は…
;リュウラン+1

【ルイ】「リュウランだろ?何、子供っぽい事やってんだよ」
【リュウラン】「やっぱり分かっちゃった?」
【リュウラン】「でも子供っぽいって台詞、ルイだけには言われたくないな」
クスクス笑ってルイの目を覆っていた手を離す相手。


それは少女だ。
歳はルイと同じくらいで、肩まで伸ばした金髪を持った少女。
日の光を浴びて光る金髪に、珍しい深い紫暗色の瞳がよく映える。

*…行って来たのか?
;リュウラン+1

【リュウラン】「ん?」
【リュウラン】「あ、ルイ覚えてたんだ。今日が母さんの命日だって」
【ルイ】「まぁな…」
風が二人の間を吹き抜ける。
リュウランの髪が風に揺れ、靡く。

*こんな所で何してるんだ?

【リュウラン】「え?」
【リュウラン】「あー…、うん。今日は母さんの命日だから」
【ルイ】「あ、あぁ…。悪い、そうだったな」
風が二人の間を吹き抜ける。
リュウランの髪が風に揺れ、靡く。


【リュウラン】「私の大事な家族だもん。寂しくないように顔は見せなきゃね」
風で乱れた髪を耳に掛け、リュウランは虚空を見る。
その表情が少し儚げに見えて、ルイは少し心配になった。
【ルイ】「リュウラン…」
【リュウラン】「さてと、早く帰って神子の仕事しなきゃね!ほら、ルイも帰ろう!」
明るい笑顔と共に先を切って走り出すリュウラン。
その様子にルイは一瞬唖然としたが、次の瞬間、軽く笑いながらルイもその後を追った。

神子とは一般的に、守護石に祈りを捧げ、村の平安と安泰を願うのが仕事だ。
また、守護石というのはその地を加護する精霊が宿ると言われている石である。
この神子の役目は村長の子供が代々受け継ぐもので、今は村長の息子であるルイと幼馴染であるリュウランがその役目を担っていた。


【ルイ】「いっつも思うけどさ、この山…道登るの、きつくないか?」
【リュウラン】「何言ってんの、ルイ。そんな事でへこたれてちゃ、神子としての役目は果たせないぞ」
ニッコリ微笑んで、リュウランは背後をついて来るルイを振り返る。
【ルイ】「別にへこたれてるわけじゃないけどさ…でなきゃ、八年間もこんな事してないよ」
【リュウラン】「それもそうだね」
幼い頃からずっと、毎朝この山道を登り、神子としての務めを果たしてきたルイとリュウランだ。
それ並みに足腰は強い。

【ルイ】「さてと、祠にも着いたし、いつもみたいにお祈りして帰ろうぜ」
【リュウラン】「村が平和でありますように…ってね」
【ルイ】「つってもさ、帝国支配が根付いてるって言ってもこの村は平和だよな」
【リュウラン】「いい事じゃない。平和が一番でしょ」
祠の前でルイとリュウランは笑いながら、そんな話をした。

【ルイ】「…なぁ、リュウラン?この祠ってこんなに明るかったか?」
守護石の祭られる祠に足を踏み入れた時、ルイがそう言った。
普段、薄暗いはずの祠の中が今日は妙に明るい。
【リュウラン】「うん……、何かいつもと違うよね」
相槌を打ったリュウランと共にルイは不審に思いながらも足を進める。
そして、その理由が理解出来たのは、守護石の祭られた祭壇に辿り着いた時だった。
【ルイ】「しゅ…守護石が光ってる?」
祭壇に祭られた守護石が眩いばかりの光を放ち、祠内を明るく照らし出していた。
【リュウラン】「今までこんな事、なかったのに……」
ルイの隣でリュウランが驚愕の表情をしてそう呟く。
リュウランの言葉に同意しながら、ルイは無意識のうちに守護石に向かって手を伸ばす。
丁度、ルイの指先が守護石に触れようとしたその時―――
一瞬、目も開けられぬほどの光が守護石から発せられた。
思わず目を瞑ったルイとリュウランが次に目を開けた時、目の前に青白く光り輝く女性が悲痛な表情を浮かべてそこにいた。
【?】『…何という事でしょう…』
ルイとリュウランの心に直接響くような声…
それは何処となく、悲しげな声であった。
【ルイ】「え?だ…誰…?」
ポツッとルイが呟いた言葉に女性が微かに顔を上げる。
【マクスウェル】『我が名はマクスウェル…この地上全ての"マナ"を司る者』
【ルイ】「マ…マクスウェル?それって、精霊…?」
【マクスウェル】『………』
【リュウラン】「え?えっ…?」
ルイがそう言うと精霊・マクスウェルは悲しげな瞳でルイを見つめた。
【マクスウェル】『我が身に感じるこの力…。この大陸の中央…、そこに悪しき力を纏う星が現れました。

その星は必ずやこの世界に災いをもたらす…』
【マクスウェル】『そうなれば、もうこの崩壊のループは止まらない』
【ルイ】「この世界に災いが…?」
【マクスウェル】『そうです。そしてその災いを食い止める事が出来るのは、ルイ――――――あなたに宿る時の力のみ』
【ルイ】「はっ!?…お……俺!?」

*何かの間違いじゃ…

【マクスウェル】『いいえ、あなたから感じるこの力…間違える筈がありません』
【ルイ】「で、でも…俺が?」
精霊の言葉に驚いて、自信が無さそうにうろたえる。
【マクスウェル】『あなただけなのです、ルイ――――――世界の破滅を止められるのは』
【ルイ】「…でも、俺一人に何が出来るって言うんですか?」
【マクスウェル】『あなただけではありません。あなたの力に導かれし、十の守護者があなたを手助けしてくれる事でしょう』
【ルイ】「十の守護者?」
精霊の言葉にルイは首を傾げた。

*俺が世界を…?
;全員に+1

精霊の言葉に驚いて、自分を指差すルイに精霊は頷いた。
【マクスウェル】『あなただけなのです、ルイ――――――このループを止められるのは』
【ルイ】「で、でも、俺一人に何が出来るって言うんですか?」
しがない小さな村の神子でしかない自分に急に降りかかった大きな使命。
マクスウェルの言葉に、ルイは呆然としながら呟いた。
【マクスウェル】『あなただけではありません。あなたの力に導かれし、十の守護者達があなたを手助けしてくれる事でしょう』
【ルイ】「守護者達?」
マクスウェルの言葉にルイは首を傾げた。


【マクスウェル】『お願いです、ルイ。あなただけが――……』
段々か細くなる、声と共にマクスウェルの姿が消え始める。
【ルイ】「ちょっ、待って!まだ聞きたい事がある!時の力って何―――」
ルイの呼びかけよりも、精霊の姿が消える方が早かった。
言い終えるよりも早く、ビキビキッという音と共に守護石に亀裂が走り、もの見事に砕け散ってしまった。
砕けた守護石を呆然と見つめながら、ルイはマクスウェルの言葉の意味を考えていた。
【リュウラン】「…ルイ?今の、何?どういうこと?」
動かないルイに、背後でずっと話を聞いていたリュウランが心配そうに訪ねる。
【ルイ】「…俺だって分かんないよ。とにかく村に戻って父さん達と話したい。父さん達なら何か知ってるかもしれないし」
【リュウラン】「…うん、分かった」
何が何だか理解出来ない…そう思ったルイは村長に相談する為、リュウランを伴い元来た道を駆け戻った。
祠の出口がいつもより長く感じる…
やっとの事で祠を抜けたルイの耳に、悲鳴に近いリュウランの声が響いた。
【ルイ】「どうした!?」
【リュウラン】「ルイ!村の方から煙が!」
山の上から村の方を見下ろしたリュウランが青い顔をしてそう叫ぶ。
その言葉にルイの顔色もサッと青ざめる。
【ルイ】「行くぞ!」


ルイとリュウランが必死に山道を下って村に戻ると、あちこちで火の手が上がり、人々が怪我を負い倒れていた。
【リュウラン】「酷い…」
傷を負い、倒れた村人達を見て、リュウランは口元を両手で覆う。
【ルイ】「クソ!一体…、大丈夫か!一体何があった!?」
ルイは近くに倒れていた村人を助け起こし、事情を聞いた。
怪我を負い、意識が朦朧としかけていたが村人は一生懸命喋ってくれた。
【村人】「ルィ……そ、村長が…長が…………」
【ルイ】「!? 村長と長がどうした!?」
【村人】「あ、危ない……奴ら……向かった…そん、村長の家………」
そこまで聞いたルイの顔色がサッと変わる。
【ルイ】「リュウラン、村人の介抱を頼む!俺は村長と長を!」
【リュウラン】「分かった!気を付けて!」
リュウランにその村人を託すとルイは村長の家…つまり、自分の家に向かって全速力で走った。
【ルイ】(父さん!爺ちゃん!無事でいてくれよ!)

その時、村長の家では、村長と長が対峙するように三つの影と向かい合っていた。
前髪によって顔を半分隠している赤い髪をした男、その隣には水色の髪をした眼鏡をかけた女性。
そして、プラチナブロンドの幼い少女の三人だ。
【?】「もう一度聞く。…召喚石は何処だ?」
赤髪の男が凄みを利かせた口調で言う。
それに同乗するように水色の髪の女性が村長達を群青色の瞳で見つめる。
【?】「そろそろ観念しておいた方が身のためだと思いますよ」
【?】「こいつは私ほど気が長くはありませんからね」
忠告のようにも聞こえるが、それは明らかに"今喋らなければ、無事では済まない"と言っていた。
だが、凄みの利かせた目で見られようと、口調で脅されようと長は毅然とした態度で相手を見返した。
【長】「知らぬな……あれは伝説にしか謳われない古の遺物。そんな物、この世にあるわけないじゃろ?」
【長】「まさか、お主らはそんな世迷言を信じてこんな事をしでかしたのか?」
【?】「そんな伝説の遺物を我々は既に一つ持っている…と言っても?」
【長】「なっ!!なんと…」
女性がそう言うと長は驚愕の表情を顔に張り付かせた。
【?】「我々は二つある召喚石を集めねばならないのだ。ある奴のために…」
【?】「そういう事です。嘗て二つに砕けてしまったと言われる召喚石の片割れは既に我々の手中にあります」
【?】「一つが存在したという事は、もう一方もあるという事」
【長】「それがここにあるというのか?」
【長】「馬鹿馬鹿しい!こんな所にあるわけなかろうが」
【?】「………本当にないのか?」
あっさりと存在を否定する長に赤髪の男は疑いの視線を浴びせる。
【?】「言わないと死にますよ」
今まで、穏やかだった水色の髪の女性が腰から細長い剣を引き抜き、長の喉元に突きつける。
それにやや気持ちが穏やかでなくなる村長に反して、クスクス笑う声がする。
【?】「セッちゃんの言うとおりに素直に言っておいた方がいいよ?」
【?】「――言ってしまえば、殺されずにすむかもしれないんだから」
まだ幼い少女は見る者が寒気を感じるような冷笑を浮かべる。
だが、その言葉にも、喉元に突きつけられた剣を見ても、長は怯まなかった。
【長】「脅しても無駄じゃ!無い物は無い!何度言わせる!」
はっきりとした長の言葉に赤髪の男と水色の髪の女性は沈黙のまま探るような視線を向けた。
長も黙って、そんな二人を毅然と見つめ返す。
しばしの沈黙がその場を包み込んだ―――
やがて、水色の髪の女性が諦めたように溜息をついて、剣を引っ込める。
【?】「…そうですか」
【?】「では、ラジノイド、一旦戻ろう」
【ラジノイド】「何故だ、セルコウシュ!こいつを締め上げれば、白状するかも知れんのだぞ!?」
【セルコウシュ】「その方は何があろうとそれ以上の事は言わないでしょう…例え、死んだとしても」
【セルコウシュ】「そういう者が一番面倒だ。本当に無かった場合、時間の無駄もいい所だしな」
セルコウシュと呼ばれた水色の髪の女性がそう言ったが、ラジノイドはまだ納得しきれないようだった。
だが、突然幼い少女がセルコウシュの服の袖を引いて注意を促した。
【セルコウシュ】「何だ、シャライヤ?」
【シャライヤ】「あのね、シュラからテレパシー」
【シャライヤ】「セッちゃんとラッちゃんに、"一時帰還せよ"とレイちゃんからの命令だって」
【セルコウシュ】「そうか…」
【セルコウシュ】「だそうだ、ラジノイド。今回は一先ず引こう」
そう言われてはラジノイドも引くしかないのか、睨むように見ていた長から視線を外した。
【ラジノイド】「分かった」
【ラジノイド】「……だが、迷惑双子妹。その呼び方は止めろ」
ラジノイドがそう言うとシャライヤと呼ばれた少女の口調が変化した。
【シャライヤ】「『お似合いじゃねぇかよ、ラッちゃん』…だって」
からかうような笑みを浮かべながら、シャライヤがそう言うとラジノイドは肩を微かに震わせた。
笑いではなく、込み上げてくる怒りで震えている。
【ラジノイド】「迷惑双子妹…今すぐ、そのお前の頭に呼びかける迷惑双子兄に伝えろ」
【ラジノイド】「今すぐその生意気な口をどうにかしないと、俺がその口、二度と開けないようにしてやると」
【シャライヤ】「シュラから伝言……『できるもんならやってみろよ、鈍足ラジ!』」
【ラジノイド】「このっ!?」
【セルコウシュ】「まぁ、落ち着け。そんな事でいちいちキレてたら、シュラとシャラの思う壺だ」
怒った勢いで剣を抜きかけたラジノイドの手を止めて、セルコウシュが宥める。
【セルコウシュ】「とりあえず、帰ろう。レイからの帰還命令という事は他の者も帰って来るという事だ」
【ラジノイド】「チッ!」
【セルコウシュ】「では、我々は帰ります。…皆さんお大事に」
その三人が姿を消したのと、ルイが家の扉を開けたのはほぼ同時だった。
【ルイ】「!! 父さん!爺ちゃん!無事!?」
【村長】「おぉ、ルイ…!無事だったか…こちらも心配ない、私と長は無事だよ」
村長がそう言うとルイは一先ず胸を撫で下ろした。
だが、安心してばかりもいられない。
【ルイ】「爺ちゃん、さっきの奴らは一体…?」
【長】「うむ、どうやらあの守護石を狙っているらしい」
【ルイ】「! 一体何で?あの守護石って、そんな特別な物なのか!?」
守護石は元々、その地を加護する精霊の力の一部が結晶化したものと言われている。
大きさの大小はあるし、宿っている精霊の力は場所によって異なるが、何処の町にも村にも必ずといっていいほど、祀ってある。
にも拘らず、それを狙って村を襲ったという連中がいる事をルイは訝しげに思った。
守護石からマクスウェルと名乗る精霊が姿を見せた事といい、訳が分からなくて、ルイは思わず声を荒げる。
すると、村長は長に視線を向けた。
視線を受けた長は軽く頷くと、静かに口を開く。
【長】「こうなっては、もう隠しておけんな……ルイ、今から言う事をよく聞くのじゃ」
真剣な顔をして、長が言うので、ルイは思わず姿勢を正した。
【長】「実は…あの守護石は、ただの守護石ではない。召喚石と呼ばれる古の代物じゃ」
【ルイ】「召喚…石…?」
【長】「その昔…"精霊の守り手"と呼ばれる古の一族がいた」
【長】「精霊と言葉を交わし、精霊をこの世に呼び出す事が出来る精霊に見染められた神の一族…」
【長】「そして、その一族が精霊長から授かった一族の宝こそ、あの召喚石じゃ」
【長】「神子とは、元々その宝を守る為に作られた言葉だったのだよ」
【ルイ】「神の一族…」
あまりに大きな話に、ルイは呆然とした。
【長】「最も、その一族は伝承の中でしか語られない伝説のようなもんじゃて」
【ルイ】「え?でも今、召喚石って…」
【長】「むぅ…」
【ルイ】「…伝説じゃ無かったんだろ?でも、何で石がこの村にあるんだ?」
【長】「……今から三十年ぐらい前の嵐の夜じゃったか。一人の少女がわしを訪ねて来た」
その時の風景を思い出すかのように、長は目を閉じて語り始めた。


【長】「白い竜のような精霊を従えて、その子は突然わしの目の前に現れた」
【長】「そして、自らを"精霊の守り手の一族"だと名乗り、あの召喚石をわしに差し出したのだ」
【?】『この石には強大な力が宿っています。欠片ではありますが、悪用されれば大きな災いが起こるでしょう』
【?】『どうか、この石をこの村に隠して貰えませんか?』
【長】『構いませんが……何故、ここに?』
【?】『この村には、何か神聖な…精霊の力が息づいているのを感じます。他の地では、おそらく召喚石から漏れ出す力を誰かが感じ取ってしまうかもしれません」
【?】『でもここなら、精霊の力が上手くこの召喚石の存在を隠してくれると思うのです』
【?】『だから、この村でこの石を守ってほしいのです…世界の破滅を防ぐ為には、これしか―――』


【長】「そう言って、少女はわしに石を託し、消えた……それから、わしは石をあの山の祠に隠したんじゃ」
【長】「そして、その石を守護石と偽り、神子としてその石を守ってきたのじゃよ」
【村長】「本当はお前が成人してから話す決まりだったのだがな…まさか、こんな事になるとは……」
頭を抱えて、村長が呟いた。
【ルイ】「…でも、奴らは何故、守護…じゃなかった召喚石を?」
【長】「それはわしにも分からん。じゃが、あのラジノイドとかいう赤髪の奴が"ある奴のために"と言っておった」
【長】「おそらく、何者かは知らんが、石の力を欲している者がいるのじゃろう。預かった石は割れた片割れ……石を一つの石に戻し、力を得ようとしとるんじゃろう」
ルイの言葉に、長がそう言って答えた。
それを聞き、ルイは少し思案してから、先程の出来事を話す為、口を開いた。
【ルイ】「父さん…実はさっきいつものように祠に行ったら、召喚石が光って、精霊様が現れたんだ」
【村長】「召喚石から精霊だと!?そんな馬鹿なっ!!」
驚愕の表情で村長がルイの言葉を繰り返した。
【長】「…それで、精霊様は何と?」
何か思う所があるのか長に冷静に先を促され、ルイは話を続けた。
【ルイ】「世界の中心に強力な魔力を持った破滅の星が現れた…その星は必ずこの世界に災いを招くだろう……と」
【長】「なるほど…、精霊様はその事を我々に伝えようとなさったのか」
唸るようにそう言って、長は考え込んだ。
そんな長にルイは少し言い辛そうにしながら、最も重要な部分を告げた。
【ルイ】「あの……それで、精霊様は"時の力"を持つ俺にそれを静めてくれって」
ルイがそう言うと村長と長は驚愕の表情で互いの顔を見合わせた。
【長】「時の力…まさか、孫の代でこのような事になろうとは……」
溜息を吐いて長がそう言うと、村長はその言葉に頷いてルイに視線を向けた。
【村長】「精霊様の言うようにお前が"時の力"を持っているのならば、この使命はお前にしか果たせない」
【ルイ】「その"時の力"って、一体何?」
【長】「”世に破滅の陰が現れた時、人ならざる力を授かった神の子が生まれる――”」
ルイの質問に答えるように、長が語りだした。

;おとぎ話 絵本風に

むかしむかしあるところに、とても貧しい村がありました。
村人たちが貧しいのは、悪い人達が村で暴れていたからでした。
村人たちはいつも怯えて、神様に助けて下さいと祈り続けました。

すると、その祈りは雲の上の神様に届いたのです。
しかし神様には、人を直接助けてはいけないという決まりがありました。
さて、神様は困ってしまいます。

「神様、神様。どうかこの子が、強く逞しく育ちますようにお守り下さい」
神様が頭を抱えていると、お腹の大きな女の人が神様にお祈りをしていました。
「そうだ!私の代わりをあの子に頼もう!」
そして、神様はその子に自分の力を分けてあげたのでした。

産まれてきた男の子はすくすくと成長し、やがて村一番の力持ちに成長しました。
「お父さん、お母さん。僕はこんなに大きくなる事ができました。これであの悪者たちをやっつけられます」
「お待ちなさい、お前一人では危ないわ。一緒に戦ってくれる人を集めなさい」
男の子はお母さんの言う通り、一緒に戦ってくれる仲間を集めました。

「キャ―――!!」
そんなある日、女の子が悪者たちに追いかけられていたのです。
男の子と仲間たちは力を合わせて悪者をやっつけることができました。
こうして村人を苦しめていた悪者はいなくなりました。
男の子は村の英雄になって、村にはいつまでも平和が続いたのでした―――


【長】「覚えとらんか?昔お前に聞かせてやってた話じゃ」
【ルイ】「あぁ…覚えてるよ?でも、こんなのどこにでもあるおとぎ話じゃ…」
【長】「いいや。かなり誤魔化してはいるが、本当の話を元にしているんじゃよ」
【村長】「あれは初代皇帝ムシルリの話が元になっているんだ。詳しい歴史書にはムシルリには特別な力があったらしいと記録されている」
【ルイ】「もしかしてその力っていうのが?」
【長】「そうじゃ。そして精霊についての歴史書には、時の力について僅かに記録が残っておる」
【村長】「時の力とは、精霊を治める精霊長の力の一部…この世の摂理に、精霊自身が関わる事は互いの秩序を乱す事となる」
【村長】「だが、世界の危機は精霊の世界をも犯す事…その為、精霊長は人の手で世界の危機を救う為に、力の一部を人に授ける。それが"時の力"だ」
【ルイ】「世界を救う力…」
【村長】「そうだ…そして、その力を持つ者が現れるという事は、同時に世界の崩壊が近い事を意味する」
【村長】「精霊様自らそう言っておられたという事は、本当に世界は近いうちに崩壊するやもしれん」
【ルイ】「それで、俺の力が必要なんだよな…」
村長の言葉にルイは静かに目を閉じた。

*分かった
;全員+1

しばしの沈黙の後、目を開けたルイの目に迷いはなかった。
【ルイ】「俺なんかが本当に世界を救えるか、何て分からない」
【ルイ】「――でも、俺行くよ。精霊様の言っていた破滅の星はきっとさっきの奴らの事…放っておくわけにはいかない」
【村長】「…ありがとう、ルイ」
真っ直ぐな瞳でそう言ったルイに、村長は思わず涙ぐんだ。

*俺にはとても…
;全員-1

【長】「…。ルイ、まだ若いお前には少々過酷かもしれんが、わしからも頼む。この世界を救って欲しい」
【長】「わしも出来る事なら協力したいが歳が歳だ。ついて行った所で足手まといは確実じゃて」
【村長】「同じ事を言うが、お前にしかこの使命は果たせない…だから、頼む」
【ルイ】「爺ちゃん…」
二人に懇願の目で見られ、ルイは小さく頷いた。
【ルイ】「分かった。…俺なんかが本当に世界を救えるか、何て分からない」
【ルイ】「でも俺にしか出来ないっていうなら、行くよ」
【ルイ】「精霊様の言っていた破滅の星はきっとさっきの奴らの事…放っておけないだろうし」
【村長】「…ありがとう、ルイ」
戸惑いながらも真っ直ぐな瞳でそう言ったルイに村長の涙腺が緩む。


【リュウラン】「もちろん私も連れて行ってくれるでしょ、ルイ?」
いつからそこにいたのか、リュウランがニッコリ笑って扉の陰から顔を出す。
【ルイ】「リュウラン!お前、いつからそこに…っていうか、話聞いて……」
【リュウラン】「バッチシ!」
Vサインを突き出してニッコリ笑うリュウランにルイは溜息を吐いた。

ついて来ちゃ駄目だぞ
どうせついてくるんだろ?


*ついて来ちゃ駄目だぞ

【リュウラン】「えー?何でよー!?」
【ルイ】「遊びに行くわけじゃないんだ。危ないんだぞ」
【リュウラン】「何よ!でもいいもん、こっちにも考えがあるから!」
ふん、とそっぽを向いたリュウランを見てルイははっとした。
【ルイ】「お前、まさかこっそりついて来る気じゃないだろうな?」
【リュウラン】「………」
【リュウラン】「なんで分かっちゃうかな〜?でもま、そうゆう事だから」
胸を張ってそう言い切るリュウランにルイは頭を抱えた。
【ルイ】「分かったよ…」
【リュウラン】「やった!」
【リュウラン】「という訳で、村長!私も一緒に行きますね!」
【村長】「あぁ…二人とも気を付けるんだぞ。だが、今日は怪我人の手当てを手伝って、明日の朝、出発してくれないか?」
【リュウラン】「はい」
村長にそう言われ、ルイとリュウランは怪我人の手当てに回った。

【村長】「…良かったのですか?リュウランまで」
ルイ達がいなくなった部屋で、村長は長に尋ねた。
【長】「お前はわしが何故ルイ以外に神子としてリュウランを選んだか、知っておるじゃろう?」
【村長】「えぇ…まぁ……」
【長】「あの子は成長する毎に彼女の面影を帯びる…これも、おそらくは精霊のお導きなのじゃよ」
そう言って、長は静かに立ち上がると部屋の奥へ消えた。
<共通ルートに合流する>

*どうせついてくるんだろ?
;リュウラン+1

【リュウラン】「もちろん!当たり前じゃない」
胸を張ってそう言い切るリュウランにルイは頭を抱えた。
【ルイ】「分かったよ…」
【リュウラン】「やった!」
【リュウラン】「という訳で、長!私も一緒に行きますね!」
【長】「あぁ…二人とも気を付けるんじゃぞ。しかし、今日は怪我人の手当てを手伝って、明日の朝、出発してくれないか?」
【リュウラン】「はい」
長にそう言われ、ルイとリュウランは怪我人の手当てをする為、部屋を出て行った。

【村長】「…良かったのですか?リュウランまで」
ルイ達がいなくなった部屋で、村長は長に尋ねた。
【長】「お前はわしが何故ルイ以外に神子としてリュウランを選んだか、知っておるじゃろう?」
【村長】「えぇ…まぁ……」
【長】「あの子は成長する毎に彼女の面影を帯びる…これも、おそらくは精霊のお導きなのじゃよ」
そう言って、長は静かに立ち上がると部屋の奥へ消えた。

<共通ルート>
【ルイ】「よかった。死人は出てないみたいだ。皆軽症だし、気を失ってるだけだな」
【リュウラン】「良かったね!」
怪我人の手当てをしながら、リュウランはルイに向かってニッコリ笑う。
だが、対するルイは曖昧に微笑んだだけだった。
【ルイ】「でも、皆ホント急所を綺麗に外れてる…まさか、わざと?」
【リュウラン】「どうでもいいじゃん、そんな事!皆、生きてるんだから」
【ルイ】「……そうだな」
リュウランの言葉にとりあえず納得したが、ルイの頭には何か引っかかりが残った。


その頃、本拠地に帰って来たセルコウシュとラジノイドはホールのような広い場所に佇む男女を見つけた。
【ラジノイド】「アヴェロ、ネアン、…お前達も帰還命令か?」
【アヴェロ】「おぉ、お前らもか?」
【セルコウシュ】「あぁ、シャラにシュラからの連絡が入ってね」
【アヴェロ】「そうか、俺達の所にはシュラが直々に来たぞ。ネアンを怒らせて、帰っちまったけどな」
微かに笑いながらそう言ったアヴェロという男をネアンと呼ばれた金髪の女性が軽く睨みつける。
【ネアン】「で、どうだったんだ?」
【ラジノイド】「ハズレだ」
【ネアン】「そうか…じゃあ、お互い無駄足だったみたいだな」
【セルコウシュ】「という事はそっちもか?」
セルコウシュがそう言うとアヴェロは軽く肩を竦めて見せた。
その辺りはツーカー・・・言わなくても通じる。
【ラジノイド】「クソッ!一体何処に」
【セルコウシュ】「これはただの推測だが、石はやはりあの村にあったのかもしれないな」
【ラジノイド】「!! どういう事だ、セルコウシュ!」
セルコウシュの言葉にラジノイドが過剰に反応する。
【セルコウシュ】「長はさて置き、あの村長…明らかに動揺していた。何かを隠しているような、ね」
【ラジノイド】「じゃあ、何故あの時無理にでも吐かせなかった!」
【ネアン】「言えるな。どういう事だ、セルコウシュ?」
ラジノイドに続いてネアンもセルコウシュを見つめる。
【セルコウシュ】「…何かとてつもない力が近付いて来るような気がした。危険だと感じるような何かが…」
【アヴェロ】「お前がか?珍しいな」
セルコウシュの言葉にアヴェロが意外そうな声を上げる。
【ラジノイド】「俺も微かに妙な気は感じた。だが、別に大したことはなかったぞ」
【セルコウシュ】「そうか?私はそうは思わなかった」
その場に沈黙が伝わる。
まるで、その空間に浸透するように広がる沈黙だったが、妙に明るい声でそれは遮られた。
【?】「何、真剣な顔して話し合ってんのさ?」
ホールの真横にある階段からそう言う生意気そうな声。
それは二階のフロアに立つ一人の少年から発せられたものだった。
シャライヤによく似た顔立ちの少年が手すりに寄りかかって、セルコウシュ達を見下ろしている。
【ラジノイド】「シュライヤ…何か用か?」
不機嫌そうな顔をして少年を見上げるラジノイド。
それに対して、シュライヤと呼ばれた少年は軽く肩を竦めた。
【シュライヤ】「別に?大人同士の話を続けるなら言わなくても構わないけど」
【ラジノイド】「言え。レイからの伝言か?」
【シュライヤ】「違うよ、ゲルドからの報告。奴らが等々動き出したらしいよ」
シュライヤがそう言うと皆の表情が変わった。
【ラジノイド】「そうか…やっと、まともに戦えるのか。楽しみだな」
【アヴェロ】「最近、石探しばっかりやってたから、体が鈍ちまったかもな?」
そう言いながら、腕を振り回すアヴェロ。
【セルコウシュ】「お前に限ってそんな事はないだろう」
【ネアン】「そうだな。お前、それしか取り柄が無いんだしな」
セルコウシュの言葉にネアンが鼻で笑う。
【アヴェロ】「つめてーな…」
冷たい二人の言い草にアヴェロは苦笑気味に笑う。
【シュライヤ】「詳しい話は玉座の間で皆が揃ってからするらしいよ。早く上がって来たら?」
【シュライヤ】「あんた達以外のメンバーは皆揃ってるし。あんた達待ちだよ」
手すりの上で頬杖をついて、シュライヤがそう言う。
【アヴェロ】「だそうだ。とりあえず、広間に行くか」


【ルイ】「じゃあ、父さん、爺ちゃん!行って来ます」
【リュウラン】「行って来ま〜す!」
村を襲撃されてから2日目、ルイとリュウランは村長と長の見送る中、旅立った。
世界を救う為の旅へ――――――――

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ライン

【シナリオ2】

コルの村を出て、始めに立ち寄った場所はマニラと呼ばれる町だった。
【リュウラン】「結構大きな町だね、ルイ」
町を見回してリュウランがポツッと呟く。
【ルイ】「何言ってんだよ、リュウラン。こんなのまだ小さい方なんだぜ」
村長にもらったシャルグニア大陸の地図を広げながら、ルイはそう言い返した。
ルイの言い草に少しつまらなさそうな表情をしながら、リュウランもルイの持つ地図を覗き込む。
【リュウラン】「そういえば世界を救うって村を出て来たけど、実際何処に行くつもりなの、ルイ?」

*えーと…?
;リュウラン-1

【リュウラン】「もー、ルイってば!しっかりしてよ」
【ルイ】「ご、ごめんごめん」
しばらく考えてみて、ようやく思い出した。
【ルイ】「そうだそうだ!精霊様が"世界の中心に破滅の星が現れた"って言ってたから、とりあえずこの大陸の中心地に行ってみようと思ってたんだ」
【リュウラン】「ここだね。でもさ、ここって確か帝国軍の本拠地じゃなかったっけ?」
ルイがそう言うとリュウランは地図の中央を指差して、首を捻った。
【ルイ】「そうなんだよな…って事は帝国軍が精霊様の言う破滅の星になるのか?」
【ルイ】「でも帝国軍なんてずっといたし、この前の奴らは軍人じゃなかったような気もするんだけどな」
【リュウラン】「う〜ん…難しいね」
【ルイ】「だよな」
溜息をつきながら、ルイは地図をしまった。

*目星はつけてるよ
;全員+1

【ルイ】「精霊様が"世界の中心に破滅の星が現れた"って言ってたから、とりあえずこの大陸の中心地に行ってみようと思うんだ」
【リュウラン】「ここだね。でもさ、ここって確か帝国軍の本拠地じゃなかったっけ?」
ルイがそう言うとリュウランは地図の中央を指差して、首を捻った。
【ルイ】「そうなんだよな…って事は帝国軍が精霊様の言う破滅の星になるのか?」
【ルイ】「でも帝国軍なんてずっといたし、この前の奴らは軍人じゃなかったような気もするんだけどな」
【リュウラン】「う〜ん…難しいね」
【ルイ】「だよな」
溜息をつきながら、ルイは地図をしまった。


過酷だとは分かっていたが、自分の運命の複雑さに溜息が出てしまう。
【リュウラン】「元気出して、ルイ!まだ歩き始めたばかりじゃない!」

*…帰りたい
;全員-1

【リュウラン】「ルイ〜?」
【ルイ】「…分かってるよ、大丈夫だって」
そう話している途中、ふと奇妙な声が聞こえた。
【?】「シャゲ―――――――――ッ!!」

*あぁ…そうだな

【?】「シャゲ―――――――――ッ!!」
リュウランの励ましの言葉に頷いたルイとほぼ同時に突然奇妙な声が聞こえた。


ビックリして周囲を見回したルイだったが、何もない。
【ルイ】「?」
【?】「シャゲ―――――――――ッ!!」
また聞こえる妙な声―――
しかも、何故かその声はルイの足元から聞こえる。
不審に思って、恐る恐る足元を見たルイは奇妙な物体と目が合った。
【ルイ】「う………うわぁ!!何だ、これ!?」

*キモッ!!
;ナイア-3

【リュウラン】「キモッ!って…ちょっと可哀想じゃない」
【ルイ】「で、でもさ?そう思わないか?」
その奇妙な物体を指さして、何とも言えない顔でリュウランに問いかける。
【リュウラン】「でもモルボルって大概こんなだったと思うし…」

*一体どこから?
;ナイア+1

ビックリして思わず後ず去ったルイをしり目に、その奇妙な物体がまた妙な声を上げる。
【リュウラン】「これ、モルボルだよ…珍しい」


【ルイ】「な、何だよ…お前、その妙な生き物知ってんのか?」
【リュウラン】「うん。前、本で見た事があるんだ。本のとちょっと違う気がするけど…何か頭がいいんだって」
【ルイ】「これが?」
背後のルイにそう言ってからリュウランはその生き物に触れようとしたが、その生き物はリュウランの手をすり抜け、何故かルイの足元に引っ付く。
【リュウラン】「アハハハ…ルイ、懐かれちゃったみたいだね」
【ルイ】「嬉しくないって!」

*あっち行けよ!
;ナイア-1

しっしっと追いやっているとふいに背後から大きな声が聞こえた。

*一体何なんだ…

笑うリュウランを余所に、本当に嬉しくないルイはじりじりと後ずさる。
その時――――


【?】「あー!やっと見つけたぞ!そんな所にいたのか、もるぼる!」
そんな声と共にルイ達の方へ駆けて来る少年の姿がルイの目に映った。
派手な緑色の髪、緑の瞳を持った少年だ。歳はルイよりも下に見える。
【?】「悪い!俺のもるぼるが迷惑かけなかったか?」
謝りながら、近付いて来たその少年はルイの顔を見るとハッとした表情になってその場に固まってしまった。
緑色の瞳が食い入るように見つめてくるので、さすがのルイも少したじろいだ。

*(すっごい見られてる…?)
;ナイア+2

【ルイ】(な、何だ…?こんな食い入るように見つめて…)
チラッと少年の方に目線をやるとじっとルイを見つめていたその目とかちあった。
それでもじっと見るのを止めない少年に、ルイははっとした。
【ルイ】(…!?)
【?】「! あっ!悪い!あんたが死んだ俺の兄貴に似てたもんだから、つい」
照れ臭そうに少年は頭を掻いた。
【ルイ】(……ほっ)
アハハ、と力無く笑っているとリュウランがすぐ隣にやってきた。

*な…何?

【?】「! あっ!悪い悪い!あんたが死んだ俺の兄貴に似てたもんだから、つい」
照れ臭そうに少年は頭を掻いた。


【リュウラン】「ルイに似てるお兄さん?」
【?】「あぁ、凄くそっくり!マジでビビッた!ただ、兄貴はこんな長い髪じゃなかったけどな」
そう言いながら、少年がルイに近付いた瞬間、ルイの体が何かに反応した。
痺れるような感覚が一瞬だけ、ルイの体を襲う。
【ルイ】「な、何だ?」
【?】「な、何なんだ、これ!?」
突然発せられた大声にルイはハッとして、少年の方を見た。
少年のしていたネックレスが光り輝きながら、ルイの立っている方を指している。
その光景にギョッとしたのは、リュウランも同じで、少年の光るネックレスとルイの顔を交互に見ていた。
やがてその光が収まり、ネックレスも元のように戻ると少年がルイの顔を食い入るように見つめながらこう言った。
【?】「もしかして……あんたが兄貴の言ってた、俺の仕える人…か――?」

あのまま、あそこで立ち話というのも何だったので、あの後、ルイ達は少年を引き連れて近くにあった店に入った。
少年は名をナイアと名乗った―――――――――
【ルイ】「聞かせてくれないか?さっきの言葉の意味」
【ナイア】「? あんた、知らないのか?」
【ルイ】「あぁ、まったく、何が何だか」
【ナイア】「俺のこのネックレスにはチュリっていう特殊な宝石がついてるんだ。チュリってのが、何か知ってる?」
ネックレスを首から外して、そう言うナイアにルイは首を振った。
【ナイア】「チュリってのは何百年も前からある宝石でいろんな力が宿ってる石なんだ」
【ナイア】「こいつには魔術の元になる"マナ"が詰まってて、多少の魔力があれば誰だって魔術が使えるらしいぜ」
【ルイ】「らしい?」
【ナイア】「あー、まぁ、俺も詳しく知ってる訳じゃないんだ」
【ルイ】「ふーん…そんな石があるんだな」
説明してくれたナイアに対し、ルイは素直に感心する。
【ナイア】「このチュリは元々俺の兄貴の物だったんだけど、兄貴が死ぬ時俺に託したんだ」
【ナイア】「その時、兄貴は"そのチュリが反応した人間に仕えろ"って俺に言った」
【ルイ】「ちょ、ちょっと待て!じゃあ、まさか俺が?」
ルイが慌ててそう言うと、ナイアは力強く頷いた。
【ナイア】「あぁ。チュリが明らかにあんたに反応したんだから、俺はあんたに仕える!兄貴の遺言でもあるし、何より俺がついて行きたい!」
【ルイ】「で、でもだな…」
【ナイア】「あんたが何と言っても無駄だぜ!俺、絶対ついて行くからな!」
テーブルから身を乗り出してナイアはそう言った。

……分かった
そのモルボルもついてくるのか?


*……分かった
;ナイア+1

無言で見つめ合う事数秒…ルイは深々と溜息を吐いた。
【ルイ】「分かった…一緒に行こう」
【ナイア】「!」
【ルイ】「…改めて、ルイだ、よろしくな、ナイア」
【リュウラン】「私はリュウランだよ、よろしくね」
【ナイア】「やった!こっちこそよろしく!ルイ、リュウラン!」
ナイアは嬉しそうにそう言うと、ルイとリュウランの手を取ってブンブンと音がするほど、振った。
その横でナイアのペットだという、もるぼるも嬉しそうに奇妙な声で鳴く。
【ルイ】(無事に終わるんだろうな、この旅…)
妙な仲間が増えた事でルイは些か頭を抱えた。
これが運命によって決められた事柄とはつゆ知らずに―――――――――
<共通ルートに合流する>

*そのモルボルもついてくるのか?

【ナイア】「ああ、もちろん。こいつは俺の相棒だからな」
【ルイ】「…そうか、ついてくるのか」
チラッともるぼるの方を見る。
【リュウラン】「なーにールイ?もしかして…怖いの?」
ルイを覗き込んでくすくすと笑う。
【ルイ】「違うって!」
【ナイア】「大丈夫大丈夫!もるぼるは他の奴と違って大人しいから心配すんなよ」
ナイアも笑いながらルイの肩を叩く。
【ルイ】「だから違うって!」
【ナイア】「まぁまぁ。…でさ、俺達は一緒に行ってもいいのか?」
急に真面目な顔になって話を元に戻された。
ルイは少し考えた後、大きく頷く。
【ルイ】「あぁ、一緒に行こう。改めて…ルイだ。よろしくな、ナイア」
【リュウラン】「私はリュウランだよ、よろしくね」
【ナイア】「やった!こっちこそよろしく!ルイ、リュウラン!」
ナイアは嬉しそうにそう言うと、ルイとリュウランの手を取ってブンブンと音がするほど、振った。
その横でナイアのペットだという、もるぼるも嬉しそうに奇妙な声で鳴く。
【ルイ】(無事に終わるんだろうな、この旅…)
妙な仲間が増えた事でルイは些か頭を抱えた。
これが運命によって決められた事柄とはつゆ知らずに―――――

<目次に戻る>

ライン

【シナリオ3】

ナイアともるぼるという仲間をマニラの町で加えたルイとリュウランは中央地を目指す為、次の町・カラミラに辿り着いた。
マニラよりも些か規模の大きな町、それがカラミラだった。
【ルイ】「ナイア、もるぼるはちゃんとついて来てるな!」
【ナイア】「大丈夫だ、ルイ!俺がちゃんと抑えてるって!」
ここに着くまでに何度か行方知れずになりかけたもるぼるを心配してそう言ったルイに対し、ナイアが気楽そうに言った。
【リュウラン】「それにしても、綺麗な町だね。町の中に川が流れてるよ」
【ナイア】「カラミラは別名・水の都って呼ばれるほど水が豊富な町だからな」
【ルイ】「へぇ、詳しいな、ナイア」
リュウランに説明しているナイアに対して、ルイは感心の言葉を述べた。
【ナイア】「これでも、俺は修行の為にいろんな所歩いたりしたからな。ここも何度か来た」
頭の後ろで手を組んで歩きながら、ナイアは得意げに言う。
ナイアの前方ではリュウランがもるぼると戯れている。
【ナイア】「で、この町で何するんだ?目指すのは中央だろ?」
【ルイ】「とりあえず、山を越えなきゃいけないから食料とか買い込んどこうかなって」
【ナイア】「じゃあ、ショップだな!ええっと…何処にあったかな?」
【ルイ】「その辺の人に聞いてみるか?」
その時、歩き始めようとしていたナイアが前方から歩いて来た男性に派手に正面からぶつかった。
【ナイア】「いってぇ!!」

*馬鹿だな

【ナイア】「ちぇっ、何だよー」
【ルイ】「ちゃんと前見て歩かないからだぞ」
ルイがそう言って尻餅を着いたナイアを注意すると何がおかしかったのか、ナイアはクスクス笑い出した。

*大丈夫か?
;ナイア+1

【ルイ】「ちゃんと前見て歩かないからだぞ」
ルイがそう言って尻餅を着いたナイアを注意すると何がおかしかったのか、ナイアはクスクス笑い出した。


【ルイ】「? 何だよ?」
【ナイア】「いや、ルイのその言い方、益々兄貴にそっくりだなって思ってさ」

*これからは兄貴って呼んでもいいぞ
;ナイア+1

そう言って助け起こすための手を差し出す。
【ナイア】「気持ちだけ貰っとくよ。ルイはルイ、兄貴は兄貴だしな」
差し出された手を取るとニッと笑ってそう言った。

*俺は兄貴じゃないぞ
【ナイア】「分かってるよ」


そんな他愛のない会話を続けていたルイとナイアの前に暗い影が突如現れた。
二人が顔を見上げるとかなりの長身とも言える男が青い筋を額に浮かべながら、二人を見ている。
それが、さっきナイアが正面衝突した男だと気が付くのにルイはしばらくかかった。
【ルイ】(そういえば、放ったままだった…)
【ルイ】「すいません、連れの不注意で…」
【男】「不注意でだと!倒れた俺を放って笑っていやがったくせに!謝る事はそれだけかよ!」
慌ててルイが謝ったが、もはや時既に遅しだったらしい。
自分達が完全に無視したと思い込んでいるその相手はかなりお冠だ。
【男】「見ろ!そこのチビがぶつかってきたせいで顎を強打しちまったじゃないか!」
赤くなった顎を指差して男は喚く。
どうやら、長身だった男の顎の部分にナイアの頭がクリーンヒットしたようだ。
【ナイア】「何だよ、それくらいで!図体デカイ奴がそれくらいの事でグダグダ言ってんじゃねぇよ!」
ルイの目の前でナイアが怒ったような表情でそう言いながら立ち上がるのを見て、ルイはギョッとした。
どうも、チビ呼ばわりされた事が頭にきたらしい。
【男】「何だと、このチビ!」
【ナイア】「何だよ、でくの坊!」
やがて、ナイアと男との間で火花が飛び散り出す。
どうしようもない状態に陥りかけ、ルイはナイア達の背後で頭を抱えた。
今にも彼らの間で乱闘が始まりそうになったその時、背後から聞きなれない声が聞こえてきた。
【?】「あなたたち、何をしているの!?」
慌てた様子で男とナイアの間に割り込んできたのは、美しい女性だった。
【?】「ごめんなさい、弟がとんだ失礼を…あの、私に免じて許してやってはいただけませんか?」
ナイアを背にやりつつそう懇願する女性に、ルイもナイアも呆然としていた。
【男】「あんたが代わりに詫びいれてくれるってか?ねぇちゃん」
先程まで顔を真っ赤にして怒っていた男が、下卑た笑いを浮かべている。
【?】「もちろんです。ただ、ここでは……あちらへ参りましょう」
男の背を押し、建物の陰へ行こうとする女性を見てルイは意識を取り戻した。

*ま、待って!

【?】「大丈夫。心配しないで待ってて」
声をあげて引きとめようとしたが、女性はにっこり笑って足を止めることなく行ってしまった。

*その人実は…!
;ラフィ+1

【ルイ】「その人、俺たちの姉さんじゃありません!だから…」
声をあげて女性を引きとめる。
すると、足を止めてルイの元へ向かってきた。
【?】「大丈夫、心配しないで」
ルイの頭を抱くような形で女性は手を伸ばした。
そしてルイの耳元へ唇を寄せる。
【?】(お話は後にしましょう。今はおとなしく待っていて下さい)
【ルイ】「!」
しっかりと落ち着いた声でルイにそう言うと、女性は男の元へ戻り、建物の陰へと消えていった。


【リュウラン】「ちょっとルイ!あの女の人大丈夫なの!?助けに行かないと!」
【ルイ】「分かってる。ほらナイア!」
【ナイア】「分かってるよ!」
【ルイ】「リュウランはここで待ってろよ」
そう告げると、二人は息を潜めて建物へと近付いた。
流石に大人と子供の体格の差があるため、不意を突こうという作戦だ。
少しずつ近付いていくと、話し声が聞こえてきた。
【男】「さぁ〜て、どこから手をつけようか…」
【?】「待って下さい。私にさせてもらえませんか?」
【男】「おいおい、いやに積極的だな。そんじゃあ、遠慮なくしてもらおうか」
【?】「…」
次の瞬間、カチャカチャという金具の音が静かに響いた。
【ナイア】(ちょっ、ルイ!これ…これってアレか!?)
【ルイ】(落ち着けナイア!まだ始まってないから早く…)
そう言っているルイも顔を赤くしている。
健全な青少年には刺激が強かったらしい。
2人共、突入の足が固まってしまった。
【?】「あら…期待はずれですね」
【男】「あ?口を慎めよ。今からこれであんあん言わせてやるんだからな」
【?】「残念ですが…あんあん言うのは、あなたの方ですよ」
【男】「てめぇ!何を言…」
【男】「!?」

【男】「アッ―――――――――!!」

男の野太い叫び声が大きく響く。
その声に驚いて緊張が解けたのか、ルイとナイアの足は知らずのうちに現場へと踏み込んでいた。
【ルイ】「あ…」
【ナイア】「え…?」
ルイもナイアも目を疑った。
【?】「おや、来てしまったんですか?待ってて下さいって言いましたのに」
なんと女性の足元には、裸の男が丸くなっていた。
その体には、赤いミミズ腫れのような痕がいくつもついている。
【ルイ】「え…えっと…これは…?」
【?】「ちょっとお行儀が悪かったので、少しばかりお仕置きを、ね?」
にっこりとほほ笑んで、右手に持っていた鞭をパシンッと鳴らす。
すると足元で丸くなっていた男が、女性の足首を掴んだ。
【ルイ】「! あぶなっ…!」
【男】「じょ…女王様…も、もっと…」
【ルイ】「は?」
息遣いが荒く、頬も紅潮している。
女性の足に頬ずりをする男を見て、ルイは固まってしまった。
【?】「ふふ…残念ですが私は"男"、ですので女王様にはなれません」
にっこりと自分の胸に手を置く。
確かに胸に膨らみはなく、声も先程とは違い低いものだった。
【男】「お…お、お…お…」
【ナイア】「男――!?」

【リュウラン】「あ、帰ってきた!おーい!」
【リュウラン】「って、どうしたの二人とも?なんか疲れた顔してるけど…」
【ルイ】「…いや…」
【?】「とりあえず皆さん、あそこで休憩でもしながらお話をしませんか?」
リュウランと合流したルイたちは、手近にあったお店へ入ることにした。

【リュウラン】「ところであの、大丈夫でしたか!?あの男、随分といやらしい目であなたを見ていたから心配だったんですよ」
【?】「ふふ、ありがとうございます。でもその心配には及びませんよ」
【リュウラン】「へ?」
【ルイ】「いや…あのなリュウラン、この人…」
【ナイア】「男なんだって…」
【リュウラン】「は?え…お、男の人――!?」
【?】「しっ、お静かに。他のお客様に迷惑ですよ?」
【リュウラン】「あ、は、はい…すいません」
【ラフィエル】「驚かしてしまってすいません。私はラフィエル・レナザルス。れっきとした男です」
【ラフィエル】「ああいった輩には女性の振りをした方が穏便に事を済ませることが出来るので、その戦法をとっただけだけですよ」
【ルイ】(穏便…?)
ルイはあの男の変貌ぶりを見て、少し冷や汗が出た。
【リュウラン】「そうだったんですか。でも、助けていただいてありがとうございました」
【ラフィエル】「いいえ、私がしたくてしたことです。お気になさらずに」
【ルイ】(過程はどうあれ、助けてくれたんだよな?だったら悪い人じゃないか…)
【ルイ】「あの…助けてくれてありがとうございました。俺、ルイって言います。こっちはナイアです、よろしく」
挨拶として手を差し出す。
ラフィエルもルイの手を握り返したその瞬間、痺れるような感覚がまたルイの体に走る。
【ルイ】(また…この感覚?)
これで二度目になるその奇妙な感覚にルイは首を傾げる。
だが、まるでそれに反応するかのようにラフィエルのピアスが輝き出した。
突如、輝き出したピアスに驚いたのは当然ラフィエルも同じだった。
【ラフィエル】「私のチュリが…」
【ナイア】「チュリ?それもチュリなのか!?」
ラフィエルが呟いた言葉に思わず反応したのはナイアだった。
【ラフィエル】「そうか…」
【ラフィエル】(これが…あの人の言っていた…)
興奮気味のナイアを放って、ラフィエルはルイに向かって再度微笑んだ。
【ラフィエル】「そして、君が時の力を持つ…世界の破壊を防ぐ者、ですね」
【ルイ】「…何で…?」
【ラフィエル】「ふふ、不思議そうな顔をしていますね」
【ラフィエル】「――これはきっと、運命ってやつなんだと思いますよ。チュリに導かれて私は君に出会った」
はっきりとした口調でラフィエルは語る。
馬鹿みたいに口を開け、唖然とラフィエルを見つめるルイの頭にある言葉がリフレインされる。

【マクスウェル】『あなたの力に導かれし十の守護者達があなたを手助けしてくれる事でしょう』
マクスウェルが最後に残したあの言葉―――
その意味をルイはたった今理解した…


その数時間前、とある森の外れ…普段は静かなその場に悲鳴が響き渡っていた。
【兵士】「くそッ!何だ……何なんだ、あいつはッ!!」
【兵士】「後、何人生き残っている!」
【曹長】「分からない!皆、バラバラに………ぐあッ!!」
【兵士】「曹長!?」
生い茂る草木を掻き分け、ひたすら逃げていた四人の男は最後尾を走っていた曹長の悲鳴に思わず足を止めて、背後を振り返った。
うつ伏せに地面に倒れた彼の背中には、数本の小刀が突き刺さっている。
まだ生きているらしい彼は、痛みに耐えながら起き上がろうとしていた。
【?】「…見つけた」
そんな仲間を助けるか、見捨てるか四人が悩んだその声が聞こえた瞬間、一斉に声がした方を振り返った。
そこに立っていたのは、白銀に波打つ髪に銀色の瞳を持った青年…その髪や衣服は血に染まり、黒っぽく変色していた。
その姿を見た四人の脳裏には"逃げなければ"という警報が鳴ったが、それに反して足が全く動かない。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように、その青年から目が離せなかった。
【?】「逃がさない…」
青年が一歩近付く度に、男達はヒッと情けない声を上げた。
【?】「一匹たりとも生かさない」
その言葉と共に地面に倒れた曹長の横に立った青年は、起き上がろうとしていた曹長の背に刺さった小刀を思い切り足で踏みつけた。
【曹長】「ぐあぁあぁぁッ!!!」
背に刺さっていた小刀が、踏みつけられた事により曹長の体を貫通した。
肺を貫いたその一撃により、男は絶叫を上げてピクリとも動かなくなった。
しかし、青年は小刀を踏みつけるのを止めない。
【?】「何簡単に死んでんだよっ!こんなんじゃ、足りない…俺の…俺の気持ちは全然収まらねぇよっ!!」
もはや絶命した曹長の体を小刀で深々と磔にした青年は、固まっていた四人の男に目を向けた。
【?】「そっか…まだいたっけ……」
剣を踏んでいた足を上げ、青年は男達に再び近付いた。
【?】「あんた達は簡単に死ぬなよ…俺の、俺の気持ちが収まるまでなッ!!」
叫んで、青年は男達に襲いかかる。
現場の数メートル離れた所で、ネアンはその光景をジッと見つめていた。
【アヴェロ】「おぉおぉ…相変わらずエグいな、フェニの奴」
ガサガサと草を掻き分けながら近付いてきたアヴェロは、前方に広がる光景に苦笑した。
【ネアン】「片付いたのか?」
【アヴェロ】「一応な…つっても、ほとんどフェニが殺っちまって、俺の出番はほぼなかったぞ」
ネアンの横に並びながら、アヴェロが「そっちはどうだ?」と聞くと、ネアンは視線を前に戻した。
【ネアン】「後、あれだけだ」
【アヴェロ】「そうか……しかし、いつ終わんのかね…あの惨殺」
【ネアン】「ブライユの気が済むまでだろ?」
ネアンの言い草に、アヴェロは苦笑した。
【アヴェロ】「気が済むまで、ねぇ…それまでもつか?あいつら」
【ネアン】「まず、無理だろうな」
【アヴェロ】「まぁ、ああなったフェニは短気だしな……」
【アヴェロ】「っと、最後の一人死んだな」
最後の一人が完全に絶命したのを見届けて、アヴェロは立ち尽くす青年の元へ歩み寄って行く。
その後に、ネアンも無言で続いた。
【アヴェロ】「気ぃすんだか、フェニ」
アヴェロが声をかけるとフェニと呼ばれた青年は静かに振り返った。
先程までの狂気染みた視線と違い、今は何処かぽやんとした目でフェニは小首を傾げた。
【フェニ】「おっさん、姉さん………いたんだ」
【アヴェロ】「おいおい…今回一緒に来たの、俺らだろうが」
【フェニ】「そうだっけ?忘れてた…」
何処か呆けたような顔でそう言うフェニに、呆れたように笑いながらアヴェロは曹長の死体に刺さった小刀を見つめた。
【アヴェロ】「ところで、フェニ…この小刀、誰のだ?」
【フェニ】「…ローランに借りた」
【アヴェロ】「おいおい…また勝手に持って来たのか、お前?後で、怒られんぞ」
アヴェロがそう言うと、フェニはこてんと首を傾けた。
【フェニ】「おっさんが?」
【アヴェロ】「何で、俺なんだよ!お前だよ、お前!!」
【ネアン】「おい、漫才やってないで、終わったのなら帰るぞ」
アヴェロとフェニにそう言って、ネアンはさっさと一人で歩き始めた。
それにフェニも続き、二人に置いていかれる形になったアヴェロは頭を掻きながら後に続く。
三人が去った後には、無残な死骸がいくつも転がっていた―――

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ライン

【シナリオ4】

アジトに戻ったアヴェロ達は、玉座の間と称された広い空間に足を踏み入れた。
その場にはラジノイドやセルコウシュ、シュライヤの他に、玉座に腰かける金髪の男とその隣に佇む巨漢の男がいた。
【ラジノイド】「終わったのか?」
【アヴェロ】「あぁ、ついさっきな」
【シュライヤ】「つっても、おっさんはほとんど働いてないけどね」
ラジノイドの言葉に答えたアヴェロに、何故かシュライヤが突っ込んだ。
そんなシュライヤにネアンが視線を向けた。
【ネアン】「見ていたのか?」
【シュライヤ】「まぁね」
ニヤニヤ笑って、シュライヤはフェニを見つめた。
【シュライヤ】「今回も酷かったな、フェニ」
【フェニ】「奴らを見ると歯止めが利かなくて…」
【シュライヤ】「お前、絶対多重人格だろ?それとも羽翼人ってのは、皆そんな性格なのか?」
からかうように言うシュライヤに、フェニの空気が少し殺気を纏った。
だが、フェニが何か言う前に言葉は遮られた。
【?】「シュラ、言い過ぎだ」
玉座の椅子に座る金髪の男の言葉に青年はもちろんシュライヤまで押し黙る。
見事に整った顔立ちに、深い紫暗色の瞳を持ったその男はそこにいるだけで圧倒的な存在感を発していた。
【?】「今回で奴らの大半は排除した。フェニブライユ、ネアン、アヴェロ…よくやってくれた」
【フェニブライユ】「レイ様…ありがとうございます」
フェニことフェニブライユは、レイの言葉に軽く頭を下げた。
【ネアン】「これしきの事…」
【アヴェロ】「今回は殆どフェニの手柄だがな」
何でもないかのように自然にネアンは頷き、アヴェロは苦笑気味に笑った。
反対に咎められたシュライヤはおもしろくなさそうに頬杖をついていたが、突然何かに反応するように顔をあげた。
そのシュライヤの様子に逸早く気が付いたのは、セルコウシュだった。
【セルコウシュ】「どうかしたか、シュライヤ?」
【シュライヤ】「シャラからテレパシーだ……召喚石を発見したらしいよ」
【ラジノイド】「何だって!?」
シュライヤの言葉にラジノイドが過剰に反応する。
いや、ラジノイドだけでなく、広間にいた全員がシュライヤに注目する。
【セルコウシュ】「シュラ、シャラを残してきたのか?」
【シュライヤ】「うん、セルがあの村が怪しいって言ってたから偵察に残れって言ったんだ」
【セルコウシュ】「じゃあ、やはり石はあの村に?」
セルコウシュの問いにシュライヤは無言で頷く。
【レイ】「それで?」
【シュライヤ】「それが…」
冷静で、それでいて真剣なレイの視線を浴びて、シュライヤは言葉を濁した。
【レイ】「何だ?」
【シュライヤ】「その召喚石…粉々に砕けちゃってるらしいよ」
【レイ】「何…?」
シュライヤの言葉にレイは微かに眉を潜め、その他の者はざわめいた。
【ラジノイド】「どういう事だ、シュラ!」
【シュライヤ】「俺に怒鳴るなよ、ラジ!俺だってよく分かんねぇんだからさ」
一旦言葉を切って、シュライヤはシャライヤから送られてきたテレパシーの内容を皆に伝えた。
【シュライヤ】「何かよく分かんないけど、砕かれたっていうよりは砕けたって感じだってシャラは言ってる」
【シュライヤ】「それから、奇妙な事にその砕けた召喚石から力を一切感じないらしい」
その言葉に一同は首を捻る。
奇妙な話だった。
召喚石は魔術の源であり、"マナ"が封じ込められた精霊の宿る石だ。
砕けているとはいえ、それから一切のマナを感じないとは奇妙な話である。
【シュライヤ】「それともう一つ。これは、石とは関係ないかも知れないけど、一応レイの耳に入れておいた方がいいかな?」
軽く首を傾げてシュライヤはレイに尋ねる。
【レイ】「構わない。話せ」
【シュライヤ】「何か、セル達があの村を襲撃した直後、二人、村を出た人がいるらしいよ」
【ラジノイド】「? それは石と関係があるのか?」
【シュライヤ】「だから、最初に石とは関係ないかも知れないけどって前置きしたじゃん!人の話を聞けよ!もう耳の老化が始まったのか、ラジッ!」
明らかに最後の一言は余計だった。
【ラジノイド】「弟…貴様……っ」
小さく呟いて、ラジノイドは剣を引き抜く。
それを見たシュライヤは「ゲッ」と言いながらも、何処か楽しそうな顔で駆け出した。
【ラジノイド】「待て、貴様ッ!!」
【シュライヤ】「ヤダね!止まったりしたら、斬られちゃうじゃん!」
互いに叫びながら逃げるシュライヤをラジノイドが剣を構えながら追った。
それにセルコウシュは「やれやれ」と溜息を吐いたが、止める気はない。
アヴェロも面白そうに笑うだけで止める気などは毛等もないし、その横に佇むフェニブライユは眠そうに欠伸を洩らすだけだ。
ネアンなどは呆れて、早々に部屋を出て行ってしまっている。
玉座に座るレイも追いかけっこを始めた二人を完全に無視して、思案顔で何かを考えていたが、ふと顔をあげて横に立つ巨漢の男を見た。
【レイ】「…今の、どう思いますか、先生?」
周りの喧騒などは無視して、レイは自分の真横にまるでボディーガードのように立ち尽くす先生と呼ばれた巨漢の男に尋ねた。
【?】「さぁな、私にもよく分からんが…」
【レイ】「が?」
【?】「我らの邪魔になる何かが現れる、そんな気がするよ」
【レイ】「それは勘ですか?」
【?】「そうだな。ただの勘だ」
根拠のない事を妙に自信ありげに言う巨漢の男をレイは無言で見遣る。
【レイ】(俺達の…いや、俺の邪魔になる何か、か――)


その頃、ルイ達は『ずっと君を探して旅をしてきたんです。私も一緒に行きますよ』というラフィエルを仲間に加え、フェニア山と呼ばれる山に向かう途中だった。
しかしアクシデントがあり、ルイ達はある遺跡に立ち寄っていた。
基本的に遺跡の中は薄暗いもの…そう思っていたルイの予想を覆すほど、その遺跡はかなり暗かった。
【ルイ】「灯りがなきゃ、完全に迷ってたな…これ」
【リュウラン】「ナイアのせいだからね」
【ナイア】「俺のせいじゃねぇよ!もるぼるが勝手に入っちまったんだから!」

数分前、この遺跡の前に辿り着いた彼らはそのまま通り過ぎようと思っていたのだが、ナイアの手を離れたもるぼるが勝手に中に入って行ってしまったのだ。
その為に、ルイ達は嫌でも入らざる負えなくて今に至る。
予想を覆す暗さの遺跡内を今の所迷わずに進めているのは、ラフィエルの持っていたランタンのお陰とも言える。
【ルイ】「ラフィがランタン持っててくれてホントに良かったよ。俺は持ってなかったからな」
【ラフィエル】「これでも君を探す為にあちこち旅しましたからね。困らない程度の道具は持っていますよ」

*ふーん

【ルイ】「…同じ元旅人の誰かさんとはえらい違いだな」
チラッとその誰かさんにルイが視線を向けると、その視線を浴びたナイアはバツの悪そうな顔をしてそっぽ向いた。
その時、前方の暗闇からもるぼるの奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
声の感じからするとそんなに遠くはない。

*頼りになるな
;ラフィ+1

最後尾をついて来ながら、ラフィエルはルイに向かって微笑んだ。
【ルイ】「…同じ元旅人の誰かさんとはえらい違いだな」
チラッとその誰かさんにルイが視線を向けると、その視線を浴びたナイアはバツの悪そうな顔をしてそっぽ向いた。
その時、前方の暗闇からもるぼるの奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
声の感じからするとそんなに遠くはない。


【リュウラン】「あっ!結構近いね」
【ルイ】「急ごう。こんな所にずっといると目がおかしくなりそうだ」
先を急かしたルイの言葉に従って、彼らの足を速める。
やがて、とても広々とした空間に突き抜けた。どうやら、その遺跡の最終地点らしい。
【リュウラン】「いた!もるぼる、心配したんだよ」
その空間にいたもるぼるに駆け寄るリュウラン。その間にラフィエルとナイアは周囲の壁を物色する。
【ラフィエル】「相当古い遺跡みたいですね」
【ナイア】「壁なんか相当脆いぜ。今にも崩れそうだし」
【ルイ】「…なぁ、あれなんだ?」
一人、その空間の奥にある何かに気を取られていたルイが他の三人を振り返る。
祭壇のようなものの上に何か鈍く光り輝く物体が乗っている。
【リュウラン】「何だろ?宝石みたいだね」
【ナイア】「こんな寂びれた遺跡の奥に宝石だって?」
【ルイ】「でも…ほら、やっぱりそうだって」
【リュウラン】「もしかして古代のお宝とか?とか?」
訝しげに呟いたナイアの言葉に、ルイが先ほどの言葉を肯定すると、リュウランは目を輝かせた。
【ラフィエル】「そんなわけないと思いますが…とにかく、何かの罠かもしれませんから、あまり無闇に触らない方が……」
ラフィエルがそう言った瞬間、リュウランが無造作にその鈍い光を放つ何かを持ち上げた。
【ルイ】「あっ…」
ルイが思わず声を上げたその時、その宝石のような何かが眩い位に光り輝いた。
思わぬ閃光に闇に慣れていたルイ達の目が眩む。
残像が目蓋に残るほどの強い光を放ったそれは、今度は淡い光を放ち、宙に浮いていた。
その瞬間にルイにはその宝石のような何かの正体が分かった。
何故ならルイの体がそれに反応しているからだ。
【ルイ】「それは…チュリか?」
【ラフィエル】「えぇ、どうやら魔のチュリ…のようですね」
浮かぶ宝石を見ながら、ラフィエルは呟いた。
魔のチュリは再びリュウランの手の中に戻り、鈍い光を放ち出した。
【ナイア】「何で分かんの?これが魔のチュリだって」
ナイアが首を傾げると、ラフィエルは壁の一部を叩いた。
【ラフィエル】「ここに書いてあります」
【ナイア】「…何処に?」
ラフィエルの言葉にナイアは壁に詰め寄り、目を細めて壁を見つめた。
ルイも目を凝らすが、そこにあるのはミミズが這ったようなヘンテコな記号のようなものしかない。
【ナイア】「ラフィ…これ、読めるのか?」
【ラフィエル】「えぇ、星読みではこういった古代文字が読めなくては話になりませんからね」
ラフィエルがそう言うと、ナイアが驚いたような声を上げて、ラフィエルを見た。
【ナイア】「星読みって…もしかして、ノートマーニなのか?ラフィが?」
【ラフィエル】「そうですが…何か不満でも?」
にっこり笑って、ラフィエルが言う。
その笑顔に何か悪寒を感じたナイアは、顔を真っ青にしてブンブンと首を横に振った。
【リュウラン】「ねぇ、ノートマーニって何?」
チュリを持ったまま、リュウランは不思議そうに首を傾げた。
すると、何故かナイアが驚いたように声を上げた。
【ナイア】「知らねぇの!?」
【ルイ】「俺も知らない…」
ルイもそう言うと、ナイアは"信じられない"というような顔でルイ達を見た。
【ラフィエル】 「ノートマーニと言うのは、月の加護を受ける占星術を習わしとしてきた一族なんです。月の魔力を吸収し、力を得る事ができるんですよ」
【ナイア】 「ノートマーニはすげぇんだぜ!“星読み”って言うそいつらの占いは百発百中で、美人がすげぇ多いんだって兄貴が言ってた」
控え目に説明したラフィエルに、ナイアが興奮しながら付け足す。
"美人が多い"発言にラフィエルは笑いながら、話を変えた。
【ラフィエル】「それより、この魔のチュリはどうやらリュウランが所有者のようですね」
【リュウラン】「わ、私の?」
もるぼるを抱き、手にチュリを持ったリュウランはラフィエルの言葉に戸惑ったような声を上げた。
【ラフィエル】「えぇ…あなたの手元に戻ったのが、その証かと……」
【ナイア】「じゃあ、リュウランも精霊様の言ってた十の守護者の一人って事か?」
【ラフィエル】「そうなりますね」
ルイとラフィエルが話す中、リュウランは自分の手の中にあるチュリを戸惑い気味に見つめた。
【リュウラン】「私もルイの仲間……役に立てるんだ」
小さな呟きに、リュウランを振り返ったルイの目にチュリを握り締め、嬉しそうに微笑んでいる姿が強く焼きついた。

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ライン

【シナリオ5】

遺跡を抜けたルイ達は当初の予定地だったフェニア山に到着した。
山と言ってもそんなに標高が高いわけではないので、山道は結構楽に進めた。
最も、それはルイとリュウランのみでしかなかったようだ。
【ルイ】「遅いぞ、ナイア、ラフィ!」
かなり後方をフラフラしながら、ゆっくり登って来るナイアとラフィエルを見て、ルイが声を掛ける。
【ナイア】「そ、そんな事言ったって……もう、クタクタ」
【ラフィエル】「私も……そろそろ限界です」
何とか、ルイとリュウランの下まで辿り着いたナイアとラフィエルは二人揃って地面に座り込む。
これで、フェニア山に入ってからもう三度目の休憩だ。
【ルイ】「意外と体力ないんだな、ナイア」
【ナイア】「ルイとリュウランが歩くの、速過ぎんだよ!?どんな足腰、してんだ、お前ら!」

*山登りには慣れてるんだ
;リュウラン・ラフィ・ナイア+1  

ルイの差し出した水を奪い取るように受け取ってナイアは喚く。
【ラフィエル】「ホントに…私、これでも結構鍛えた方だと思ったんですが…。あなた達を見ていると、自分はまだまだ修行不足なんだと思い知りますね」
ナイアから回ってきた水を受け取って、ラフィエルは苦笑気味にそう言った。

*鍛え方が足りないんじゃないか?

【ナイア】「いーや!お前らが変なの!」
ルイの差し出した水を奪い取るように受け取ってナイアは喚く。
【ラフィエル】「ホントに…私、これでも結構鍛えた方だと思ったんですが…。あなた達を見ていると、自分はまだまだ修行不足なんだと思い知りますね」
ナイアから回ってきた水を受け取って、ラフィエルは苦笑気味にそう言った。


【ルイ】「なぁ、そういえば何で、ナイアとラフィは旅してたんだ?」
ナイアとラフィエルの向いに腰かけながら、ルイは何となく尋ねた。
【ラフィエル】「私は、族長に言われたからです。ルイに会った時、この出会いは運命だと言いましたよね?あれは族長の言葉があったからなんですよ」
水を一口含んで、ラフィエルは答えた。
【リュウラン】「族長の言葉って、どんなの?」
ルイの横に座ったリュウランが興味深げに聞いた。
【ラフィエル】「"世界の崩壊が近付いている…精霊長に見染められし神の子が産まれ、その神子の下に十の守護者が集う時、再生の旅が始まる"…と」
【リュウラン】「う〜ん…よく分かんないけど、その"精霊長に見染められし神の子"がルイって事なんだよね?」
難しい顔をしながら、リュウランがそう言うとラフィエルは頷いた。
【ラフィエル】「そして、その"神子の下に集う十の守護者"というのが、チュリを持つ者の事なんです。精霊様の言葉に従うとそれが"十の守護者"って事ですね」
【ラフィエル】「私の家は代々この"水のチュリ"を受け継いできた家系なので、"導きに従って神子の下へ馳せ参じよ"と言う族長の言葉に従って神子…つまりはルイを探す旅に出たんです」
【ナイア】「"精霊長に見染められし神の子"なんて、何か格好良いな!ルイ!」
興奮気味にナイアが言う言葉に、ルイは気恥ずかしさを感じながら、話を反らした。
【ルイ】「それで、ナイアは?」
【ナイア】「俺?俺は……」
【ナイア】「…兄貴が死んだからかな?」
ポツッと呟いたナイアの言葉に、一瞬沈黙が走った。
気遣わしげにリュウランが「ナイア…」と呟いたが、ナイアは再び口を開いた。
【ナイア】「俺…昔は弱虫でさ。いっつも兄貴の後ろにくっついてたんだよ。よく"ナキアの金魚のフン"って苛められててさ」
【ナイア】「あ、ナキアってのが俺の兄貴な」
【ナイア】「んで、その度に助けてくれたのもやっぱり兄貴だったんだよな…」
先程までの飄々とした態度は何処へやら…悲しげな顔でポツリポツリと語るナイアをルイは制止しようとしたが、ラフィエルが静かに首を横に振った。
「聞いてあげて下さい」と言うようなラフィエルに、ルイは制止しかけた手を下ろした。

【ナイア】「兄貴が死んだ日…俺はいつものように村の皆に苛められてたんだ」
【ナイア】「そしたら、そのうちの一人が兄貴の悪口言い出してよ。流石に、それには俺も腹が立って言い返したんだ」
【ナイア】「でもそいつが”モンスターの毛を取って来れたら謝ってやる”って言いやがってさ」
【ナイア】「だから俺、森にモンスターを探しに行ったんだ。今から考えたら、何て馬鹿なことしたんだって思うけどな…当然、ガキだった俺がモンスターに敵うわけなくて死にそうになった」
【ナイア】「もうダメだって思った時………」
【ナイア】「…兄貴が俺を庇ったんだ」
語りながらナイアは、無意識なのかネックレスを握り締めた。
【ナイア】「偶然、兄貴と一緒に俺を助けに来てくれた弓術の先生がモンスターは退治してくれたけど、俺を庇った傷が原因で、兄貴は死んだんだ」
【ナイア】「……このチュリは、その時兄貴から託された」
ネックレスを見て、ナイアは呟いた。
【ナイア】「兄貴が死んだ時、俺は死ぬほど後悔した。それこそ、本当に死のうと思うほど」
【ナイア】「…でも、止められた」
【?】『ナキアが自分が傷ついてまで守りたかったものをお前が殺すのか』
【ナイア】「って、兄貴の親友に怒られた」
【ナイア】「……それから、俺はもう二度と同じ事を繰り返さない為に修行の旅に出たんだ」
【ナイア】「途中までは、そいつと一緒だったけど…途中で別れた。一人で大切なものを護り抜く、力を身につける為に」
【ナイア】「……そしたら、ルイ達と出会ったんだ」
そこで、言葉を切ってナイアはルイを正面から見つめた。
微かに涙が浮かんだ目で見つめられ、ルイは初めて出会った時、ナイアが自分を兄とそっくりだと言った事を思い出した。
死んだはずの兄とそっくりな自分を見て、ナイアは一体どんな心境だったのだろうと考えた時、ルイは悲しくなった。
リュウランもルイの隣で、堪え切れなかった涙を流している。
しばらく、誰も何も言えない状態が続いた時、滲んだ涙を拭ってナイアが立ち上がった。
【ナイア】「あ、ごめんな。何か湿っぽくしちまって!こんな話するつもり無かったんだけど…」
【ナイア】「って、もう!そろそろ出発しようぜ!早く山超えないと日が暮れちまうしさ!」
さっきまでのしんみりした雰囲気を吹き飛ばすかのように明るく言って、ナイアは皆を促した。
【ラフィエル】「…そうですね。夜の山での野宿はいろいろ危険ですから」
ナイアの言葉に同意して、ラフィエルは立ち上がった。
それに続いて、ルイもすすり泣いているリュウランを促して、自分も立ち上がった。
その時、ルイ達は誰一人として気が付かなかった。
自分達を見つめる一つの人影、その視線に―――

【?】「綺麗…あのネックレス、レイ様に差し上げたら喜んで下さるかしら?」
自分達の身に着々と近付く危険に、ルイ達はまだ気が付かなかった。
これが彼らとの最初の接触だという事も―――――

【ラフィエル】「そろそろ頂上ですね…この調子なら、日暮れまでに麓につけそうです」
【リュウラン】「良かった!野宿はちょっと怖いもんね」
先程までの雰囲気を振り払うかのように、リュウランはいつものように明るく振る舞った。
その時、ナイアの背後で、葉がガサッという微かな音を立てた。
その音に反応して思わず歩みを止めたナイアをルイが振り返る。

*どうした、ナイア?
;ナイア+1

音のした茂みを振り返るナイアを見て、ルイが振り返って不思議そうに首を捻る。
どうやら、ルイには葉音は聞こえなかったらしい。
【ナイア】「いや…さっき微かに何か動く音がしたんだけど」
【ルイ】「風じゃないのか?」
【ナイア】「そうなのかな?」
ルイの言葉にやや納得し切れないような表情を見せるナイアの横で、もるぼるが唸るような低い声を茂みに向かってたて始めた。
【ナイア】「もるぼる?どうした?」

*置いて行くぞ?

音のした茂みを振り返るナイアを見て、ルイが振り返って不思議そうに首を捻る。
どうやら、ルイには葉音は聞こえなかったらしい。
【ナイア】「いや…さっき微かに何か動く音がしたんだけど」
【ルイ】「風じゃないのか?」
【ナイア】「そうなのかな?」
ルイの言葉にやや納得し切れないような表情を見せるナイアの横で、もるぼるが唸るような低い声を茂みに向かってたて始めた。
【ナイア】「もるぼる?どうした?」


【もるぼる】「シャゲ――――――――ッ!!!」
飼い主であるナイアの呼びかけに耳を貸さず、もるぼるは雄叫びとも思える声を上げて、茂みに突っ込んで行った。
【ナイア】「お、おい、もるぼる!?」
もるぼるの異変に戸惑った表情を見せ、ナイアは茂みに近付こうとする。
だが、ナイアが茂みに近付いたその瞬間、物凄い勢いでもるぼるが茂みから飛び出してきた。
飛び出したというよりも何かに吹き飛ばされたような勢いのもるぼるを受け止めたナイアも一緒に吹き飛び、背後の岩に思い切り背を打ちつける。
【ルイ】「ナイア!!」
突然の出来事に驚いた一同は揃ってナイアの下に駆け寄った。
【ナイア】「大丈夫…それなりに鍛えてたから何とか平気」
【ナイア】「でも、一体何だってんだよ?」
訳も分からず、吹き飛ばされたナイアは頭上に?マークを浮かべて、茂みを見た。
【?】「そのモルボルはあなたのですか?」
言葉と共に茶髪の女性が茂みから姿を現した。
【?】「躾があまりなっていないようですね。私にいきなり飛び掛って来るなんて」
そう言う女性にもるぼるは殺気立ったように低く唸り続けていた。
そんな様子のもるぼるを見て、ナイアは鋭い視線を女性に送った。
【ルイ】「すいません。俺達がしっかり見てなかったから」
【ナイア】「ルイ、その女に謝る必要なんかないぜ」

*(馬鹿、何言ってんだ!?)
;ナイア-1

【ルイ】「な、何を言うんだよ、ナイア!」
突然、厳しい口調になって立ち上がるナイアにルイは焦った。
だが、ナイアは睨みつけるような鋭い視線を依然として女性に送っている。
【ナイア】「俺のもるぼるは無闇に人を襲ったりはしない…そう善人はな」
【ルイ】「な、何を言ってるんだ、ナイア?」
【ナイア】「だが、悪人には襲い掛かる。もるぼるがここまで殺気立ってるって事は…」
【ナイア】「あんた、相当人を殺してるな?」
【?】「――初対面の相手にこうまで簡単に見抜かれたのは初めてね」
ナイアの話を黙って聞いていた女性がそう言った。

*(…どうしたんだ?)
;ナイア+1

ナイアは意味も無くそんな不躾な事を言わない。
ルイは不審に思った。
【ルイ】「ナイア?」
【ナイア】「俺のもるぼるは無闇に人を襲ったりはしない…そう善人はな」
【ルイ】「何を言ってるんだ、ナイア?」
【ナイア】「だが、悪人には襲い掛かる。もるぼるがここまで殺気立ってるって事は…」
【ナイア】「あんた、相当人を殺してるな?」
【?】「――初対面の相手にこうまで簡単に見抜かれたのは初めてね」
ナイアの話を黙って聞いていた女性がそう言った。


【?】「大したモルボルね。前言は撤回します。よく躾けられているわ」
【ナイア】「俺のもるぼるは血の臭いに敏感なんだ。あんたが何人殺したか知らないが、その染み付いた血の臭いは綺麗に洗い落せても、こいつの鼻は誤魔化せねぇぜ」
そう言葉を切って、ナイアは腰に差してあった剣を引き抜いた。
【?】「私とやる気ですか?まぁ、こちらも最初からそのつもりではありましたけどね」
女性は軽く笑うと体勢を低くとった。
【ルイ】(あの体勢は…!?)
【ルイ】「ナイア!下がれ!」
【?】「行きます!」
ルイがナイアに向かって叫んだのと、女性が動いたのはほぼ同時だった。
一瞬で、先ほどナイアが立っていた位置に砂煙が上がっている。
【ルイ】「ナイア!」
【もるぼる】「シャゲ〜〜ッ?」
少しだけ離れた位置にいたルイが、砂煙で姿の見えないナイアに呼びかける。
【ナイア】「ゲホッ!ゴホッ!何だ、あの女!?」
呼びかけてから数秒後、砂煙の中からナイアの声が聞こえてきた。
どうやら、無事らしい。
安堵すると同時にルイはナイアに向かって叫んだ。
【ルイ】「ナイア!砂煙から脱出しろ!その人はおそらく体術の使い手だ!視界の限られたその砂煙の中じゃ、お前が不利だ!」
【ナイア】「そ、そんな事言ったってさ…」
砂煙の中、ルイの声を聞いたナイアは戸惑った。
今のナイアの視界は右も左も区別がつかない。
ルイの声がどっちの方向からしているのかも分からない状態なのだ。
【ナイア】「どっちに行けってんだよ?」
【?】「遅いですね」
迷って左右を見回していたナイアの耳に女性の声が嫌に響いた。
慌てて反応した時には腹に激痛を感じた。
【ナイア】「ぐっ…うわっ!?」
砂煙から突然吹き飛んで来たナイアの身体は丁度向かい側にいたラフィエルに激突し、折り重なるようにラフィエルとナイアがその場に崩れる。
【ルイ】「ナイア!ラフィ!無事か!?」
【ナイア】「うっ…くっ……!」
【ラフィエル】「わ…私は何とか無事ですが…」
ナイアの下敷きとなったラフィエルがやや苦しそうな声を上げる。
【ナイア】「いってててて……あの女!よくもやりやがったな!」
暴言を吐きながら蹴られたらしい腹を抑えて、ナイアがよろよろと立ち上がる。
どうやら、ナイアも一応無事らしい。
【?】「随分と隙だらけでしたね。まぁ、お陰で目的の物はあっさり手に入りましたが」
そう言いながら、砂煙の中からゆっくりと姿を現す女性の手にはナイアのネックレスが握られていた。
【ナイア】「えっ!?嘘!いつの間に!?」
女性の握るものを見て、ナイアは自分の首にネックレスがない事に始めて気が付いたようだ。
ゴソゴソと自分の服を触って、何処にもない事を確かめる。
【?】「私、これでも元盗賊なんでこのくらいはお手の物なんです」
【ルイ】「元って事は、今は違うんだろ?何で、ナイアのネックレスを奪う必要性があるんだ?」
女性を警戒しながら、ルイは尋ねた。
【?】「さぁ?昔の血が騒いだとでも言いましょうか?それにこの宝石、レイ様に差し上げたら喜んでいただけるかもしれませんし」
何処かうっとりとしながら、女性は呟いた。
【ナイア】「か、返せよっ!!俺のネックレス!!」
焦ったように叫ぶナイアに、女性は冷たい冷笑を浮かべると共に挑発的な言葉を返した。
【?】「私から奪い返す事が出来たら、お返ししましょう…"ボウヤ"」
【ナイア】「誰がボウヤだ!俺はもう十七だ!」
そう叫んで女性に飛び掛ろうとしたナイアだが、先ほど蹴られた腹が痛むのか、その場に蹲ってしまった。
【?】「あら?掛かって来ないのかしら?」
【ナイア】「っ…くそ……」
腹を抱えてナイアは悔しそうに呟いた。
そんなナイアを見て、ルイは傍に落ちていたナイアの剣を拾った。
【ナイア】「ルイ…?」
【ルイ】「ナイア、無理するな」
ナイアを背後に庇い剣を構える。
【ナイア】「…悪りぃ」
【ルイ】「気にするなよ。それよりラフィ、戦闘経験はあるか?」
【ラフィエル】「ありますが残念ながら、私はサポートタイプですので」
【リュウラン】「じゃあ、私が!」
首を横に振ったラフィエルに代わり、リュウランが名乗りを上げたが、ルイはそれを否定した。
【ルイ】「いや、まだ手に入れて間もないチュリをリュウランが使うのは危険だ。リュウランとラフィはナイアを頼む」
普段は冷静さを事欠くルイだが、戦闘となるとその態度は冷静そのものとなる。
それをリュウランも知っているから、無理を言わず、黙って頷いた。
【ルイ】「それはナイアの大切なものなんだ…絶対に返してもらう」
ナイアの剣を構え、ルイは女性を睨みつけた。
女性は知らない事だが、ルイはあのネックレスがナイアの兄の形見だと知っている。
そんな大事なものを己の欲求の為だけに平気で奪おうとする女性が許せない。
【ルイ】(とは言うものの……正直、状況はマズイ。あの人の方が確実に俺より実力は上だ。俺一人じゃ、厳しい。せめて、あと一人、戦える仲間がいれば…)
剣を真っ直ぐ構えた体勢のまま、ルイが思案していると突然陽気な声が聞こえた。
【エルフィー】「あんた達、随分困ってるみたいだね!」
【ルイ】「えっ!?」
よっ!という軽い掛け声と共に一人の女性が岩の上から飛び降りて来た。
褐色の肌を持ち、すらっとした細身の女性。
大きく露出した背中から腹部にかけて広がるトカゲの刺青が妙な色香を醸し出している。
腰に長い剣を差している所を見ると、剣士のようだ。
【エルフィー】「この女剣士・エルフィーが協力してあげようじゃないか。何か、あんた一人じゃ大変そうだしね」
ルイを振り返って、エルフィーと名乗る女性はニヤッと笑った。

*危険ですよ!

【エルフィー】「私をそこらの女と一緒にするんじゃないよ」
【エルフィー】「それに、あのネックレス、どうしても取り返したいんだろ?あの女相手に格好つけてる余裕はないよ」
【ルイ】「…分かりました。お願いします!」
剣を構えるルイの少し前にエルフィーが立ち、腰の剣を抜き取る。

*助かります!
;エル+1

ルイはその謎の女性の申し出をありがたく受け取った。
剣を構えるルイの少し前にエルフィーが立ち、腰の剣を抜き取る。


【?】「一人増えたぐらいじゃ、私は倒せないと思いますよ!」
そう言った瞬間に女性は地を蹴りエルフィーへと向かって行った。
【エルフィー】「おっと!」
回し蹴りを放ってきた足を剣で受け止め弾き返す。
しかし弾かれた瞬間、女性は地面に手をつきその反動を利用して再度蹴りを放つ。
幸いエルフィーも剣で防いでいるが、ルイはスピードに追い付けず女性の不意を突く事が出来ない。
【ルイ】(くっ…早すぎて手が出せない!でもエルフィーさんが…)
必死で女性の動きを見て、弾かれた瞬間を狙う事にする。
【ルイ】「せえぇぇぃ!!」
背後から剣を構えて女性に攻撃を繰り出す。
【?】「邪魔よ!」
ルイの斬撃をバック転でかわし、女性は逆にルイの背後をとるとその背中に蹴りを繰り出した。
【ルイ】「ぐっ!?」
【リュウラン】「ルイ!?」
【ルイ】「くっ…」
近くにあった岩に打ちつけられ、ルイはその場に蹲ってしまった。
【?】「後はあなただけです。さっさとやられて下さい」
【エルフィー】「そいつはこっちの台詞さ。あんたもさっさと獲物を返しな」
【?】「ふっ、防御ばかりのあなたが私に敵うとでも思っているのですか?防ぐのが精一杯でしょう?」
女性はより一層激しい攻撃を繰り出してくる。
だがエルフィーは笑みを浮かべたまま女性の攻撃をいなしていた。
【エルフィー】「そう、あんたの厄介な所はそのスピード。何処で身につけたかは知らないけど、大したものさ」
【エルフィー】「確かに剣で攻撃する余裕はないね」
【?】「だったら早く降参した方がいいのではないですか?今なら見逃してあげますよ」
【エルフィー】「何言ってんだい?あたしは”剣”で攻撃する余裕はないって言ったんだ」
【?】「なんですって?」
エルフィーはそう言うと攻撃をいなしながら何かを呟き始めた。
【エルフィー】「スピードなんてもんはね、止めてしまえば意味がないんだよ」
口元に微かに笑みを浮かべ、エルフィーはそう言う。
それに、女性はプライドを刺激されたのか、不愉快そうに眉を顰めた。
【?】「私を止める?無理ですね。自慢じゃありませんが、私は今まで一度も捕まった事はありません」
【エルフィー】「じゃあ、その相手がヘボかったんだね。その相手…こういう止め方した事があるかい?」
【?】「?」
【エルフィー】「囲え!火炎陣(フレイムダンス)ッ!!」
エルフィーが叫び、地面に向かって剣を突き刺した。
すると、剣先から炎が噴出し、一瞬のうちに女性を火の輪が包み込んだ。
【?】「なっ!?」
【エルフィー】「さぁ、これでもう逃げ場はないよっ!」
剣を地面に突き刺したままの状態でエルフィーが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
【?】「こんなの左右が駄目なら、上に逃げるまで!」
炎に囲まれた女性はそう言うと大きく跳躍した。
だが―――…
【ルイ】「悪いけど、それも無理だ!」
【?】「なっ!?なんであんたが…!」
女性の目の前に突然、剣を軽く構えたルイが踊り出る。
スピードに自信を誇るその女性もさすがに空中では身動きが取れない。
【?】「しまっ!」
【エルフィー】「ナイス♪」
パチン!と指を鳴らして、エルフィーは微笑む。
それと同時にルイの握る剣が女性に向かって振り下ろされた。
さすがに男と女の力の差…女性はあっさり背後に吹っ飛ぶ。
その瞬間に、女性の手から離れたナイアのネックレスはルイの手にしっかり納まった。
その事にホッとしているとエルフィーが近付いてきた。
【エルフィー】「大丈夫かい?よくあたしの目配せに気付いてくれたね」
【ルイ】「いや、確信はなかったけど何かするんだと思って」
【エルフィー】「それだけで?どう動くかすぐに判断するなんて、あんた頭の回転が速いんだね。よくやったよ!」
作戦が成功した功績を喜んでか、ルイの背をエルフィーが思いっきり叩いた。
その時、ジンジンくる背中の痛みとは別に、ルイはまた妙な感覚を感じた。
【ルイ】(この感覚って…まさかっ)
【エルフィー】「な、何だい、これっ!?」
驚いたようなエルフィーの声にルイが振り返ると彼女の持つ剣先が紅い光を放って輝いていた。
もう、間違いなかった。
【ルイ】「あなたが、四人目の守護者…?」
【エルフィー】「これがチュリの導き?あんたが私の…?」

*綺麗なお姉さんで嬉しいですよ
;エル+1

【エルフィー】「口がうまいじゃないか。でも、煽てたって何も出ないよ」
【ルイ】「それは残念」
軽く笑って肩をいさめる。
【ルイ】「俺、ルイって言います」
【ルイ】「あそこにいるのは、ナイア、ラフィエル、リュウラン。皆、俺の仲間です」
【エルフィー】「私はエルフィー。どうやら、長い付き合いになりそうだね、ルイ」
【ルイ】「こちらこそ」
二人はどちらからともなく、握手を交わした。

*どうやらそうみたい

戸惑うエルフィーにルイは苦笑を浮かべる。
もはや、慣れ始めたこの出来事にルイは余裕で対処する事が出来るようになり始めた。
【ルイ】「俺、ルイって言います」
【ルイ】「あそこにいるのは、ナイア、ラフィエル、リュウラン。皆、俺の仲間です」
【エルフィー】「私はエルフィー。どうやら、長い付き合いになりそうだね、ルイ」
【ルイ】「こちらこそ」
二人はどちらからともなく、握手を交わした。


そんな二人の元にリュウラン達も歩み寄って来る。
リュウランやナイアとも握手を交わし、ラフィエルの番になった時、ジーッとエルフィーの差し出した手を見つめていた。
【ラフィエル】「…エルフィーと言いましたっけ。あなた、サーモヒートですか?」
【エルフィー】「ん?あぁ、良く分かったね。って、この肌と刺青見れば分かるか」
苦笑気味に笑って、エルフィーは差し出した手を引っ込めた。
【ルイ】「サーモヒートって?」
【ラフィエル】「知りませんか?火口付近に住む、体温を自由自在に変化させる事のできる一族です。彼らの特徴はその褐色の肌とトカゲの刺青」
【ラフィエル】「彼らは高温状態では鉄をも溶かすと言われていますから、サーモヒートには迂闊に触れてはいけないんですよ」
ラフィエルがエルフィーの手を握り返さなかった意味を悟り、ルイは少し悲しくなる。
コルの村には異人種がいなかった為、人種差別などという概念はなかった。
だが、世界には普通に人種同士の間に溝がある事をルイは再認識した。
リュウランも同じ事を思っているのか、少し悲しそうな顔をしてエルフィーとラフィエルを見比べている。
そんなルイ達の視界で、今度はラフィエルがエルフィーに向かって手を差し出した。
【エルフィー】「えっ?」
【ラフィエル】「あなたは体温コントロール能力に長けているようだ。でなければ、あんな簡単に他人に触れる事はできないでしょうからね」
【ラフィエル】「私はノートマーニのラフィエル。どうぞ、宜しくお願いします」
差し出された手を戸惑ったように見つめていたエルフィーは、ラフィエルの言葉に照れたような笑顔を浮かべた。
改めて握手を交わした二人にルイとリュウランは安心したように微笑み合った。
【ラフィエル】「それに、その何とも眼福な格好。これからの旅がとても楽しみですよ」
【エルフィー】「はっ?」
【ルイ・ナイア】「ラフィ!!」
ニコニコと微笑みながらのたまうラフィエルをルイとナイアは慌ててエルフィーから引き離した。
【エルフィー】「何だい、あの男」
【リュウラン】「アハハ…気にしないであげて」
疑問符を浮かべるエルフィーにリュウランは笑って誤魔化した。
その時、ガラガラという石が崩れるような音と共に先ほどの女性がフラフラと起き上がった。
【エルフィー】「ん?止め、刺さなかったの?ルイ」
【ルイ】「一応、女の人だし…峰打ちで留めた」
【エルフィー】「あんた、甘いね。相手が女だからって手加減したら、とんでもない目に遭う事だってあるんだから」
【エルフィー】「覚えておいで、優しさと甘さは常に危険と紙一重だよ」

*でも…

【エルフィー】「ま、いいけどね。そのうち思い知るといいよ」
【ルイ】「…はい」
エルフィーの言葉をルイは苦笑気味に受け止めた。

*分かった
;エル+1

【ルイ】「…肝に銘じるよ」
エルフィーの言葉をルイは苦笑気味に受け止めた。


【?】「くっ……。まさか私が負けるなんて…」
【エルフィー】「あんた、自分の実力を過信し過ぎ。今回の事、いい経験になったんじゃない?」
【?】「私は…私は、レイ様の為に敗北は許されないのに!」
さっきまでの穏やかな表情は何処へやら、睨みつけるような視線を女性はルイ達に向けた。
【エルフィー】「おやおや?懲りてないみたいだね」
【エルフィー】「じゃあ、私がまた熱い一発をお見舞いしてあげようか!」
エルフィーは先ほどと同じように女性に向かって、炎を放った。
負傷して、動く事の出来ない女性には避けようがない。
【?】「くっ…!」
【?】「あぁ〜あ、何やってんだよ、姉ちゃん」
そんな声と共に動けない女性と迫り来る炎の間に妙に小さな人影が立ち塞がった。
当然、炎はその人影に直撃した。
―――誰もが、そう思った。
だが、炎は人影に当たった瞬間に何故か掻き消されてしまった。
【エルフィー】「なっ!?」
【シュライヤ】「イッテェ!!クソ!レイの野郎、嘘つきやがったな!」
皆が驚く中、炎を掻き消したと思われる小さな人影が一人喚く。
それは少年だった。
【?】「シュ…シュラ?あなた、何でここに?」
【シュライヤ】「何でも何も、ルローラの姉ちゃんが中々帰って来ないから、迎えに来たんじゃん!レイがご立腹だぜ?」
【ルローラ】「えっ!?ホント!?レイ様、ご立腹なの!?どうしよう、私…」
少年の言葉を聞いた瞬間、見る見る狼狽し出すルローラという女性。
【シュライヤ】「バ〜カ!冗談だよ!レイはご立腹どころか、結構上機嫌だ」
【ルローラ】「シュ、シュラ!!また私をからかって!」
舌を軽く出して、そう言う少年に恥ずかしかったのか、怒ったのか、ルローラの頬が朱に染まる。
【シュライヤ】「まぁまぁ。でも、レイが俺を姉ちゃんの迎えに寄こしたのは本当だぜ?魔術を一回無効化できるって俺にこんなもん、持たせてさ」
【シュライヤ】「何が、優れもんだよ!めちゃくちゃ反動がイテェじゃねぇか!後で、絶対に文句言ってやる!あのスカシ野郎!」
【ルローラ】「レイ様を呼び捨てすること事態許せないのに、今度はスカシ野郎ですか?いい加減、怒りますよ!シュライヤ!」
【シュライヤ】「別にいいけどさ。レイが呼んでるのに、急いで帰んなくていいの?姉ちゃん」
【ルローラ】「えっ!?…あぁ!そうでした!急いで帰りませんと!」
少年の言葉に血相を変えるとルローラは完全にルイ達の存在を忘れ、消えてしまった。
ルローラが消えたのを見送った少年は頭の後ろで手を組んだ状態で、ルイ達の方を振り返った。
【シュライヤ】「…そこの黒髪の兄ちゃんと金髪の姉ちゃんは、もしかしてコルの村から出てきた人?」
【リュウラン】「えっ?何で知ってるの?」
リュウランが不思議そうにそう言うと少年は可愛らしくニッコリ笑った。
【シュライヤ】「やっぱり♪そうじゃないかと思ったんだ」
【リュウラン】「だから、どうして?」
【シュライヤ】「うぅ〜ん…何となく!兄ちゃん達とはこの先も会う事になりそうだね」
そう言うと少年は岩肌を軽く二・三回跳躍して、向こう側に消えて行った。

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ライン

【シナリオ6】

【シュライヤ】「ただいま〜!」
【ルローラ】「レイ様、遅くなって申し訳ありません!ルローラ、ただ今帰りました!」
広間の扉を開けるなり、ルローラは玉座に座るレイに頭を下げた。
【レイ】「いや…ご苦労だったな、ルローラ。それに、シュラも」
【ルローラ】「いえ、苦労だなんてとんでもない。私はレイ様のお役に立てるなら…」
【シュライヤ】「そんな事より、レイ!お前がくれたこれ!めちゃくちゃ反動が痛かったぞ!」
またもや顔を赤くしたルローラを無視して、シュライヤがレイに詰め寄る。
ここまで怒っている所を見ると本気で痛かったらしい。
【レイ】「でも、役に立ったのだろう?」
【シュライヤ】「役に立ったは、立ったけどさ!これじゃ、攻撃受けたのと一緒だよ!」
【ラジノイド】「鍛え方が足りんのだ。まぁ、戦闘要員じゃない、ガキのお前には仕方ないか」
広間の柱に寄りかかっていたラジノイドが皮肉たっぷりにそう言う。
確かにこのメンバーの中で、シュライヤとシャライヤは戦闘に参加する戦闘要員ではない。
どちらかと言えば、小柄な身体を利用して情報収集や諜報活動を行うのが仕事だ。
だが、口の喧嘩ならラジノイドより彼らの方が上だ。
【シャライヤ】「私とシュラは頭脳作戦向き。馬鹿みたいに突っ込んで行くラッちゃんとは違うの」
【シュライヤ】「本当の事言ってやるなよ、シャラ!それがラジの良い所でもあるんだからさ!そこがなくなったら、ラジなんて無愛想だし、不器用だし、馬鹿だし、何も良い所ないぜ」
【シャライヤ】「そっか、分かった」
カラカラ笑うシュライヤの言葉に、シャライヤは素直に頷いた。
二人のやり取りに、ラジノイドはゆっくり剣を引き抜いた。
【ラジノイド】「き…貴様らぁ!!!」
【シュライヤ】「ゲッ!?ラジが切れたぞ!逃げろ、シャラ!」
【ラジノイド】「待て!この迷惑双子がぁぁ!!!!」
剣を引き抜いたラジノイドがシュライヤ、シャライヤを追って走り出す。
クールそうに見えるが、感情的な面が多いラジノイド。
そんな単純な彼は完全にシュライヤ、シャライヤのいい玩具にされている。
現に、追いかけられているはずのシュライヤとシャライヤは楽しげだ。
【レイ】「ところで、ルローラ。何故こんなに帰りが遅かった?何かあったのか?」
【ルローラ】「いえ!その…実は一戦を交えておりまして…」
【レイ】「一戦?軍の残党か?」
【ルローラ】「ち、違います。あの、その…綺麗な、不思議な宝石を持った連中で、それを差し上げたらレイ様に喜んで頂けるかと…」
実に言い難そうな表情でルローラはルイ達との一件を鮮明に話した。
レイはあまり熱心に話を聞いていなかったが、突然眉を潜めた。
【レイ】「紫暗色の瞳をした女…?」
【ルローラ】「えぇ、レイ様と同じ髪で紫暗の瞳でしたが…その女がどうかなさいましたか?」
突然態度を変えたレイに、戸惑ったような表情をしたルローラがそう言った。
だが、レイはその言葉を無視した。
【レイ】「まさかな…」
【ルローラ】「はい?」
【レイ】「シュラ!ちょっと来い」
一人で何やら思案したレイはラジノイドとの追いかけっこを終えたシュライヤを呼び寄せた。
【シュライヤ】「何か用?」
【レイ】「お前にちょっとした仕事を頼みたい」
【シュライヤ】「何?残党の視察?」
【レイ】「いや、これは軍とは関係ないんだが…」
シュライヤを近くに呼び寄せ、レイは二言三言シュライヤに告げた。
【シュライヤ】「う〜ん…分かんないけど、やってみる」
【レイ】「頼んだぞ」
【シュライヤ】「了解。シャラ、お前しばらく本部に待機な」
【シャライヤ】「分かった」
軽く微笑み、一歩後退するとシュライヤの姿は闇に消えた。
【ルローラ】「あの…レイ様?シュラに何を?」
【レイ】「お前には関係のない事だ。そんな事より、お前は帝国軍残党の始末に専念してくれ」
【ルローラ】「はい!」
感極まった表情で軽く敬礼するとルローラはレイの下を離れた。
静まり返った広間にはいつの間にか、ラジノイドやシャライヤの姿もなくなっていた。
一人その場に残り、組んだ足の上に手を置き、レイは一人呟いた。
【レイ】「…まさか、な」


その頃、エルフィーを新たな仲間に加えたルイ達一行はフェニア山を無事に越え、フェニア山の麓の町・チャーンに辿り着いていた。
ルイ達がその町に辿り着いたのは夕暮れ時。
ルローラの一件で思わぬ時間のロスと体力の消耗が生じ、さすがのルイ達も早々に宿を取ることにした。

部屋割りはもちろん、男女に分かれ、それぞれがすぐベッドに倒れ込んだ。
【ルイ】「今日は大変な一日だったな」
【ナイア】「あぁ、それもこれも全部あの女のせいだ!あの野郎…今度会ったら絶対叩きのめす!」
ベッドに倒れ込んだ状態で憎々しげな表情をするのはナイア。
時折顔を顰めるような表情を見せるのはきっとまだ蹴られた腹が痛むのであろう。
反対に涼しげな表情をして窓辺の椅子に腰掛けているのはラフィエルだ。
【ラフィエル】「まぁまぁ、とりあえずチュリも無事だったし、エルフィーという頼もしい仲間も増えたし、結果的には良かったじゃないですか」
【ナイア】「よくな〜い!!俺は腹を蹴られたんだぞ!見ろよ、この青痣!」
ニコニコと微笑みながらそう言うラフィエルの言葉にナイアはベッドから半身を起こした。
【ルイ】「でも、エルフィーが来てくれなかったらやばかったよな」
安宿のわりには柔らかいベッドに腰かけて、ルイは呟いた。
【ラフィエル】「そうですね。もしかしたら私達、全員あそこで倒されてたかもしれませんね」
【ナイア】「嫌な事言うなよ、ラフィ」
【ラフィエル】「でも、本当の事でしょう?」
ラフィエルの言葉にナイアが顔を顰めた。
【ルイ】「そう言えばさ…エルフィーってあの炎、どうやって出したんだ?」
【ナイア】「あれだろ?チュリを使ったんだと思うぞ」
【ラフィエル】「思うぞって。ルイはともかく、ナイアも知らないんですか?」
ルイとナイアの会話に意外そうな声を出したのはラフィエルだった。
【ナイア】「うっ。…知らないよ、悪かったな」
【ラフィエル】「そうでしたか…チュリの所持者であるナイアなら知っていると思ったんですけどね」
憮然とそう言うナイアの言葉にラフィエルは首を傾げた。
【ナイア】「? チュリとあの炎関係あるのか?」
【ラフィエル】「大いにありますよ。ナイア、あなたなら、チュリにはマナが宿っており、そのマナを使う事で魔術を使用可能にする事は知っているでしょ?」
【ナイア】「それくらい知ってる!馬鹿にすんな」
不機嫌そうな表情でナイアはそう叫んだ。
【ラフィエル】「失礼。じゃあ、そのチュリのマナにも種類があるのをご存知でしたか?」
【ナイア】「それは…知らなかった」
先ほどまで憮然とした表情だったナイアが呟くように言い、顔を伏せた。
そんなナイアを一瞥してラフィエルは話を続けた。
【ラフィエル】「チュリのマナには異なった種類があり、そのマナが司るもの…つまり属性の魔術を扱う事が出来ます。例えば、私のチュリの属性は水。水属性の魔術が可能です」
【ルイ】「じゃあ、エルフィーのチュリは…」
【ラフィエル】「察しの通り、炎でしょうね。彼女は上手い具合にチュリの力を利用していました」
感心するように頷いて、ラフィエルはナイアを見た。
【ラフィエル】「私が見る限り、ナイアのチュリは風でしょう」
【ナイア】「じゃあ、俺は風属性の魔術が使えるって事か」
【ラフィエル】「えぇ、そうなりますが…本当に知らなかったんですか?」
【ナイア】「わ、悪かったな!魔術の発動の仕方がよく分かんねぇから、使わなかったんだよ!」
ナイアの言葉は正確には正しくない。

*間違いに触れない
;ナイア+1

この場合、使わなかったではなく使えなかったが正しいのだが、ルイもラフィエルもあえてその事には触れなかった。
【ラフィエル】「そうですか。なら丁度いいですから、私が魔術の使い方を教えてあげましょう」
【ナイア】「えっ、いいよ、別に」
【ラフィエル】「そう、遠慮なさらずに。私でよければ手取り足取り腰取り、みっちり仕込んで差し上げますから」
ニッコリ微笑んでラフィエルがそう言う。
いつもと変わらぬ笑顔なのだが、今日は何だか意地悪な魔女に微笑まれた気分になった。
【ルイ】「俺、ちょっと町を見て来るよ。俺に魔術講座は無縁っぽいしな」
【ラフィエル】「おや、そうですか?じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。世の中、突然何が起こるか分かりませんからね」
【ルイ】「了解」
苦笑気味にそう言って、ルイは半ば逃げ出すように部屋を出た。

*プッ(笑)

【ナイア】「あっ!笑ったなルイ!?」
【ルイ】「ごめんごめん。でもナイア、言葉はきちんと使えよ?」
【ナイア】「ぎくっ」
【ラフィエル】「そうですよ、ナイア。それに良い機会です。私が魔術の使い方を教えてあげましょう」
【ナイア】「えっ、いいよ、別に」
【ラフィエル】「そう、遠慮なさらずに。私でよければ手取り足取り腰取り、みっちり仕込んで差し上げますから」
ニッコリ微笑んでラフィエルがそう言う。
いつもと変わらぬ笑顔なのだが、今日は何だか意地悪な魔女に微笑まれた気分になった。
【ルイ】「俺、ちょっと町を見て来るよ。俺に魔術講座は無縁っぽいしな」
【ラフィエル】「おや、そうですか?じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。世の中、突然何が起こるか分かりませんからね」
【ルイ】「了解」
苦笑気味にそう言って、ルイは半ば逃げ出すように部屋を出た。


部屋を出る直前、ナイアが恨めしそうな顔をしていたが、あえて見て見ぬ振りをした。
【ルイ】「すまん、ナイア…。まぁ、頑張ってくれ」
後ろ手で部屋の扉を閉めたルイは、扉に寄りかかりながらナイアに合掌した。
と、その時、丁度向かい合った扉がゆっくりと開かれる。
茶髪の上品そうな女性が困ったような顔をして、姿を現す。
【?】「もしかして、前のお部屋の方ですか?」
目の前に立つルイの存在に気が付いた女性はそう話し掛ける。

*は、はいっ!?
;ロゼッタ+1

【?】「あの?どうされましたか?声が裏返っておられますが…」
【ルイ】「あ、いえいえ!すいません、ちょっと緊張しちゃって…」
【?】「…?」
【ルイ】「あ、えーと…そうだ!何か用事があったんじゃないですか?」
【?】「ええ…この部屋にいる筈だった男性を探しているのですが…、何処に行ったかご存知ありませんか?」
【ルイ】「いえ…」
【?】「そうですか…どうもありがとうございました」
両手を前できちんと揃え、女性は優雅に頭を下げた。

*そうですけど?

【?】「あの…この部屋にいる筈だった男性を探しているのですが…、何処に行ったかご存知ありませんか?」
【ルイ】「いえ…」
【?】「そうですか…どうもありがとうございました」
両手を前できちんと揃え、女性は優雅に頭を下げた。


【ルイ】「い、いえ、どういたしまして」
女性の行動にルイも慌ててぎこちない会釈を返した。
微かに微笑み、女性は何処かに行ってしまった。

*綺麗な人だったなぁ
;ロゼッタ+1

【ルイ】「エルフィーとはまた違ったタイプだな…」
そんなことをぼんやり考えていたルイの背に突然何かが激突する。

*リュウランもあれくらい…
;リュウラン+1

そう思いかけて、ルイの背に突然何かが激突した。


【リュウラン】「こらぁ〜、ルイ!何、見惚れちゃってんのよ!」
それはリュウランであった。
腰に手を当てて、リュウランの突撃で床に倒れたルイを軽く軽蔑するような目で睨む。
【ルイ】「いってて…」

*そんな訳ないだろ…

【リュウラン】「本当に?」
服についたゴミを払い、立ち上がったルイにリュウランはまだ疑ったような視線を送っている。
ルイはそれ以上反論する気にもなれず、話題を変えた。

*お前もちょっとは見習えよ
;リュウラン-1

【リュウラン】「何よそれ!?」
服についたゴミを払い、立ち上がったルイにリュウランは冷たい視線を送っている。
ルイはそれ以上反論する気にもなれず、話題を変えた。


【ルイ】「で、お前はここで何してるんだ?」
【リュウラン】「エルが疲れたから寝るって言って寝ちゃったの。だから、部屋に一人でいてもつまんないし、町でも探検しに行こうかなって」
【ルイ】「俺もだ。丁度いい、一緒に行くか?」
【リュウラン】「うん!」
嬉しそうな笑顔でリュウランは頷いた。

【ルイ】「あんまりウロウロすんなよ」
【リュウラン】「分かってるよ!」
夕暮れ時、オレンジに染まった町並みを歩きながら、ルイは前方を歩くリュウランに注意を促した。
オレンジの夕日にリュウランの顔にもオレンジの光が照らされる。
【ルイ】「本当に分かってんのかね」
苦笑気味にルイはリュウランの後を追いかけた。
その時、ルイの視線の端に先ほどの女性が一人の男性と話している光景が映った。

*あ、見つかったのかな?
;ロゼッタ+1

【?】「ラウスさん、お探ししましたのよ。何処に行っておられましたの?」
【ラウス】「お前には関係ないだろう。それよりも何故お前は俺について来る?ケガも治ったのだし、さっさと行け」
【?】「いえ、私はケガの治療をして頂いた御礼にあなたの探している方を探すお手伝いがしたいのです。その方が見つかるまで、私はあなたについて行きます」
【ラウス】「随分、勝手な女だな。俺は一人で十分だ。そんな事をしてもらう為に、お前を助けた訳じゃない」
冷めた表情でそう言うと男は羽織っていたマントを翻し、さっさと歩き出してしまった。
【?】「ラウスさん!ちょっと、お待ちになって下さい!」
ラウスと呼ばれる男の後を、女性がチョコチョコと追いかける。

*(かっこいいな…)
;ラウス+1

【?】「ラウスさん、お探ししましたのよ。何処に行っておられましたの?」
【ラウス】「お前には関係ないだろう。それよりも何故お前は俺について来る?ケガも治ったのだし、さっさと行け」
【?】「いえ、私はケガの治療をして頂いた御礼にあなたの探している方を探すお手伝いがしたいのです。その方が見つかるまで、私はあなたについて行きます」
【ラウス】「随分、勝手な女だな。俺は一人で十分だ。そんな事をしてもらう為に、お前を助けた訳じゃない」
冷めた表情でそう言うと男は羽織っていたマントを翻し、さっさと歩き出してしまった。
【?】「ラウスさん!ちょっと、お待ちになって下さい!」
ラウスと呼ばれる男の後を、女性がチョコチョコと追いかける。


傍から見れば、恋人同士の痴話喧嘩にしか見えない光景である。
そんな二人の様子を観察していたルイにリュウランが突然何かを突きつけた。
【リュウラン】「ルイ!見て見て!」

*ん?
;リュウラン+1

視線をリュウランの方に向けたルイの目と大きな丸い目玉がかち合った。
リュウランがルイに向かって、このチャーンの町に多く生息する目玉の大きな猿・ゲイル=アイを目前に突き出したのだ。

*無視して観察を続ける
;ラウス、ロゼッタ+1   リュウラン-1

【リュウラン】「ちょっとルイ?聞いてる?」
【ルイ】「聞いてる聞いてる」
【リュウラン】「………」
ルイの視線は完全に違う方を向いている。
【リュウラン】「ルイ!」
【ルイ】「何だよ、さっきから…って」
視線をリュウランの方に向けたルイの目と大きな丸い目玉がかち合った。
それはこのチャーンの町に多く生息する目玉の大きな猿・ゲイル=アイだった。
無視されたリュウランの仕返しらしい。


【ルイ】「オワッ!!?」
突然目が合ったソレに驚いてルイは背後に大きく仰け反った。
その時、歩いて来た先ほどの男女に勢いよくぶつかる。
ルイの体が男性と女性にぶつかった瞬間、痛みとは別の感覚がルイの体内で反応した。
【ルイ】(これって…まさか!)
【?】「キャッ!」
【ラウス】「な、何だ!?」
ルイの周囲で女性と男性が驚きの声を上げるのを聞いた。
男性は胸飾りから水色の光が、女性は額飾りから茶色の光を放っていた。
【リュウラン】「ルイ、大丈夫?でも、これってもしかして…」
一応ルイを心配する声を掛けてから、リュウランは戸惑ったように男女を見つめた。
【ルイ】「あぁ…どうやらこの二人も仲間みたいだな」
これが時の力とチュリが引き起こした四度目の出会い――――――――
【ラウス】「今のは……一体…」
【?】「一体何事ですの?」
混乱しているらしく、今だ地面に座り込んでいた二人に先に立ちがったルイは声をかけた。
【ルイ】「いきなりぶつかってしまってすみません。でも、どうやらあなた達も精霊様の言っていた守護者のようですね。俺はルイって言います」
ルイがそう言って手を差し伸べると、俯いていた男性と眼が合った。
目が合った瞬間、男は何故か驚いたように目を見開いた。
【ラウス】「……キア…」
【ルイ】「えっ?」
小さな声で何か呟いた男に、聞き取れなかったルイは怪訝な声を上げた。
それにハッとして、首を横に振った。
【ラウス】「いや、すまない…そうか、お前が俺の…」
【ラウス】「…俺はラウス・アドワイズだ」
ルイの差し伸べた手を受け取らず、自分で立ち上がって男はそう名乗った。
【ルイ】「よろしく、ラウスさん。それから…」
【ロゼッタ】「私はロゼッタと申します。どうやら長いお付き合いになりそうですわね、ルイさん」
ルイの差し伸べた手を受け取って、ロゼッタはニッコリ微笑んだ。
【リュウラン】「ルイ、もしかして…」
【ルイ】「あぁ、どうやらまたパーティーが増えたらしいぞ、リュウラン」

次の日の朝、新たに増えた仲間をルイは皆に紹介した。
ラウスの顔を見て、今までずっと眠そうな顔をしていたナイアが急に覚醒した。
【ナイア】「ラウス!」
【ラウス】「ナイアか、随分と久しいな。だが、あまり成長した風ではないようだ」
【ナイア】「それはお前も同じじゃないか。相変わらず腹出しっぱなしで恥ずかしくないのかよ」

*そんな事ないですよ?
;ラウス+1

【ルイ】「綺麗な腹筋ですから!」
【ラウス】「・・・・・」
【エルフィー】「ルイ…それ、褒めてんのかい?」
【ナイア】「だってさ!良かったじゃん!!」
【ラウス】「…黙れ」
何やら親しげに会話を交わす二人にルイは首を捻った。
【ルイ】(それにしても…)
【ルイ】「何?ラウスさんとナイアって知り合いだったのか?」
【ナイア】「あぁ、こいつは俺が通ってた弓術道場の息子なんだ。それでしばらく一緒に旅してた事もあって」
【ルイ】「へぇ、そうだったのか」
意外な人間関係にルイは感嘆の声を漏らした。

*(昔から腹出しなんだ…)

何やら親しげに会話を交わす二人にルイは首を捻った。
【ルイ】「何?ラウスさんとナイアって知り合いだったのか?」
【ナイア】「あぁ、こいつは俺が通ってた弓術道場の息子なんだ。それでしばらく一緒に旅してた事もあって」
【ルイ】「へぇ、そうだったのか」
意外な人間関係にルイは感嘆の声を漏らした。


ナイアの言葉に頷いたルイの服の裾をリュウランがこっそり引いた。
【リュウラン】「ねぇ…ナイアのお兄さんって、確かナキアさんだったよね?」
【ルイ】「あぁ」
【リュウラン】「じゃあ、やっぱりあの人がそうなんだ」
【ルイ】「何が?」
一人納得するリュウランにルイは聞き返した。
【リュウラン】「ほら、お兄さんが死んでナイアが自殺しようとした時に止めた人。多分、あの人なんじゃないかな?」
【ルイ】「えっ?」
【リュウラン】「だって、あの人、ぶつかった時にルイを見て"ナキア"って言ってたから…お兄さんが死んだ時、弓術の先生が一緒にいたって言ってたし…」
リュウランの言葉にルイは若干複雑な思いを抱きながら、仲良く話をするラウスとナイアへ視線を向けた。
【ラウス】「そういえば、ナイア。修行は怠っていないだろうな?」
【ナイア】「え?も、もちろん、やってるさ!何言ってんの、ラウス!もーやだなー!」
【ラウス】「…サボっていたな」
ラウスの質問に対し、突然しどろもどろし出したナイアを見てラウスが軽く肩を竦めた。
【ラウス】「まぁ、いい。どうやら今日からまた一緒に行動する事になる。その間に、もう1度鍛え直してやろう」
【ナイア】「ええっ!?勘弁してくれよ!ラフィからも魔術特訓受けなきゃなんないのに!!」
【ラウス】「ほぉ、それは丁度いい。お前のサボり癖が直りそうだな」
冷たく、冷酷なラウスの言葉にナイアは内心悲鳴を上げた。
その様子をルイや他のメンバーは悪いとは思いつつも、苦笑を漏らした。
【ラフィエル】「それにしてもまた一人、青少年には刺激の強い方が増えましたね」
【ナイア】「は?何言ってんのラフィ」
【ラフィエル】「だってほら、エルフィー程ではありませんが彼女の服も大胆ではありませんか。彼女も幼い顔をしてなかなか立派なのものを…」
【ロゼッタ】「えぇ!?」
【ルイ】「わー!わー!ちょっ、ラフィ!!」
【リュウラン】「…ラフィ?」
【ラフィエル】「おや、どうしたんですか皆さん?私の顔になにか?」
【エルフィー】「あんた…綺麗な顔して意外とおっさんだったんだね」
【ラフィエル】「失礼な。私は思ったことを言っただけですよ?ねぇ、ナイア」
【ナイア】「なんで俺に振るんだよ!?俺何も言ってないじゃん!」
【エルフィー】「でもなんか…あんたが言うと、不思議と違和感がないんだよね。ルイやナイアが言うとちょっと引くけどさ…」
【リュウラン】「……確かに。なんでだろ?」
【ラフィエル】「それは私が正直だからじゃないですか?あと、強いて言えばこの顔でしょうか」
にっこりとほほ笑んでそう言う。
それを見て、女性陣はただコックリと頷いた。
【ラウス】「…おい、大丈夫なのか?あの男…」
【ロゼッタ】「…ぁぅ…」
【ルイ】「…悪い人ではないです」
【ナイア】「…多分」
後ろの方で男性陣が話していると、エルフィーがコホンと咳払いをした。
どうやら話の話題を変えるようだ。
ラフィエルの新たな一面に驚いたものの、今はエルフィーの話を聞こうとルイたちは耳を傾けた。
【エルフィー】「まぁ、とりあえずそれは置いといて…一体何人の仲間が集まるんだろうね?これ以上増えたら、かなりの大世帯になっちまうよ」
【ラフィエル】「族長の予言では、ルイの元に集う星は十という事です…私達は今、ルイを除いて六人ですから、後四人はいる事になりますね」
【エルフィー】「後四人もいるってのかい?冗談じゃないよ。一体何だってそんなに仲間が必要なのかね?」
【ラフィエル】「それだけ強力な者をこの先相手にしなきゃいけない、という事ではないのですか?」
エルフィーとラフィエルの会話を聞いて、ルイも内心そう思っていた。
【ルイ】(俺達の目的は大陸の中心に現れた破滅の星を倒す事。それが精霊様の予言…。でも、一体誰がその倒すべき破滅の星なのかも不明なまま。…せめて何か手掛かりでもあればいいんだけど)
ルイが一人思案している間もエルフィーとラフィエルの会話は続いた。
【ラフィエル】「ルイの話だとその相手は召喚石の片割れを探しているとの事でした。召喚石はチュリよりも遥かに強力な力を秘めた石―――」
【ラフィエル】「それを使えば、最強の力を手に入れるも等しい。チュリを持っているとはいえ、少数では」
【エルフィー】「やられに行くようなものだと言いたいんだろ?」
【ラフィエル】「その通りです」
エルフィーが会話の先を読んでくれたので、ラフィエルはニッコリ微笑んだ。
【エルフィー】「でもねぇ…大陸の中央にいんのは帝国軍だろ?そんな奴らを私達は相手にしなきゃなんないのかい?」
【ラウス】「いや…。今、大陸の中央にいるのは奴らじゃないはずだ」
エルフィーの言葉にラウスが突然口を挟んで来た。
その言葉に皆が驚愕の表情を見せた。
【ロゼッタ】「どういう事ですか、ラウスさん?」
【ラウス】「聞いた話では…今、大陸の中央は帝国に逆らう反乱軍が抑えているらしい。その反乱軍の指導者は魔導師だと噂で聞いた」
【エルフィー】「じゃあ、そいつの可能性が高いね。石を欲してそうで、尚且つそれを扱えそうな人間―――」
【リュウラン】「私達、帝国軍をやっつけちゃうような人達と戦わなきゃ駄目なのかな…」
実に不安そうな表情でリュウランがそう呟いた。
だが、それはリュウランだけでなく、皆の脳裏に一瞬過ぎった事だった。
あのしぶとく、強い帝国軍兵士達をあっさり退けた相手。
言いようのない不安が皆の脳裏を駆け巡った。
【ルイ】「まぁ、まだその人だと決まったわけでもないし、それより先を急ごう。まだ大陸の半分も来てないわけだしさ」
【ラフィエル】「…そうですね」
【リュウラン】「そうだね」
ルイの一言でその話は打ち切られた。
だが、一度皆の脳裏に過ぎったソレは今後消える事はなかった――――

<目次に戻る>

ライン

【シナリオ7】

チャーンの町から次の町・ビンズバーグに向かう途中、ルイ達は衝撃的なものを見た。
それに一番早く気が付いたのは、先頭をきって歩いていたリュウランだ。
【リュウラン】「皆!見て、あそこ!」
皆の注意をリュウランは前方に引きつけた。
前方から何やら黒い煙が上がっている。
何が起こっているのか、確かめるべく、ルイ達は足を速めた。
そこで目にした光景はルイ達の胃を嫌な具合に刺激する光景―――
【ルイ】「こ、これは…」
道いっぱいに倒れた人間の死体の山。
周囲の草木はその倒れた人間の血で染まり、真っ赤になっている。
【リュウラン】「うっ…」
あまりに残虐的なその光景にリュウランは口元を抑えて呻き声をあげた。

リュウランを庇う
ロゼッタを庇う
自分を庇う
死体に近づく


*リュウランを庇う
;リュウラン+1

その声にルイは咄嗟にリュウランの視界を自分の体で覆った。
リュウランと同じく気分を害したらしいロゼッタはラフィエルによって視界を遮られている。
ルイですら、食道を胃の消化物がせり上がってくるのを感じずにはいられなかった。
女性のこの光景はきつい。
だが、リュウランやロゼッタと同じ女性であるはずのエルフィーは勇敢にも倒れている死体の傍にしゃがみ込んで、死体を観察した。
【エルフィー】「この腕に付いてる紋章…どうやら、ここにある死体は帝国軍の兵士達らしいね」
【ラウス】「あぁ、死体全て急所をほぼ一撃…。刀傷が大半だが、後は何だ?」
エルフィーと同じく死体を観察していたラウスが、死体の致命傷を見ながら言った。
【エルフィー】「魔術でやられたように見えるね。…ここまで致命傷を与えられるとなると相当の腕を持ってるんじゃないかい?」
【ナイア】「エル姐達、よくそんなもん直視できるな…俺、何だか吐きそう」
【ラウス】「じゃあ下がっていろ、ナイア」
気持ち悪そうなナイアにそう言い放って、ラウスはルイ達の所に戻って来た。
それに倣ってか、エルフィーも死体の傍から立ち上がり、ルイ達の下へ駆け寄る。
【ラウス】「殺られたのは、帝国軍の残党のようだ。おそらく、反乱軍を打ち負かす機会を待っていたのだろう」
【ラフィエル】「でも逆に、そこを反乱軍にやられた…という所ですか?」
【ラウス】「そういう事だ」
ラフィエルの言葉を肯定して、ラウスは目を閉じた。
【エルフィー】「ねぇ、ルイ。少し遠回りになるけど、別の道を行こう。あたしはともかくこの2人にここを通れというのは酷だよ」
【ルイ】「そうだな…、回り道しよう。後、少し休憩もしたい」
チラッと背後に庇うリュウランを見遣って、ルイはそう言った。

その後、ルイ達は偶然近くを流れていた小川で一休みする事にした。
口元を抑えて、気分悪そうな顔をしているリュウランにルイは小川から汲んだ水を差し出す。
【ルイ】「大丈夫か、リュウラン」
【リュウラン】「う…うん。ありがとう、ルイ」
弱々しく微笑んでリュウランはルイの差し出した水を受け取った。
だが、水に口をつけようとはせず、水の入ったコップを両手で包み込んだ。
【リュウラン】「…ごめんね、ルイ」
【ルイ】「えっ?」
【リュウラン】「こんな所で、立ち往生させちゃって…」
【ルイ】「何言ってんだよ。あんな光景見たら、誰だって気分が悪くなる。それに俺もちょっと休みたかったしさ」
そう言って軽く笑うとルイはリュウランの隣に腰を下ろした。
【リュウラン】「私もエルみたいに強かったら、ルイの役に立てたのにね」

*エルフィーみたい?

【ルイ】「いや…エルフィーはちょっと女じゃないよ」
死体に平然と近付いたエルフィーを思い出して、ルイはちょっと冷や汗を額に浮かべた。
【ルイ】「それに、お前はそのままでいいと思うけど」
【リュウラン】「…ルイは分かってないね」
【ルイ】「えっ?」
リュウランがボソッと呟いた言葉に驚いたルイは怪訝そうな顔をしたが、リュウランは何事もなかったかのように立ち上がり、コップの水を一気に飲み干した。
【リュウラン】「さて、気分もマシになったし、出発しようよ、ルイ!」
【ルイ】「お、おぉ…」
急に元の元気を取り戻したリュウランに気圧されながらも、ルイは立ち上がった。
【リュウラン】(そう…ルイは分かってないよ。私、さっきみたいに守られて、庇われるだけのお荷物なんて、絶対嫌だよ)
少し悲しげな表情をしたリュウランはルイを見ながらそう思った。

*そうだな
;リュウラン+1

【ルイ】「でも、別にそんな焦んなくてもいいじゃん」
【リュウラン】「え?」
【ルイ】「エルフィーだって昔から強かったわけじゃないんだ。少しずつ強くなっていけばいいんだよ」
ポンポンとリュウランの頭を撫でてやる。
【ルイ】「俺もお前もな」
【リュウラン】「…ルイ」
【リュウラン】「ありがと」
【ルイ】「おう」
リュウランがふわっとほほ笑むとルイもニカッと笑い返した。
【リュウラン】「よし!」
掛け声とともに勢いよく立ち上がり、コップの水を一気に飲み干す。
【リュウラン】「さて、気分もマシになったし、出発しようよ、ルイ!」
【ルイ】「おぉ」
元の元気を取り戻したリュウランに安心しながら、ルイは立ち上がった。
【リュウラン】(そう…守られて、庇われるだけのお荷物なんて嫌だ!頑張らなきゃ!!)
リュウランはルイを見ながらそう意気込んだ。

<共通ルートに合流する>


*ロゼッタを庇う
;ロゼッタ+1

その声に反応し、ルイは咄嗟にロゼッタの視界を自分の体で覆った。
【ロゼッタ】「ぁ…、あぁ…」
気分を害したらしいリュウランはラフィエルによって視界を遮られている。
ルイですら、食道を胃の消化物がせり上がってくるのを感じずにはいられなかった。
女性のこの光景はきつい。
だが、リュウランやロゼッタと同じ女性であるはずのエルフィーは勇敢にも倒れている死体の傍にしゃがみ込んで、死体を観察した。
【エルフィー】「この腕に付いてる紋章…どうやら、ここにある死体は帝国軍の兵士達らしいね」
【ラウス】「あぁ、死体全て急所をほぼ一撃…。刀傷が大半だが、後は何だ?」
エルフィーと同じく死体を観察していたラウスが、死体の致命傷を見ながら言った。
【エルフィー】「魔術でやられたように見えるね。…ここまで致命傷を与えられるとなると相当の腕を持ってるんじゃないかい?」
【ナイア】「エル姐達、よくそんなもん直視できるな…俺、何だか吐きそう」
【ラウス】「じゃあ下がっていろ、ナイア」
気持ち悪そうなナイアにそう言い放って、ラウスはルイ達の所に戻って来た。
それに倣ってか、エルフィーも死体の傍から立ち上がり、ルイ達の下へ駆け寄る。
【ラウス】「殺られたのは、帝国軍の残党のようだ。おそらく、反乱軍を打ち負かす機会を待っていたのだろう」
【ラフィエル】「でも逆に、そこを反乱軍にやられた…という所ですか?」
【ラウス】「そういう事だ」
ラフィエルの言葉を肯定して、ラウスは目を閉じた。
【エルフィー】「ねぇ、ルイ。少し遠回りになるけど、別の道を行こう。あたしはともかくこの2人にここを通れというのは酷だよ」
【ルイ】「そうだな…、回り道しよう。後、少し休憩もしたい」
チラッと背後に庇うロゼッタを見遣って、ルイはそう言った。

その後、ルイ達は偶然近くを流れていた小川で一休みする事にした。
口元を抑えて、気分悪そうな顔をしているロゼッタにルイは小川から汲んだ水を差し出す。
【ルイ】「大丈夫ですか、ロゼッタさん」
【ロゼッタ】「ええ…ありがとうございます、ルイさん」
弱々しく微笑んでロゼッタはルイの差し出した水を受け取った。
だが、水に口をつけようとはせず、水の入ったコップを両手で包み込んだ。
【ロゼッタ】「…申し訳ありません」
【ルイ】「えっ?」
【ロゼッタ】「このような所で立ち往生させてしまって…」
【ルイ】「そんなことないですよ。あんな光景見たら、誰だって気分が悪くなります。それに俺もちょっと休みたかったですし」
そう言って軽く笑うとルイはロゼッタの隣に腰を下ろした。
【ロゼッタ】「私、皆さんの足手まといになっていますね。せめて何かとり得があれば、皆さんのお役に立てましたのに…」

*そんなことない

【ルイ】「ロゼッタさんはたくさんの知識を持っているじゃないですか。その知識が今まで俺たちを助けてくれた」
ロゼッタは薬草学と調合学に長けていたため、仲間のコンディションを調整するための知識が豊富でよくアドバイスも貰っている。
そのおかげで、体調不良を起こすことなくここまでこれた。
【ルイ】「だから、もっと自分に自信を持って下さい」
【ロゼッタ】「…ありがとうございます。でも…」
【ルイ】「…でも?」
ロゼッタがボソッと呟いた言葉にルイは怪訝そうな顔をしたが、彼女は何事もなかったかのように、コップの水を一気に飲み干した。
【ロゼッタ】「さあ、気分もマシになってきましたし、出発しましょうか、ルイさん」
【ルイ】「え?は…はい」
急に立ちあがったロゼッタに気圧されながらも、ルイは立ち上がった。
【ロゼッタ】(…知識だけでは、何も守ることはできませんの。皆さんの足手まといにならないようにしなくては…)
少し悲しげな表情をしたロゼッタはルイを見ながらそう思った。

*そうかもしれない
;ロゼッタ +1

【ルイ】「でも、それは俺だって同じですよ」
【ロゼッタ】「え?」
【ルイ】「俺だって何もとり得なんてありません。時の力っていうのだって使えないし、剣の腕だって皆に比べたらてんでダメだ」
空を仰ぎ見てそう呟く。
【ルイ】「あんな光景を見れば俺だって怖いですよ?だから、お互い様です」
【ロゼッタ】「…ルイさん」
【ロゼッタ】「ありがとうございます」
【ルイ】「うん」
ロゼッタがふわっとほほ笑むとルイもニカッと笑い返した。
【ロゼッタ】「えい!」
掛け声とともに勢いよく立ち上がり、コップの水を一気に飲み干す。
【ロゼッタ】「さあ、出発しましょう、ルイさん!」
【ルイ】「はい」
元の元気を取り戻したロゼッタに安心しながら、ルイは立ち上がった。
【ロゼッタ】(そうですわ…お互い様…私も皆さんを守って差し上げられるように頑張らなくては!)
ロゼッタはルイを見ながらそう意気込んだ。

<共通ルートに合流する>


*自分を庇う
;ナイア+1

その声に続き、ルイも口を押さえる。
激しい異臭もあり、食道を胃の消化物がせり上がってくるのを感じずにはいられなかった。
隣ではナイアも口元を押さえている。
リュウランとロゼッタはラフィエルによって視界を遮られているが、女性陣のダメージは深刻だろう。
だが、エルフィーは女性でありながらも勇敢に倒れている死体の傍にしゃがみ込んで、死体を観察した。
【エルフィー】「この腕に付いてる紋章…どうやら、ここにある死体は帝国軍の兵士達らしいね」
【ラウス】「あぁ、死体全て急所をほぼ一撃…。刀傷が大半だが、後は何だ?」
エルフィーと同じく死体を観察していたラウスが、死体の致命傷を見ながら言った。
【エルフィー】「魔術でやられたように見えるね。…ここまで致命傷を与えられるとなると相当の腕を持ってるんじゃないかい?」
【ナイア】「エル姐達、よくそんなもん直視できるな…俺、何だか吐きそう」
【ラウス】「じゃあ下がっていろ、ナイア」
気持ち悪そうなナイアにそう言い放って、ラウスはルイ達の所に戻って来た。
それに倣ってか、エルフィーも死体の傍から立ち上がり、ルイ達の下へ駆け寄る。
【ラウス】「殺られたのは、帝国軍の残党のようだ。おそらく、反乱軍を打ち負かす機会を待っていたのだろう」
【ラフィエル】「でも逆に、そこを反乱軍にやられた…という所ですか?」
【ラウス】「そういう事だ」
ラフィエルの言葉を肯定して、ラウスは目を閉じた。
【エルフィー】「ねぇ、ルイ。少し遠回りになるけど、別の道を行こう。あたしはともかくこの2人にここを通れというのは酷だよ。それに、あんたたちもしんどいだろ?」
【ルイ】「そうだな…、回り道しよう。後、少し休憩もしたい」
エルフィーの提案に従い、ルイは正直にそう言った。

その後、ルイ達は偶然近くを流れていた小川で一休みする事にした。
口元を抑えて、気分悪そうな顔をしているとラウスがルイに小川から汲んだ水を差し出してきた。
【ラウス】「平気か?」
【ルイ】「う…うん。ありがとう、ラウスさん」
弱々しく微笑んでルイはラウスの差し出した水を受け取る。
【ラウス】「ナイア、お前も飲め」
ラウスはルイの隣に座っていたナイアにも水を差し出した。
【ナイア】「ん…ありがと」
【エルフィー】「大丈夫かい、あんたたち」
リュウランやロゼッタの介抱が済んだのか、エルフィーが近付いてきた。
【エルフィー】「いくら玉がついてたって、流石にアレはちょっと刺激が強すぎたかね」
【ルイ】「え…?」
【ラウス】「…」
【ナイア】「…玉?」
【ラフィエル】「おや、いけませんよエルフィー。女性が"玉"なんて言っては」
エルフィーの発言に戸惑っていると、同じく介抱を済ませたラフィエルもルイたちに合流してきた。
【エルフィー】「何言ってんだい、あんただって似たような事あたしたちに言ってんだろ?」
【ラフィエル】「おやおや、そうでしたっけ?」
いつもと変わらないじゃれ合った会話。
しかし、死体の山を見た後で神経が逆立っているのかラウスは顔を顰めた。
【ラウス】「…おい、用がないなら向こうへ行け。邪魔だ」
【エルフィー】「ふん、あいにくとあんたに用はないよ。用があるのはそこの2人だからさ」
【ラウス】「…ちっ」
【エルフィー】「ルイ、ナイア」
【ルイ】「…なに?」
【エルフィー】「酷な事かもしれないけど、あの光景を忘れちゃダメだよ」
【ナイア】「な、なんで?」
一刻も早く忘れたい光景なのに、忘れてはいけないというエルフィーの言葉にナイアが反応した。
【エルフィー】「あれが、あたしたちの"敵"がしたことだからさ。だから、あれぐらいでビビってちゃいけない」
【エルフィー】「ビビったら、死んじまうからね」
【ラウス】「…そうだな。実際に殺した奴と会ったとき、怯んでしまえば隙となる」
【ラウス】「その一瞬の隙が命取りだ」
【エルフィー】「…不本意だけど、こいつの言うとおりさ。だから2人共、気をしっかり持つんだよ!男の子なんだしね!」
バンバンとルイとナイアの肩を叩きエルフィーなりの激励を送る。
【エルフィー】「それじゃ、もう少し休憩しときな。あたしは戻るよ」
ひらひらと手を振り、リュウランたちの元へ戻っていく。
それを確認すると、ルイはラウスに貰った水を一気に飲み干した。
【ルイ】「――よしっ!」
掛け声とともに勢いよく立ちあがったルイにナイアは目を丸くした。
【ナイア】「ど、どうしたんだよ急に」
【ルイ】「ナイア、俺たちももっと頑張らなきゃな!エルフィーみたいに強くならなきゃ!!」
【ナイア】「へ?」
【ルイ】「ほら、さっさと飲んで出発するぞ。ラウスさん、ごちそうさまでした」
元の元気を取り戻したルイは、力強い足取りで仲間たちの元へ戻って行った。
【ラウス】「…ナイア、お前も強くなれ。自分の命を守るために」
ナイアの頭に手を置いて、そう呟いた。
ナイアもその真剣さが伝わり、「うん」と深く頷いたのだった――

<共通ルートに合流する>


*死体に近づく
;エル、ラウス、ラフィ+1

その声に続き、ルイも口を押さえる。
激しい異臭もあり、食道を胃の消化物がせり上がってくるのを感じずにはいられなかった。
隣ではナイアも口元を押さえている。
リュウランとロゼッタはラフィエルによって視界を遮られているが、女性陣のダメージは深刻だろう。
それを思うと早々にこの場を去らなくてはいけないが、目の前の状況も確認しなければいけなかった。
ルイはラフィエルに視線をやり、彼女たちを避難させるように促す。
ラフィエルもその意図に気付き、その場を後にした。
【ルイ】「…酷いな…」
死体に近寄り、改めてその惨状を目の当たりにする。
ルイに続いて、エルフィーも死体を観察していた。
【ルイ】「エルフィー、無理しなくてもいいよ」
女性にはこの光景はきつい。
そう気遣いエルフィーに声をかけた。
【エルフィー】「気遣いはありがたいけど、あたしには無用だよ。ありがとね」
そう言うと、ルイの背中にポンと手をやる。
すると、エルフィーが足元の死体を指さした。
【エルフィー】「見てみな、ルイ。この腕に付いてる紋章…どうやら、ここにある死体は帝国軍の兵士達らしいよ」
【ルイ】「本当だ…それに、この傷…」
【ラウス】「全て急所をほぼ一撃…」
前方から、同じく死体を観察していたラウスがルイの思っていたことを代弁した。
【ルイ】「はい。それに、この傷口を見ると大半が刀傷のように見えますが…それとは違った傷も多くあります。これは一体何にやられたんでしょう?」
【エルフィー】「魔術でやられたように見えるね。…ここまで致命傷を与えられるとなると相当の腕を持ってるんじゃないかい?」
【ナイア】「ルイ達、よくそんなもん直視できるな…俺、何だか吐きそう」
【ラウス】「じゃあ下がっていろ、ナイア」
気持ち悪そうなナイアにそう言い放って、ラウスは再度死体に向き合った。
その後一通り観察を終えると、少し遠くへ避難していたリュウランやロゼッタ達と合流し、ラフィエルに状況を説明した。

【ルイ】「殺されていたのは、帝国軍の残党だったみたいだ。たぶん、反乱軍を打ち負かす機会を待っていたんじゃないかと思う」
【ラフィエル】「でも逆に、そこを反乱軍にやられた…という所ですか?」
【エルフィー】「そういうとこだね」
ラフィエルの言葉を肯定して、エルフィーは頷いた。
【エルフィー】「ねぇ、ルイ。少し遠回りになるけど、別の道を行こう。あたしはともかくこの2人にここを通れというのは酷だからね」
【ルイ】「そうだな…、回り道しよう。後、少し休憩もしたい」
チラッとリュウランとロゼッタを見やってから、ルイはそう言った。

その後、ルイ達は偶然近くを流れていた小川で一休みする事にした。
口元を抑えて、気分悪そうな顔をしているナイアにルイは小川から汲んだ水を差し出した。
【ルイ】「ナイア、大丈夫か?」
【ナイア】「あぁ…ありがと」
ナイアはルイから水を受取ると、弱々しく笑った。
女性陣程ではないが、ナイアにとってもダメージは大きいようだ。
【ラフィエル】「ナイア…元気がありませんね。私が慰めてあげましょうか?」
【ナイア】「うわっ!?」
急に耳元で声をかけられ、ナイアは受取った水を零しそうになった。
【ナイア】「ちょっ、いきなり耳元で喋るなよラフィ!びっくりするだろ!?」
【ラフィエル】「ナイアの元気がなかったので、つい」
にっこりとほほ笑んでそう言うと、今度はルイの方へ視線をやった。
【ラフィエル】「ルイは平気ですか?まぁ、死体の観察が出来ればそう心配する事もありませんが」
【ルイ】「それでも結構きつかったですよ。今は大分楽になりましたが」
【ラフィエル】「それは結構。真面目な話、あの程度でここまでヘタってしまっては話になりませんからね」
【ナイア】「…あの程度ってなんだよ!人が…あんな酷い殺され方してんだぞ!?それを…っ」
【ラフィエル】「しかし」
普段の穏やかな彼からでは想像出来ないくらいに冷めた声が、ナイアの言葉を遮る。
【ラフィエル】「それが"戦争"というものです。いかに多くの敵を肉塊にするかで勝負が決まる」
ラフィエルの真剣な眼差しを受けて、ナイアはそれ以上何も言えなかった。
そして、戦っている最中に一撃で命を絶っているということは、相手が相当の手練である証拠だとも説明した。
【ラフィエル】「今の私たちでは、おそらく一瞬で殺されてしまうでしょう。ですから、あの光景"恐怖"として覚えるのではなく"試練"として覚えて下さい」
【ルイ】「試練…?」
【ラフィエル】「恐怖に打ち勝つ試練…心を強く持つことです。それが私たちを強くしますからね」
先程の冷たい目ではなく、子供に諭すように優しい眼差しでルイとナイアを見つめる。
その思いを受取って、ルイはラフィエルに向かって頷く。
ナイアも水を一気に飲み干し、「頑張る」と返事をした。
【ルイ】「よしっ!ナイア、お互い頑張ろうな!」
【ナイア】「おうっ!」
【ラフィエル】「ふふっ、若いっていいですね〜」
ルイとナイアが固い友情を交わしている後ろで、ラフィエルは1人年寄りじみたことを呟いていた―――



思わぬところで時間をくってしまったルイ達だが、何とかその日のうちにビンズバーグへ着く事が出来た。
【ラフィエル】「日が暮れる前に着けてよかったですね。あんなものを見た後での野宿は恐いですから」
【ルイ】「そうだな。なんか夢にも見そうだし…」
【ラフィエル】「おや、だったら私が添い寝してあげましょうか?ぴったりと」
【ルイ】「は?」
【エルフィー】「何だいルイ、男のくせに情けないね」
そうからかわれていると突然背後から声を掛けられた。
【ラウス】「ルイ、今夜はここで宿をとるのか?」
【ルイ】「えっ!?あっ、うん。そのつもり」
ラウスに突然話し掛けられ、ルイは慌てて視線を戻した。
【ラウス】「じゃあ、俺が宿を探しに行って来よう」

俺も一緒に行くよ(断られる)
俺も一緒に行くよ(一緒に行く)


*俺も一緒に行くよ(友好度が低いと断られる)

【ラウス】「一人で結構」
ルイの申し出を一刀両断して、ラウスはスタスタと歩き去って行った。
【ラフィエル】「何か随分クールな人ですね、ラウスって。…一匹狼って感じで」
【ナイア】「でも、ラウスはただ冷たい奴じゃないんだぜ!たまに凄く優しい時だってあるんだから」
【ロゼッタ】「そうそう。私が足を滑らせて、捻挫して動けなかった時も手当てして下さいましたし」
ナイアとロゼッタがそれぞれラウスをフォローする。
【ナイア】「ラウスはただ人に接するのが慣れてないだけさ。いざとなるとどう接していいか、分からなくなるんだよ、きっと」
【ロゼッタ】「そうそう。きっとラウスさんは恥ずかしがり屋さんなんですわ」
ロゼッタの最後の一言は明らかに的外れなような気がした。
苦笑気味にルイが笑っていると、誰かがルイにぶつかってきた。
【?】「すみません」
【ルイ】「いえ、こちらこそ」
ルイにぶつかってきたのは、赤茶けた短髪に片目のモノクルをかけた男性だった。
ぶつかったルイに対し、男性は素直に頭を下げてきたので、ルイも謝り返す。
【?】「何処もお怪我はございませんでしたか?」
【ルイ】「えぇ、とくに」
【?】「それは良かった」
愛想良くそう微笑む男性だが、ルイはその男に妙な違和感を感じていた。
一見、人の良さそうな好青年に見えるのだが、彼の微笑みはどこか違和感を感じて仕方ない。
【ルイ】(何でだろう…この人、何か変な感じがする)
【?】「あっ、兄貴!こんな所にいたの?さっさと帰ろうぜ?ここ、もう用無しだし」
そんな声と共にルイ達の下に新たな人物が出現した。
赤いバンダナを額に巻いた金髪の少年、年はルイに近いように見える。
【?】「お言葉を返すようですがルキニン、あなたを探していたのは私の方ですよ。今まで何処にいたんです?」
【ルキニン】「あれぇ?そうだったの?アハハハハッ!ごめん、兄貴」
ルキニンと呼ばれた少年は頭を掻き、笑った。
モノクルの男性を兄貴呼んでいるが、兄弟には到底見えない。
【?】「では、どうも失礼しました」
【ルキニン】「じゃ、さいなら!」
ルイに対して再び頭を下げ、男性は少年を引き連れ、行ってしまった。
【ラフィエル】「妙な人達でしたね」
【ルイ】「…あぁ」
彼らの背中を見送りながら、ルイはラフィエルの言葉に頷いた。

【ルキニン】「兄貴、あいつらがどうかしたの?兄貴が一般人に話し掛けるなんて珍しいじゃん」
【?】「あなたは気が付かなかったのですか?」
【ルキニン】「何を?」
頭の後ろで手を組んで、ルキニンは飄々とした様子で聞いた。
【?】「彼ら、ルローラ殿が戦ったと言っていた人達ですよ」
【ルキニン】「えっ!マジで!?あの姉さんが負けかけたって言う?」
【?】「おそらく…」
【ルキニン】「ふ〜ん…そうなのか。俺にはそんな凄い奴らには見えなかったけどな」
背後を振り返って、そう言うルキニンにモノクルの男・サジは冷笑を浮かべた。
【ザジ】「あなたもまだまだ半人前ですね」
【ルキニン】「あっ!それ、どういう意味だよ!」
【ザジ】「そのうち、分かりますよ。きっとね…」
冷ややかな冷笑をザジは浮かべた。
見る者全てに寒気を覚えさせる冷笑―――――
【ザジ】「それよりも早くスラヴゲルト殿とヴィシュメール殿に合流しなきゃいけませんね」
【ルキニン】「確か、エイラン近くの森で待機してるはずだぜ?」
【ザジ】「では、急ぎますか。楽しい狩りの時間…楽しみですね」

<共通ルートに合流する>

*俺も一緒に行くよ
;ラウス+1

【ラウス】「……良いだろう。丁度、お前とは話がしたいと思っていた」
軽く頷いて、ラウスは先立ってスタスタ歩き出した。
【ナイア】「何だ、ルイに話って?」
ラウスの言葉にナイアは訝しげな顔を浮かべた。
【ラフィエル】「ルイ、私も一緒に行きましょうか?」
そう申し出るラフィエルに対し、ルイは手を横に振った。
【ルイ】「いいよ。ラフィエル達は必要な物を買っといてくれるか?」
【ラフィエル】「分かりました」
ラフィエルが頷いたのを見届けて、ルイは小走りにラウスの後を追った。
ラウスに追いついて、二人で並んで歩き出して数分…ルイ達の間に会話はなかった。
話がしたいと言っていたラウスも、何も話そうとしない。
そんな沈黙に耐えられず、ルイは思わず口を開いた。
【ルイ】「ラ、ラウスさんとナイアって仲良いですよね。同郷だって聞いたけど、ナイアは昔っからあんな感じ?」
ルイがそう言うと、ラウスはチラッとルイに視線を向けてから、視線を前に戻した。
【ラウス】「いや…昔のあいつは、とにかく弱虫で、いつもナキ…いや、兄貴の後ろにくっついていた」
【ラウス】「俺と初めて会った時も、兄貴の後ろにずっと隠れていたな」
話しつつ、ルイはラウスの口元が少し緩むのを見た。
【ルイ】「……ラウスさんにとっても、ナキアさんは大切な人だったんですね」
思わず、ルイがそう言うと、ラウスは歩みを止めて、バッとルイを振り返った。
【ラウス】「何故…その名を……」
【ルイ】「ナイアに聞いたんです。昔の事…」
それを聞き、ラウスは暫く無言だったが、静かに「そうか…」と呟いた。
【ラウス】「あいつ…何と言っていた?」
【ルイ】「自分のせいでお兄さんが死んだって…」
【ラウス】「違う」
【ルイ】「えっ?」
短く、それでいて鋭い口調で、ラウスはルイの言葉を否定した。
【ラウス】「ナキアが死んだのは、本当は俺のせいだ…」
【ルイ】「…どういう事?」
【ラウス】「ナイアが一人で森に入った時、ナキアや父と一緒に俺も探しに行った。そして、ナイアが襲われそうになっている所に遭遇して、俺は咄嗟に弓を構えたが…極度の緊張から矢を外してしまった」
【ラウス】「その結果、ナキアはナイアを庇って傷を負った。俺が無様な失態をしなければ、ナキアは助かっていたんだ…」
悔しげに、ラウスは呟いた。
それを聞いて、ルイは静かに目を閉じた。
【ルイ】(ナイアもラウスさんもお兄さんの死を自分のせいだと思って苦しんでる……でも、それって…)
【ルイ】「ラウスさん…ナキアさんはあなたのそんな顔、望んでないと思いますよ?」
ルイがそう言うと、ラウスはハッとして顔を挙げた。
【ルイ】「俺なら自分のせいで大切な人が悲しんでるのは見たくない。そっちの方が、後悔します。ナキアさんはラウスさんやナイアにそんな思いをさせる為に、死んだんじゃないと思いますよ」
【ルイ】「彼は、自分の大切なものを守り抜いた誇りを持って死んだと俺は思います」
ルイにそう言われ、ラウスの頭の中にナキアの最後の顔が浮かんだ。

【ラウス】『しっかりしろ!ナキア!!』
【ナキア】『…なぁ……ナイアは?』
【ラウス】『父上が一緒にいる!大丈夫だ!お前のお陰で、傷一つ負っていない!それより、お前が…』
ラウスがそう言うと、ナキアは安心しきった顔で微笑んだ。
【ナキア】『そっか……俺、守り切れたんだな…良かった』
ナキアは、確かにあの時笑った…
死ぬ事に対する恐怖の顔でも、痛みに耐える悲痛な顔でも、ましてや助けが間に合わなかったラウスを恨むような顔でもなかった。
安らかに、安心しきった顔で、ナキアは死んで逝った…。

【ラウス】(そうだな…あいつは昔から馬鹿みたいなお人好しで、自分の事よりいつも他人を気にかけて、自分の事はいつも二の次……そんな奴だったな、お前は…すっかり忘れてたよ)
何処かすっきりした顔で、ラウスは空を見上げた。
『ひでぇな、ラウス。一番の親友だろ?』と苦笑気味に笑うナキアの様子が見えるようだった…
そんなラウスの様子を見て、ルイはハッと我に返った。
【ルイ】「すみません!俺、何も知らないのに、偉そうな事言って…」
【ラウス】「いや…むしろ、感謝する。お前のお陰で、俺の中にナキアが帰ってきた気がする」
【ラウス】(もうあの時の夢を見る事もなさそうだ…)
ラウスは穏やかな顔で微かに口元を緩めた。
それにルイはホッと安堵の息を漏らした。
【ラウス】「時間を食ったな…宿を探しに行くぞ、ルイ」
【ルイ】「あっ、はい!」
ラウスの言葉に反射的に答えて、ルイが歩み出そうとしたその瞬間、傍を歩いていた人物とルイの肩がぶつかった。
【?】「すみません」
【ルイ】「あっ!いえ、こちらこそ」
ルイにぶつかってきたのは、赤茶けた短髪に片目のモノクルをかけた男性だった。
ぶつかったルイに対し、男性は素直に頭を下げてきたので、ルイも謝り返す。
【?】「何処もお怪我はございませんでしたか?」
【ルイ】「えぇ、とくに」
【?】「それは良かった」
愛想良くそう微笑む男性だが、ルイはその男に妙な違和感を感じていた。
一見、人の良さそうな好青年に見えるのだが、彼の微笑みはどこか違和感を感じて仕方ない。
【ルイ】(何でだろう…この人、何か変な感じがする)
【?】「あっ、兄貴!こんな所にいたの?さっさと帰ろうぜ?ここ、もう用無しだし」
そんな声と共にルイ達の下に新たな人物が出現した。
赤いバンダナを額に巻いた金髪の少年、年はルイに近いように見える。
【?】「お言葉を返すようですがルキニン、あなたを探していたのは私の方ですよ。今まで何処にいたんです?」
【ルキニン】「あれぇ?そうだったの?アハハハハッ!ごめん、兄貴」
ルキニンと呼ばれた少年は頭を掻き、笑った。
モノクルの男性を兄貴呼んでいるが、兄弟には到底見えない。
【?】「では、どうも失礼しました」
【ルキニン】「じゃ、さいなら!」
ルイに対して再び頭を下げ、男性は少年を引き連れ、行ってしまった。
【ラウス】「妙な奴らだな」
【ルイ】「…うん」
彼らの背中を見送りながら、ルイはラウスの言葉に頷いた。

【ルキニン】「兄貴、あいつらがどうかしたの?兄貴が一般人に話し掛けるなんて珍しいじゃん」
【?】「あなたは気が付かなかったのですか?」
【ルキニン】「何を?」
頭の後ろで手を組んで、ルキニンは飄々とした様子で聞いた。
【?】「彼、ルローラ殿が戦ったと言っていた人ですよ」
【ルキニン】「えっ!マジで!?あの姉さんが負けかけたって言う?」
【?】「おそらく…」
【ルキニン】「ふ〜ん…そうなのか。俺にはそんな凄い奴には見えなかったけどな」
背後を振り返って、そう言うルキニンにモノクルの男・サジは冷笑を浮かべた。
【ザジ】「あなたもまだまだ半人前ですね」
【ルキニン】「あっ!それ、どういう意味だよ!」
【ザジ】「そのうち、分かりますよ。きっとね…」
冷ややかな冷笑をザジは浮かべた。
見る者全てに寒気を覚えさせる冷笑―――――
【ザジ】「それよりも早くスラヴゲルト殿とヴィシュメール殿に合流しなきゃいけませんね」
【ルキニン】「確か、エイラン近くの森で待機してるはずだぜ?」
【ザジ】「では、急ぎますか。楽しい狩りの時間…楽しみですね」

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ライン

【シナリオ8】

次の日の早朝、まだ太陽すら顔を出していないような時間にルイは一人、目を覚ました。
中々寝付けず、結局朝まで起きていたのだ。
寝付けなかった原因は多々あるが、中でも一番大きな原因はやはりアレだろう。
折り重なった人…血に染まった緑―――
【ルイ】(俺達はあんな事を平然とやる連中を相手にしなきゃいけないかもしれない…)
そう考えると全然寝る事が出来なかった。
ルイは同室で寝ているナイア達を起こさないようにこっそり部屋を出て、ヒヤッとした朝の空気に身を晒した。

冷たい朝の空気は今のルイにとってとても心地よく感じられた。
【ルイ】(冷たくて気持ちいいや…)
大きく伸びをしていたルイの耳にザッ、ザッという誰かが歩いて来る音が聞こえた。
【ルイ】(こんな早朝に起きてるなんて一体誰だ?)
自分の事を完全に棚に上げたルイは首を傾げた。
朝靄の奥に灰色のシルエットが浮かび上がる。
【リュウラン】「早いね、ルイ…」
【ルイ】「リュウランか……何か寝付けなくてさ」
【リュウラン】「私も」
クスッと苦笑気味に笑って、リュウランはルイの手をそっと握った。
【リュウラン】「ねぇ…折角だから、少し散歩しない?」

*断る

【ルイ】「いや…俺は良いよ」
【リュウラン】「そう…」
【リュウラン】「じゃあ、私はその辺りブラブラしてくるね」
【ルイ】「気を付けろよ」
【リュウラン】「大丈夫」
杖をグッと握って、リュウランは気丈に微笑むと朝靄の中に消えて行った。
リュウランを見送って、ルイは近くにあったベンチに腰を下ろした。
胸一杯に朝の冷たい空気を取り込んだその時、朝靄の静けさの中にルイの耳は微かな悲鳴を捕らえた。
バッと立ち上がり、悲鳴が聞こえた方向を確認する。
【ルイ】「ッ…リュウラン!」
微かな悲鳴が聞こえた方向がリュウランの消えた方向と一致し、ルイは朝靄の中を駆け出した。
【ルイ】(やっぱり一緒に行ってやるんだった!)
後悔の念を抱きながら、ルイは濃厚なホワイトミルクのような靄の中を一気に駆け抜ける。
【ルイ】「リュウラン!」
靄の中に灰色のシルエットが数個浮かび上がり、ルイは声を上げた。
得体の知れない数人の男がリュウランを馬車の中に押し込もうとしている。
【リュウラン】「ッ…ルイ!」
【男】「オイッ、見られたぞ」
【男】「どうする?」
【男】「どうするも、こうするも見られたからには始末するしかねぇだろ」

*誘いに乗る
;リュウラン+1

【ルイ】「良いよ。行こうか」
【リュウラン】「やった!じゃあ、行こう!」
二人は並んで、朝靄の包む街を歩き出した。
濃厚なホワイトミルクのように、真っ白な視界の中をリュウランとルイは静かに歩いた。
ルイを散歩に誘ったのは、リュウランだがリュウランは無言のままだ。
何かを口にしようとしては、口を閉ざす行為を繰り返している。
【ルイ】「どうかしたのか、リュウラン?」
そんなリュウランを見て、ルイは自分から口を開いた。
ルイに問われ、リュウランが口を開こうとしたその時、朝靄の中から突然突き出した手がリュウランの口を塞いだ。
【リュウラン】「んっ!?」
【男】「よぅ、兄ちゃん…デートの邪魔して悪いな」
リュウランの背後から、得体の知れない男が顔を出した。
それに続くように、別の男達が靄の中から姿を現した。
【ルイ】「何だ、お前ら!?リュウランを放せよ」
【男】「へぇ…このお嬢ちゃん、"リュウラン"って名なのか」
【男】「まぁ、売られちまえば、名前なんて飼い主が勝手に付け替えるだろうけどな」
威嚇するルイを嘲笑うかのように、男達は下品な笑いを浮かべた。
【男】「おいっ、こいつはどうすんだよ?俺達の顔見ちまったぞ」
【男】「そりゃ、始末するしかねぇだろ?可哀想だけどな…恨むんなら、こんな朝早くに出歩いていた自分を恨むんだな」


ニヤニヤと下品な笑いを浮かべる男の言葉に、他の男達は同様の笑みを浮かべ、己々武器を取り出した。
武器を片手ににじり寄って来る男達に、ルイは自分の腰に手を回した。
【ルイ】(ッ!?しまった…)
腰に手を回し、ルイは自分が丸腰であった事に気が付いた。
部屋を抜け出す際に、ベッドサイドに剣を立てかけたままにしていたのだ。
【ルイ】(どうする…体術にはあんまり自信がないけど…)
ジリジリ近付いて来る男達を警戒しながら、ルイは取り敢えず構えた。
リュウランが捕まっている以上、自分が逃げ出すわけにはいかない。
【男】「おいおい…この兄ちゃん、やる気だぜ?」
【男】「彼女置いて逃げる訳にはいかないってか!格好良いねぇ」
丸腰で構えたルイを見て、男達が茶化すようにはやし立てた。
次第に囲まれるルイをリュウランが不安そうに見つめている。
迫り来る男達に、せめて先手を打とうとルイが重心を低くしたその時、ヒュンヒュンッという風を切る音が数発ルイの傍を通り過ぎた。
その直後、男達が「グワッ」と言う呻き声を上げ、次々と倒れ出す。
何が起ったのか全く分からないルイとリュウラン。
そしてリーダー格の男は突然の出来事に目を丸くした。
【?】「…下種が」
そんな言葉がルイの背後から聞こえ、ルイの隣に誰かが並んだ。
朝靄を振り払い、現れたのは淡い紫色の髪をした男。
ルイの隣に立ったその男は、持っていた弓矢をリュウランを捕らえる男に向かって構えた。
【?】「そいつを放せ。でなければ、撃つ」
鋭い眼光と鈍い光を放つ矢を向けられて、リーダー格の男は「ヒッ」と情けない悲鳴を上げた。
【男】「う、撃てるものなら撃ってみやがれ…この女に当たるぞ」
その言葉に、矢を構えた男はスッと目を細めると躊躇なく矢を放った。
【男】「グアッ!!」
矢は真っ直ぐにリーダー格の男の肩に突き刺さり、男は地に倒れ込んだ。
【?】「ふん…俺の矢が的を外すわけがないだろう」
矢を放った男は当然のようにそう言い、近くに停車していた馬車に近付いていった。
【リュウラン】「ルイ!」
それを呆然と見ていたルイの下に、解放されたリュウランが駆け寄ってきた。
【ルイ】「リュウラン、無事か!」
【リュウラン】「うん、大丈夫。でも、あの人は一体…」
怖かったのか、ルイの腕を掴んだままリュウランは助けてくれた男の方を振り返った。
男が近付いた馬車から次々にリュウランくらいの若い娘達が降りてくる。
娘達は全員、怯えたように馬車から出てきたが、地に倒れた男達を見て安心したように手を取り合って喜んでいた。
【ルイ】「…どういう事?」
【?】「あの女達は、売られそうになっていた町娘だ」
訝しがるルイ達の下に、男が近付いて来てそう言った。
【?】「こいつらは奴隷商人だ」
【?】「この朝靄に紛れて、女達を外に運び出す途中だったんだろうが、お前もついでにと手を出したんだろう」
リュウランを見ながら、男はそう言った。
【リュウラン】「助けてもらって、ありがとうございます」
【ルイ】「あっ、俺も…武器を持ってなかったので、危ない所でした」
リュウランとルイが礼を述べると、男は眉間に皺を寄せた。
【?】「…仕事だから、礼はいらない」
【ルイ】「仕事?」
【?】「……町の雇われ護衛だ。俺は人を探して旅をしている。その資金稼ぎの為にな」
ルイが尋ねると、男は面倒臭そうにしながらも答えた。
【ルイ】「そうなんですか…でも、やっぱりお礼は言わせて下さい」
【ルイ】「あなたがいなければ、俺もリュウランもあの子達も危なかったのは事実なんですから…本当にありがとうございました」
【ルイ】「あ、俺ルイって言います」
ニコッと微笑んで、ルイは握手を求めるように手を差し出した。
それを困ったように見つめ、男は仕方なさそうにルイの手を握り返した。
その瞬間、触れられた手から全身に伝わるようにルイの中を馴染みの感覚が走った。
連動するかのように、男のピアスが紫の光を放った。
【?】「! まさかお前、いやあなたが…」
突然光を放ったピアスに、男は驚いたような反応を見せたが、一瞬のうちに我に返り、ルイの前に跪いた。
【リュウラン】「えっ!?」
【?】「やっとお会いできました、ルイ様…」
【ルイ】「は!?一体…何を……?」
【ラウジエル】「ずっとお探ししていました。俺の仕えるべきお方」
【ラウジエル】「俺の名は、ラウジエル。今後我が命、ルイ様の為に…」
スッと頭を下げたラウジエルに、ルイとリュウランは顔を見合わせた。
【リュウラン】「"ルイ様"だって…何かルイ、王様みたいね」
【ルイ】「他人事だと思って…えぇっと、ラウジエルさん?とりあえず立って、それと、俺の事はルイで良いから!」
【ラウジエル】「畏まりました、ルイ様」
分かっていないラウジエルに、ルイは頭を抱える。
そんなルイとラウジエルを見て、リュウランは楽しそうに笑っていた。


【セルコウシュ】「レイ、ザジ達から連絡だ。チャーンとビンズバーグの間に待機していた帝国軍の残党を始末したそうだ」
【セルコウシュ】「取り逃しはなし。これで、帝国軍の残党もあと少数だな」
ザジからの報告を読み上げ、セルコウシュはレイを見た。
だが、レイは何処かうわの空な様子で呆然と肘をついていた。
【セルコウシュ】「おいっ、聞いているのか?」
【レイ】「ん?…あぁ、悪い。少しボーっとしていた」
【セルコウシュ】「大丈夫か?最近、ずっとそんな調子だ」
【レイ】「あぁ、心配ない」
レイの言葉に納得出来ない様子のセルコウシュは訝しげな表情をした。
【セルコウシュ】「本当に何でもないのか?」
【レイ】「何でもない。私は大丈夫だ」
【ラジノイド】「そうは思えないぞ。お前ここの所、本当にうわの空だ」
突然、その場に姿を現したラジノイドも同意の言葉を述べた。
【ラジノイド】「ルローラの報告を受けてからだな。あいつを破ったという、そいつらが気になるのか?」
探るようなラジノイドの言葉にレイは沈黙で答えた。
【セルコウシュ】「黙っているという事は、肯定なのか?」
【ラジノイド】「最近、迷惑双子の姿も見えないし…。あいつらに何を調べさせてるんだ、レイ?」
【レイ】「お前達には関係のない事だ」
軽く目を伏せ、レイはセルコウシュとラジノイドの質問を断ち切った。
それでも、納得行かない様子の彼らにレイは言葉を付け加えた。
【レイ】「少なくとも、今はまだ…」
【ラジノイド】「じゃあ、いつか話してくれるというわけか?」
【レイ】「そうだな…時がきたら、話す」
レイはそう言うと窓から差し込める光を見つめた。
そんなレイを見て、セルコウシュとラジノイドは軽く視線を交わすとその場を去った。
【レイ】「リュウラン…」
ポツリとレイが漏らしたこの言葉を聞く者は誰もいなかった。

【リュウラン】「?」
その頃、次の街・チェルニアに向かって歩いていたリュウランはふと足を止めて、空を見上げた。
【エルフィー】「どうしたの、リュウラン?」
突然、足を止めて空を見つめるリュウランに前を歩いていたエルフィーが声を掛けた。
【リュウラン】「何か…誰かに呼ばれた気がしたの」
【エルフィー】「? 誰かって誰に?」
【リュウラン】「分かんない。ほんの一瞬だったし…」
【エルフィー】「空耳じゃない?あたしには何も聞こえなかったよ」
【リュウラン】「そう…なのかな」
エルフィーの言葉にリュウランは自信なさ気に呟いた。
【エルフィー】「あまり気にする事ないさ。それより、ほら!早く行かないとルイ達において行かれちまうよ!」
【リュウラン】「あっ!うん、待って!!」
もう結構先に行ってしまったルイ達を追いかけて、リュウランは走り出した。
背後を振り返りつつ―――――

<目次に戻る>

ライン

【シナリオ9】

【ナイア】「あぁ〜!やっと着いたぜ!チェルニア!」
【ラフィエル】「今回は何の問題もなく着く事が出来ましたね」
【ラウス】「この次は森に入る。必要な物を買い込んでおくか」
地図を見ながら、ラウスが皆に告げた。
【ルイ】「それなんだけど…一つ、問題がある」
【ラウス】「何だ?」
妙に深刻そうな顔をしてルイがそう言うので、ラウスもつられて訝しげな顔になった。
【ルイ】「――そろそろ、お金が底をつきそうなんだ」
ルイ達の旅の資金は村を出発する際、村長から渡されたものだ。
最初はリュウランとの二人旅だった為にそれでも十分だったのだが、この間加入したラウジエルを含め、今や仲間はルイを除いて七名になった。
皆もそれぞれ旅の資金は持っていたのだが、殆ど一人旅用の微々たる資金。
大陸の半分まで旅をしてきて、資金が尽きかけているのだ。
【ルイ】「今晩の宿代くらいはありそうなんだけど…」
【ラフィエル】「それはマズイですね」
【ラウス】「何とかして資金を調達しなければ、ここから先厳しいな」
ルイの言葉に、ラフィエルとラウスも深刻そうな顔で頷いた。
その時、ロゼッタが壁の方を見ながらパンッと両手を合わせた。
【ロゼッタ】「なら、これに出場してみてはいかがです?」
パッと花が咲いたように微笑んで、ロゼッタは再度壁に目を向けた。
その言葉に皆が視線をロゼッタの見ているものに向けた。
【リュウラン】「チェルニア武道大会?」
【エルフィー】「そういえば、チェルニアは武道が盛んな地だったねぇ」
【ラフィエル】「えぇ…周囲の山々が絶好の修行スポットとかで、大陸中の猛者が集まってるって聞いた事がありますね」
リュウランが張られた紙の言葉を読み上げれば、エルフィーとラフィエルが思い出したように呟いた。
【ナイア】「すっげぇ!優勝者には賞金五十万だって!!」
ナイアの言葉に、全員が反応した。
【エルフィー】「…これは出場するしかないみたいだね」
【ラウス】「そうだな」
武器に手を掛けてエルフィーが不敵に笑えば、ラウスが頷いた。
【ナイア】「誰が出る?」
【エルフィー】「全員出てしまえばいいんじゃないかい?」
【ロゼッタ】「それでしたら、仲間同士でぶつかる可能性が高くなりますわ」
【ラウス】「じゃあ、精鋭を募るか」
ラウスがチラッとルイに視線を向けた。
話し合いの結果、出場するのはルイとラウスの二人に決まった。
【ナイア】「俺も出たかったなぁ…」
【ラフィエル】「またの機会がありますよ。この大会は定期的に行われている様ですし」
不満そうに頬を膨らませるナイアをラフィエルが宥めた。
【エルフィー】「たくさんの猛者達が出場する大会だからねぇ…あんた達、負けんじゃないよ!」
【ルイ】「頑張るよ」
【ラウス】「誰に言っている」
【ラウジエル】「ルイ様の手を煩わせずとも俺が…」
ぼそっと呟いたラウジエルの言葉を聞こえない振りをして、ルイはラウスの背を押して大会受付場へ急いだ。

小さな町の中心に構えられた巨大なコロシアム。
そこがチェルニアの中心地であり、メインスポットでもあった。
普段使われない場合は静かな町だが、今そこは猛者達の活気と熱気で暑苦しいほどだった。
【エルフィー】「見るからに猛者って奴ばっかり…暑苦しくてしょうがないねぇ」
【ロゼッタ】「頭の中まで筋肉で出来てそうですわね」
己の筋肉を自慢するように上半身裸でうろつく男、見せつけるように組み手をする男を見てエルフィーが眉を顰めた。
同じく男達を見てロゼッタは皮肉とも聞こえる言葉を吐いたが、ニコニコ微笑んでいる本人は純粋に感想を述べているつもりのようだ。
【ナイア】「ルイ達がめっちゃ浮いてるよ…」
周囲を取り囲む暑苦しい猛者達と違い、ルイ達はかなり浮いて見える。
ナイアがそう言えば、隣のリュウランは「大丈夫かな、ルイ達」と心配げに呟いた。
【ラフィエル】「大丈夫でしょう。見た目は確かに負けていますが、実力は確実にルイ達の方が上です」
一瞥してラフィエルがリュウランを安心させるように言った。
【エルフィー】「確かにそうだ。あいつらの敵になりそうな奴は………」
ラフィエルと同じように周囲を見回していたエルフィーはふと視線を止めた。
そこには、黒い外套を頭まですっぽり被った人物が立っている。
【エルフィー】「あれか…あいつはなんかヤバそうだねぇ」
【ラフィエル】「ええ…あの方だけ周りの見かけだけの方々とは雰囲気が違いますね」
エルフィーが目に止めた人物を見て、ラフィエルも目を細めた。
【?】「おぉ〜ぉ、おっさんみたいに暑苦しいのがいっぱいいる」
【?】「おい、フェニ!そりゃないぜ!俺はあんなに暑苦しくねぇよ!!」
突然その場に響いた大きな声。
"暑苦しい"と呼ばれた男達は次々に睨むように、音源に視線を向けた。
そこにいたのは、白銀に波打つ髪に銀色の瞳を持った青年と三十代後半ぐらいに見える男。
一斉にそこにいる皆の視線を集めた事に気付いた男は、「いや、すんません。言葉のあやですよ」と苦笑を浮かべて謝った。
【アヴェロ】「ほれ、お前も謝っとけって………フェニ?」
【フェニヴライユ】「おっさぁ〜ん、これおっさんの登録ナンバーだって」
突然消えたと思ったら、ハイッと参加者のナンバープレートを手渡す青年。
【アヴェロ】「おぉ、サンキュー…って、俺は参加するなんて言ってねぇぞ!」
【フェニヴライユ】「だって、賞金欲しいし」
【アヴェロ】「なら、お前が出ろよ!」
【フェニヴライユ】「俺、あいつら相手じゃないとやる気でない」
コテンッと小首をかしげて言う青年に男は頭を抱えた。
【アヴェロ】「これだからお前と二人の任務は嫌だったんだ…」
【フェニヴライユ】「ダメ?」
小首をかしげて上目使いの青年に、男は数秒の沈黙の後に苦虫を噛み潰したような顔で叫んだ。
【アヴェロ】「ったく…わぁったよ!出ればいいんだろ!出れば!!」
【フェニヴライユ】「さすが、おっさん。おっとこまえぇ〜」
パチパチと無表情で青年は男に合の手を入れた。

【ラフィエル】「…できますね、あの二人」
一見漫才のような下らぬやり取りを繰り広げていた彼らを見て、ラフィエルは呟いた。
【エルフィー】「確かにね」
【ナイア】「…なぁ、さっきから何でラフィとエル姐はそんな事が分かんの?」
頷いたエルフィーを見て、ナイアが尋ねればリュウランとロゼッタも頷いた。
【ラフィエル】「うぅ〜ん…何て言いますか、纏っているオーラが違うんですよ」
【エルフィー】「そうだね…あの漫才コンビと黒マントは動作に隙がなさ過ぎる。かなり戦闘に場慣れしている感じがするよ」
ラフィエルとエルフィーにそう言われ、ナイア達は再びその人物に視線を向けたが、ラフィエル達の言う意味は分からなかった。
【ラフィエル】「まぁ、いずれ分かりますよ」
ラフィエルがそう言って微笑んだ瞬間、大会の始まりを告げる鐘がなった。

この武道大会はトーナメント方式で行われる。
出場している猛者達に比べ、細身のルイ達を対戦相手は完全に下に見ていた。
しかし、いざ試合が始まればルイ達の方が周りの猛者を完全に圧倒。
順調にトーナメントを勝ち上がっていく。
そして、同じように勝ち上がったのはラフィエルとエルフィーの言ったように黒いマントの人物と漫才コンビの片割れだった。
【ラフィエル】「やはり勝ち上がってきましたね、あの二人…」
【ナイア】「次はあのおっさんとラウス、ルイと黒マントか…」
【リュウラン】「どうなるんだろう」
ナイアとリュウランは固唾を飲んで、中央の舞台に立つ二人を見つめる。

ルイを応援する
ラウスを応援する(条件付き)

*(ルイを応援する)

【リュウラン】「ラウスさんは大丈夫そうだから、ルイを応援してくる」
リュウランはそう言ってルイの元へ移動する。
【リュウラン】「ルイ、頑張ってね!」
【ルイ】「うん。精一杯頑張るよ」
エールを送るリュウランに微笑みかけてからルイは表情を一変させると、真剣な表情で目の前の対戦相手と向き合った。
頭まで黒い外套で隠されたその人物の素性は全く分からない。
だが、そこに立っているだけなのに、微塵の隙も見せぬその構えが只者ではない事を物語っていた。
そして、試合開始の合図と共にルイは身をもってそれを認識するのだった――

【審判】「さぁーっ、いよいよ大詰めとなってまいりました!!Aブロック準・決・勝ー!!王者への椅子はもう目の前だー!!多くの猛者どもを蹴散らしここまで来た強者はー!!」
【審判】「旅の途中で飛び入り参加!スタンダードな戦術で確実に勝利を収めてきた!田舎村のコルからぁ〜、青年・ルイ――!!」
【ルイ】「田舎村って…まぁ否定はしないけどさ…」
【審判】「続いて、もう1人ー!ここまでの試合を全て瞬殺K・O!姿も名前も一切が謎に包まれているその名も、謎の剣士――!!って、そのまんまだ――!!」
【?】「……」
【審判】「さぁー!両者前へ!!勝利を掴むのは一体どっちだ!?」

【審判】「それでは、始めッ!!」
先手は相手の方が速かった。
地を蹴り、一瞬でルイの背後に回り込む。
その黒い影を視界の端に捕えたルイは本能のまま、剣を構えた。
受け止められた剣と剣がぶつかり合う金属音が辺りに響いた。
一瞬の鍔迫り合いの後、相手が後方に引く。
剣を押す重みの無くなった瞬間、下に向きそうになる切先をルイは構え直した。
姿を捕えさせぬそのスピードと剣越しに伝わった力量に、ルイの額を汗が伝う。
汗を拭う余裕もなく、相手の出方を伺っていると目の前にいた黒い影が消えた。
【ルイ】「!?」
防御する暇もなく、眼前に迫る剣先を顔を逸らすだけで何とかかわす。
ルイの髪がはらりと落ちる。
顔を逸らさなければおそらく首筋に当てられ、一瞬で勝負がついていただろう。
【ルイ】「くっ!!」
咄嗟に剣を弾き相手を弾き返すが、次から次へと素早い剣撃が繰り出される。
それでも目で追い、剣撃をかわすがなかなか攻撃に転じれない。
【?】「…」
【ルイ】(速い…目で追うのがやっとだ。でも……)
目の前の黒い影が再び残像を残して消える。
一瞬で間合いを詰めた相手の剣を再び受け止めながら、ルイは剣を握る手に力を込めた。
【ルイ】(力は俺の方が強い!)
ルイの剣が相手の剣を弾く。
跳ね返された衝撃に相手が一瞬仰け反る。
隙の生まれた腹部にルイは強烈な蹴りを放つ。
しかし、紙一重で相手が後方へ飛びかわされる。
【ルイ】「っ!」
飛びのいた相手はスッと立ち直すと、剣を構え直しルイの出方を伺っていた。
【ルイ】(力は勝ったけど、スピードが追いつかない…それなら!)
ルイも剣を構え直すと、勢いよく飛び出した。
【?】「…」
真っ直ぐに剣を振り下ろし、相手に受けさせる。
【ルイ】(―――よし!)
数回の打ち合いの最後、ルイは渾身の力を込めて剣を振った。
【ルイ】「―――っせいっ!!」
【?】「!?」
ルイの力が勝り、相手の持っていた武器が勢いよく飛ぶ。
剣が飛ばされたその一瞬、相手の視線に隙が出来たのをルイは見逃さなかった。
【ルイ】「ふっ!」
相手の腹部に、再度蹴りを放つ。
【?】「―――チッ!」
だが、それに素早く反応した相手は右脚でその蹴りを防ぐ。
【ルイ】「!?」
その瞬間、ルイの体に一瞬だけ妙な感覚が走った。
勢いを殺しきれず、後方に飛んだ相手を見ながらルイは一瞬呆然とした。
【ルイ】(…何だ?今の)
立ち尽くすルイの前で相手がゆっくり立ち上がる。
【?】「…うか」
【ルイ】「えっ?」
相手が何か呟くのをルイは聞いたが、その言葉は聞き取る事が出来なかった。
落ちていた剣を拾い再び剣を構えて向かってきた相手に、ルイはハッと気を取り直す。
激しい剣と剣の攻防が繰り返される中、ルイは妙な違和感を感じた。
【ルイ】(何か…さっきと違う?)
先程の容赦ない攻撃とまるで違い、手を抜いたような攻め方をしているような気がした。
【ルイ】(勘違いかな?でも…)
繰り出された剣をいなし、隙の生まれた脇腹にルイは再び蹴りを決めた。
今度は防御される事無く、決まった蹴りに相手の体が場外に吹っ飛んだ。
【審判】「おーっと!謎の剣士、場外だー!!準決勝の勝者はルイに決まった――!!」
審判が声を張り上げる。
その声を聞きながら、ルイは吹っ飛んだ相手を見ていた。
場外に落ちた相手は何事もなかったかのようにスクッと立ち上がって、人ごみに消える。
【ルイ】(何だ…あの人…)
肩で息を切らしながら、ルイはリュウランに声を掛けられるまでその背をじっと見つめ続けた。
【リュウラン】「ルイっ!」
【ルイ】「っ!?リュウラン…何?」
【リュウラン】「"何?"じゃないよ!どうしたの?勝ったのにボーッとして」
【ルイ】「いや…何でもないよ」
既に見えない相手を探すように人ごみに一瞬視線を走らせてから、ルイはリュウランに顔を向けた。
【ルイ】「そういえば、ラウスさんはどうなった?」
【リュウラン】「それが聞いて!ラウスさん負けちゃったの!」
【ルイ】「えっ!?」
ラウスが負けるとは思っていなかったルイは驚いて声を上げた。
【ルイ】「ラウスさんに勝つような相手に俺が勝てるかな…」
【リュウラン】「あっ……で、でもルイ!2位でも賞金もらえるみたいだよ!」
不安一杯の表情で呟いたルイにリュウランは焦ったようにあまりフォローにならない言葉を告げた。

<共通ルートに合流する>

(ラウスを応援する)・条件付き


【ナイア】「ラウスの対戦相手が気になるから、ラウスを応援してくるな!」
ナイアはそう言ってラウスの元へ移動した。
【ナイア】「ラウス!」
【ラウス】「…ナイアか」
【エルフィー】「どう?勝てそうかい?」
エルフィーが問いかけるとラウスは相手を睨みながら、「分からない」と小さく呟いた。
その言葉にナイアは目を丸くした。
【ナイア】「ラウスが分からないなんて言うの、初めて聞いたな」
【ラウス】「あの男…ここまで勝ち上がってきたのは、まぐれじゃない。今だって、隙だらけのようだが、あれは…」
目の前で柔軟体操なんぞをしている相手を見ながら、ラウスはスッと目を細めた。
【ラウス】「獲物が自分のテリトリーの中に入って来るのを待ち構えている捕食者の目だ」
ラウスの言葉にナイアはゴクッと唾を飲んだ。
だが、対する相手は呑気に大口を開けて欠伸をしている。
とてもそうは見えない、とナイアは疑うような視線でラウスを見たが、ラウスの目は変わらず真剣だった。
【係員】「では、準決勝を始めます。両者前へ!」
係員の呼びかけに、ラウスは舞台中央に足を踏み出した。
反対側から男も腕をストレッチしながら歩み寄って来る。

【審判】「さぁーっ、いよいよ大詰めとなってまいりました!!Bブロック準・決・勝ー!!王者への椅子はもう目の前だー!!多くの猛者どもを蹴散らしここまで来た強者はー!!」
【審判】「旅の途中で飛び入り参加!華麗な弓さばきで敵を蹴散らしてきた!弓術戦士、ラウス・アドワイズ――!!」
【ラウス】「ふん…」
【審判】「続いて、もう1人ー!おっと、こっちも飛び入り参加だ!試合を全て一発KO!?凄まじい剛腕を見せつけてくれた、大剣使い・アヴェロ――!!」
【アヴェロ】「よっしゃ!次こそは俺を楽しませてくれよ?」
【審判】「さぁ!両者前へ!!勝利を掴むのは一体どっちだ!?」

【アヴェロ】「宜しくな、兄ちゃん」
ラウスと向かい合い、男・アヴェロはニヤッと人懐っこく笑った。
【審判】「それでは、始めッ!」
審判の合図と共に、まずラウスが先手を切った。
後方に飛び、アヴェロに向かって五本の矢を同時に射る。
それを予想していたかのように、アヴェロは「ホッ」と軽やかに後方にバク宙して避けた。
【アヴェロ】「いきなりカマしてくれるねぇ」
何処か嬉しそうにアヴェロは口笛を吹いた。
【ラウス】「あんたは油断ならない」
アヴェロに対してそう言い、ラウスは立て続けに二派・三派と矢を放った。
【ラウス】「うおっ!それは…っと!光栄だけどっ!ちょっとマジ過ぎねぇ?」
立て続けに放たれる矢を器用に紙一重で交わしながら、アヴェロは言った。
【ラウス】「チッ」
軽く舌打ちを洩らし、ラウスは次の矢に手を伸ばした。
【アヴェロ】「やっと隙みせたな!」
装填の隙を見て、アヴェロが一気にラウスとの距離を詰める。
一瞬で間合いを詰められ、ラウスの動きが一瞬止まった。
【ナイア】「ラウスッ!」
観客席からナイアが大声を出す。
その声にハッとして、ラウスは手に持った矢を素手で相手に投げつけた。
【アヴェロ】「うおっ!?おいおい、矢は弓で打つもんだろ!」
距離を詰めていたアヴェロは、いきなり目の前に放たれた矢に体を逸らして再度距離をとる。
【ラウス】「…戦場では戦い方に決まりはない」
その隙に弓に矢をつがえたラウスは悔しそうに呟いた。
弓術の腕を持つ者として、おそらくプライドが傷ついたのだろう。
【アヴェロ】「………」
【アヴェロ】「はははっ!そりゃそうだ!!戦場では何でもありだ。間違っちゃいねぇよ!」
アヴェロはそう笑うと、ラウスに向かい剣を構え直した。
【アヴェロ】「…じゃあ、ここは戦場だ。それなら”遊び”で立ちあうのは失礼だな」
先程までの軽い空気は一瞬で吹き飛ぶ。
【ラウス】「―――っ!?」
どうやら、起こしてはいけない獣を起こしてしまった―――ラウスはそう直感した。
【ラウス】(攻撃範囲に入れば確実に殺られる!)
アヴェロに向かい、先程よりも多く矢を放つ。
しかし、アヴェロはそこから動く事もなく、その大剣で全ての矢を叩き落としている。
【アヴェロ】「どうした兄ちゃん。これが本気か?」
【ラウス】「くっ…!!」
二派、三派と矢を放つが、まったく功を奏しない。
【アヴェロ】「―――隙だらけだぜ!」
そう叫ぶとアヴェロは矢を落としながら、一気にラウスとの距離を縮める。
【アヴェロ】「ほらよ!」
アヴェロの大剣がラウスの目の前で薙ぎ払われる。
バキッと木が砕ける音がして、咄嗟に盾にしたラウスの弓が半分に割れた。
斬撃の余波で、ラウスの体も後方にぶっ飛ぶ。
【審判】「ラウス場外――――!勝者はアヴェロ―――!」
【ラウス】「!?」
何とか態勢を立て直したラウスだったが、その片脚が場外に出てしまっていた。
その失態にラウスは悔しげに顔を歪める。
【アヴェロ】「俺の勝ちねぇ…場外なんてまどろっこしいもんなければ、引き分けって所か?」
アヴェロは自分のマントに突き刺さった矢を見ながら、呟いた。
もう数センチずれていたら、脇腹を抉っていただろう矢をアヴェロはマントから抜くとラウスに投げ返した。
【アヴェロ】「あの間合いから矢を放つとは大した腕だな」
【ラウス】「貴様こそ…あの間合いで避けられるとは思わなかった」
投げ返された矢を受けとって、ラウスは悔しげに言い返した。
【アヴェロ】「伊達に実戦経験多くないんでね」
【ラウス】「…軍人か?」
そう聞くとアヴェロはあからさまに嫌そうな顔をした。
【アヴェロ】「あんなんと一緒にすんなっての。俺は一端の傭兵って奴だよ」
【ラウス】「軍人に嫌な思い出でもあるのか?」
【アヴェロ】「あの帝国軍が好きって奴がいるんなら、お目にかかりたいもんだよ」
苦笑気味に笑って、アヴェロはラウスに背を向けて舞台から遠ざかっていった。
【ナイア】「ラウス!」
暫くその背を見送っていたラウスの元にナイアとエルフィーが近付いてきた。
【エルフィー】「大丈夫かい?」
【ラウス】「あぁ…弓が折れてしまったが、体は問題ない」
【ナイア】「俺、ラウスがぶっ飛ぶ所なんて兄ちゃん以外で初めて見た。あのおっさん、本当に強かったんだな」
【ラウス】「…あれでも随分手を抜いているようだったがな」
【ナイア】「マジッ!?」
ナイアが驚いたように目を見張り、もう姿の見えないアヴェロの後姿を探した。
【ラウス】「…ところで、ルイの方はどうなった?」
【ロゼッタ】「ルイさんなら勝ちましたよ」
ラウスの言葉に背後から答えが返ってきた。
見れば、ルイの試合を見に行っていたロゼッタがこちらに向かって歩いて来る。
【ロゼッタ】「ラウスさんは負けてしまったのですね」
【ラウス】「あぁ…不甲斐ないが」
【ロゼッタ】「でも、お二人が争わずにすんで良かったですわ」
ニコッとロゼッタは笑いかけた。
【エルフィー】「しかし、ラウスが負けるような奴にルイが勝てんのかねぇ…」
【ラウス】「今のルイではまず無理だな」
心配そうに呟くエルフィーにラウスがきっぱり告げた。
【ラウス】「相手とのレベルが違い過ぎる」
【ナイア】「じゃあ、ルイが勝つ可能性はないの?」
【ラウス】「ないな…相手に何か起こらない限り」

<共通ルートに合流する>

【審判】「待たせたな、野郎共!!ここまで来たぜ、決・勝・せ――ん!!玉座をかけた最後の一戦!!目ん玉かっぴらいてしっかり見てろよ!!」
【審判】「多くの猛者どもを倒して、その頂にのし上がってきた今回の挑戦者は―――!?」
【審判】「準決勝で相手を場外へぶっ飛ばした、田舎の原石・ルイ――!!」
【ルイ】「また田舎って!ちょ、やめてくれません!?」
【リュウラン】「ルイー、頑張ってねー!」
中央の舞台へ足を進めようとしたルイにリュウランが声をかけた。
それに自信無く微笑み返してから、ルイは足を進める。
【審判】「対するは剛腕の戦士・アヴェロ!!今回も一撃で勝負を決めてしまうのか!?」
【アヴェロ】「もう最終戦か、いまいち暴れ足りないよなー」
アヴェロもルイに続き中央へと進み出る。
【審判】「さぁ!!泣いても笑ってもこれが最後だ!最強の名誉と賞金を手にするのはどっちだ――!?」

【アヴェロ】「宜しく、兄ちゃん」
【ルイ】「こちらこそ、お願いします」
ルイが軽く頭は下げると、アヴェロは感心したように笑った。
【アヴェロ】「礼儀が良いな。フェニやどっかの双子に見習わせたいぜ」
【ルイ】「礼儀だけはきちんとするよう、父に教えられましたから」
【アヴェロ】「偉い!あいつらも兄ちゃんみたいだったら、もう少し可愛げっつうもんが………」
【アヴェロ】「いや…それはそれでキモイな」
どんな想像をしたのか、鳥肌を立てるアヴェロにルイは首を傾げた。
【審判】「おい、もういいか?」
【アヴェロ】「おぉ、悪ぃな」
【審判】「それではー、始めッ!」
審判の合図と共に、アヴェロが飛び出した。
大剣を振り被り、ルイへ向かって一気に振り下ろす。
間一髪大剣を避け、ルイは横に飛んだ。
【アヴェロ】「甘いぜ!」
ルイが横に飛んだ瞬間、剣先が軌道を変えた。
【ルイ】「なっ!?」
見た目にも大きな大剣は相当の重さのはずだが、アヴェロは片手でその軌道を変えた。
相当な筋力とコントロールがなければ骨が砕ける芸当をアヴェロは片手で軽々とやってのけたのだ。
ルイは持ち前の反射神経で、剣を構え、大剣を受け止めた。
だが、重い斬撃を受け止めきれず、ルイは後方に倒れる。
【アヴェロ】「良い反射神経だ」
大剣を肩に背負って、アヴェロは笑った。
【ルイ】(凄い衝撃だ…!)
ビリビリと体全体に衝撃が走る。
力が入らず立ちあがる事も困難だが、それでも剣を支柱にして立ちあがった。
【ルイ】「っ!?」
足がよろけ、転びそうになるが何とか踏みとどまる。
そして再度剣を構え、しっかりと相手を見据えて立ち合った。
【アヴェロ】「その姿勢も良いな。中々気にいったぜ?」
真っ直ぐ見つめ返す視線に感心して、アヴェロは試合中だという事を忘れ、声をかけた。
【アヴェロ】「なぁ、兄ちゃん名前は―――…」
【?】「アヴェロ!!!」
ルイに話しかけようとしたアヴェロは自分の名を呼ぶ声にビクッと肩を震わせた。
その声に恐る恐る背後を振り返るアヴェロにルイも興味深げにそちらに視線を向ける。
金髪の女性が厳しい形相で、アヴェロを睨みつけていた。
【アヴェロ】「げっ!?ネ、ネアン…」
【ネアン】「貴様、何こんな処で油を売っている!!仕事はどうしたのだ!!」
【アヴェロ】「いやぁ…だって、フェニの奴が賞金欲しいって俺を勝手にだなぁ…」
鋭い目で睨みつける女性にアヴェロはシドロモドロになりながらも、説明した。
だが、その言葉に女性は一層表情を厳しくする。
【ネアン】「何を言っている!ブライユなら先に向かっているぞ!!」
【アヴェロ】「何ぃっ!?」
女性の言葉に今度はアヴェロが驚いた。
【アヴェロ】「あんにゃろう…勝手に人を出させといて……」
【ネアン】「貴様が遊んでいた事はしっかり報告させてもらうからな!」
苦虫を噛み潰したような顔をしたアヴェロにネアンはそう告げると、クルッと背を向けた。
【アヴェロ】「ま、待てよ、ネアン!」
さっさと歩き出すネアンにアヴェロは焦ったような声を上げると、舞台から飛び降りた。
「あっ」と観客やルイが息を飲むが、アヴェロは気にする事無くネアンの後を追いかけて会場を飛び出して行く。
【審判】「…えっと……アヴェロ試合放棄!!勝者ルイ!」
アヴェロが消え、暫くの沈黙の後、戸惑ったように審判が宣言する。
対戦相手の戦線離脱という形で、ルイは優勝を勝ち取ったのだった――

【リュウラン】「良かったね、ルイ。優勝できて」
【ルイ】「でも、不戦勝にも等しいじゃないか…あのまま、戦ってたら俺が負けてただろうし」
【エルフィー】「まぁ、運が良かったと思うんだね」
不満げなルイの肩をエルフィーが慰めるように叩いた。
【ルイ】「運って言えば、準決勝の相手も変な感じだったんだよな…」
【リュウラン】「どういう事?」
思い出したように呟いたルイに、リュウランは首を傾げた。
【ルイ】「何か、わざと負けてくれたみたいな感じがして…」
【ラフィエル】「確かに…最後の一撃はあの方でしたら避けられたような気がしましたね」
ルイの言葉にラフィエルが頷いた。
【ラフィエル】「途中から攻め方が変わったように思いましたが、何かあったのですか?」
【ルイ】「分かんない…でも、確かあの人とぶつかった時、妙な感じが……」
【?】「力の共鳴――」
ルイ達の会話を遮るように、その言葉は別の所から寄せられた。
その声にルイ達が振り返ると、金髪に鋭いエメラルドグリーンの瞳を持った女性がこちらを見つめていた。
その身に纏うのは、見覚えのある黒い外套。
【?】「"時の力"を宿すお前と私の持つ"光のチュリ"が接触した事により、共鳴を起こしたのだ」
【ルイ】「"時の力"って……あなた、もしかして…」
【セリア】「あぁ。私の名はセリア。お前達と同じ者だ」
軽く頷いて女性・セリアは、ルイに向かって右手を差し出した。
その行為の意味を悟ったルイは軽く微笑んで、セリアの右手を握り返した。
体を走る慣れた感覚…
【ルイ】「…まさか、女性だったとは思いませんでした」
【セリア】「女が武道大会に出場してはいけないとでも?まぁ、なめられたくないから、私も姿が分からぬようにしていたのだがな」
ルイの言葉に苦笑しながら、セリアは姿を覆っていた黒い外套を取り去った――-

<目次に戻る>

ライン

【シナリオ10】

仲間が更に増えたルイ達は大陸の中央へ向かうため、俗に"迷いの森"と称される広大な森の中へ足を踏み入れていた。
太陽の光を遮るほど、うっそうと木の茂った森は少し薄暗く、妙に涼しかった。
【ナイア】「何か出そうな雰囲気だな」
【ラフィエル】「"何か"とは何の事ですか、ナイア?」
【ナイア】「こんな薄暗い場所に出る何かって言ったら、アレしかないだろ!」
【ラフィエル】「あぁ、お化けの事ですね。ひょっとして、恐いんですか?」
面白そうにナイアを見ながら、ラフィエルがからかったような口調でそう言った。
その言葉を受けて、ナイアは図星だったのか、顔を真っ赤にしながら吼えた。
【ナイア】「ち、違ぇよ!出そうだなって思ってただけだ!」
【ラフィエル】「おや、そうでしたか。でも、本当に出るかもしれませんね」
【ナイア】「えっ…?」
【ラフィエル】「ここは大陸一大きな森ですから。コンパスもない大昔はここで迷う人が後を絶たなかったそうです」
【ラフィエル】「ですから、ここで無残な死を遂げた人の魂が今もその辺りを…」
ラフィエルがそう言った瞬間、ナイアの近くの葉がガサッと音を立てた。
そして、そこから黒い影が飛び出し、宙に踊り出た。
【ナイア】「ギャアァァァッ!!!出た―――!!!!」
絶叫し、咄嗟的にラウスの背後にナイアは逃げ込んだ。
だが、その飛び出してきた黒い影はその体勢のまま、手に持った何かをセリア目掛けて振り下ろそうとした。
【セリア】「チッ!」
影の動きに機敏に反応したセリアは素早く剣を引き抜き、その影が振り下ろした何かを剣で見事に受け止めた。
カキンッ!という軽い金属音が響き、奇襲をかけたその影は背後に飛びずさる。
【?】「ん?お前…セリアか?」
【セリア】「どちら様だったかな?生憎、突然奇襲を仕掛けて来るような相手に知り合いはいないんだが」
【ヴィレンド】「いや、悪い。俺だ、ヴィレンドだ」
そう言って影は被っていた黒いフードを外した。
鋭い黒瞳、ストレートな黒髪を持った男が顔を見せる。
その顔を見て、セリアはやや険しい顔をしながらも構えていた剣先を下げた。

*(敵じゃない?)
;ヴィレンド+1

セリアが剣を下したことで、ルイは警戒心を解き剣を下げた。
【セリア】「…久しく見なかった面だな。で、どういう了見で襲ってきた?まさか、再会の挨拶などとふざけた事は抜かすまいな」
【ヴィレンド】「いやぁ、悪い!どうやら、奇襲を仕掛ける相手を間違えたようだ」
【セリア】「? どういう事だ?」

*(何で剣を?)

セリアが剣を下ろした事に疑問を持ったが、手にかけていた武器を下げ様子を見る事にした。
【セリア】「…久しく見なかった面だな。で、どういう了見で襲ってきた?まさか、再会の挨拶などとふざけた事は抜かすまいな」
【ヴィレンド】「いやぁ、悪い!どうやら、奇襲を仕掛ける相手を間違えたようだ」
【セリア】「? どういう事だ?」


ヴィレンドと名乗った男の言葉を聞いて、セリアは軽く眉を動かした。
【ヴィレンド】「俺は今、反乱軍を追っている。で、そのメンバーがこの森に入り込んだんだが、見失ってしまってな」
【セリア】「馬鹿か」
【ヴィレンド】「そう言うなって」
顔に似合わず、ヴィレンドは明るく笑った。
恐そうな印象を受けたが、どうやら悪い人ではなさそうだ。
【ルイ】「あの、セリアさん…」

*お知り合いですか?

【セリア】「知り合いってモノでもないよ。こいつはただの商売敵だ」
【ヴィレンド】「おいおい酷いなセリア。お前も相変わらず、か」
【ヴィレンド】「そういや名前まだだったな、俺はヴィレンドだ。いきなり襲い掛かって悪かったな、坊主」
剣を鞘にしまいながら、ヴィレンドはルイに謝った。

*仲良さそうですね
;セリア、ヴィレ+1

【セリア】「馬鹿を言うな!冗談じゃない!!」
声を荒げて否定する様子から、どうやら本気で言っているようだ。
【ヴィレンド】「なんだよ、そこまで嫌わなくてもいいじゃないか」
【セリア】「うるさい!」
セリアがかっかっして後ろに下がると、ヴィレンドがルイの前にやってきた。
【ヴィレンド】「そういや名前まだだったな、俺はヴィレンドだ。セリアとはちょっとした知り合いだ」
【ヴィレンド】「それより、いきなり襲い掛かって悪かったな、坊主」
剣を鞘にしまいながら、ヴィレンドはルイに謝った。


【ルイ】「いえ…」
【ルイ】「それよりも、ヴィレンドさんは何故反乱軍を追ってるんですか?」
【ヴィレンド】「ん?」
ルイの言葉にヴィレンドは怪訝な顔をした。
「何故、そんな事を聞く?」と表情が語っているのを見て、ルイは「唐突過ぎた」と思いながら訳を話した。
マクスウェルの話やチュリの導きの事を話すと、ヴィレンドは納得したように頷いた。
【ヴィレンド】「なるほどな…お前達が"精霊の守護者"というわけか」
【リュウラン】「"精霊の守護者"?」
リュウランが「何、それ?」と怪訝な表情で聞き返した。
【ヴィレンド】「世界の崩壊が近付く時、精霊長である時の精霊・クロノスは自分の力の一部を分け与えた人間をこの世に生み出す。それが"時の力を持つ者"…つまり、坊主の事だな」
ヴィレンドの言葉にルイは頷いた。
それは村を旅立つ時、村長や長に聞いた話だ。
【ヴィレンド】「そして、"時の力を持つ者"はこの世の"精霊の魂"を引き寄せる。それがお前らの持つチュリだ」
【ナイア】「"マナ"の宿ったものじゃないんだ…」
以前そう教えられ、ルイにもそう言ったナイアが興味深げに自分のネックレスを眺めながら呟いた。
その言葉に「それも間違いじゃない」とヴィレンドは告げた。
【ヴィレンド】「魔術の元と言われる"マナ"とは精霊の力を指す言葉だ。"マナ"は世界の何処にも存在していて魔道師はその力を引き出し、魔術を使う。そして、その"マナ"を含んだ鉱物は一般にチュリと呼ばれる。だが、本来の"チュリ"はただ"マナ"を含んだ物じゃなく精霊の魂の一部がそのまま結晶化した物体なんだ」
【ラフィエル】「つまり、一般に魔道師が使う"チュリ"と私達の持つ"チュリ"は名は同じでも全く別物というわけですよ」
知っていたらしいラフィエルがヴィレンドの言葉を要約する。
【ヴィレンド】「そういうこった。そして、その"精霊の魂(チュリ)"は精霊長の力に導かれる。世界の崩壊を止める"時の力"の元に"精霊の魂(チュリ)"を持つ者が集うというわけだ。そして、そいつらの事を精霊が遣わした世界の崩壊を食い止める者達…"精霊の守護者"と呼ぶんだ」
「へぇー」とナイアが感心したような声を上げるが、おそらく半分以上分かっていないだろうという顔をしている。
リュウランも同じような顔をして、頷いている。
エルフィーやロゼッタは知らなかったであろうが、その事実にあまり驚いている気配はない。
また何の反応も示さないラフィエル・ラウス・ラウジエル・セリアの四人は、おそらくこの事を知っていたのだろう。
【ヴィレンド】「さて、それから何で俺が反乱軍を追っていたのかについてだが…」
ヴィレンドが再び口を開いたその時、その場に人間の悲鳴が響いた。
それも一人や二人ではない、数十人の悲鳴が前方から聞こえてくる。
【ルイ】「行こう!」
素早く顔を見合わせたメンバーはルイの声に頷き、森の中を走った。
森の中を走る事数分、ルイ達の目の前の茂みがガサッと揺れる。
それに反応し、ラウジエルがルイを庇うように前に進み出た。
セリアもヴィレンドも警戒するように腰の剣に手を掛ける。
だが、その茂みから現れたのは血だらけの男だった。
恐怖に引き攣った顔をして茂みから飛び出して来たその男は、ルイ達の存在に気が付くとビクッと肩を震わせて懇願してきた。
【男】「ひぃぃぃぃ!?た、頼む!殺さないでくれ!!もうあんたらには逆らわないから!」
【ルイ】「落ち着いて下さい!俺達は敵じゃありません」
男のあまりの怯えように戸惑ったルイは男に向かってそう言った。
だが、その男の耳にルイの言葉などもはや聞こえていない。
ただ、ルイ達に向かってその男は命乞いをし続ける。
【男】「俺は上の命令に従っただけなんだ!だから、頼む!許してくれ!殺さないでぇ…!」
挙句の果てには土下座してそう言い始めた男の前にヴィレンドはしゃがみ込むと、軽く平手打ちを喰らわせた。
【ヴィレンド】「落ち着け!俺達は敵じゃない!落ち着いて話せ。何があった?」
【男】「は、反乱軍が…俺達、上の命令でこの森に待機してたんだ。そしたら、奴らが突然襲ってきて……」
頬を叩かれた事で男は少し冷静になったらしい。
だが、話す度に恐怖が蘇るのか、震えが酷くなる。
【ヴィレンド】「なるほど…それで、仲間は?お前一人か?」
【男】「仲間は知らない………みんな殺られた………たった……たった四人だった…なのに…数十人が」
この世の終わりを見たような表情でその男は一言ずつ語った。
その言葉を聞いたルイ達にも些か不安が広がる。
敵はたった四人で数十人の人間を殺してしまう程の実力者。
【ヴィレンド】「おい、悪いがそいつらの事をもっと詳しく…」
【?】「こんな所にいたのか」
ヴィレンドの言葉を遮って、新たな影が茂みの中から現れた。
濃い紫色の長い髪、目に黒い目隠しを巻いた男。
そして、白銀の長髪を片方に寄せて結った赤い瞳の少女。
どうやらこの少女は右腕が肘から下を失っているらしい。
長い袖が風でバサバサとなびいているが、腕がある様には見えない。
【男】「ひいいいいぃぃぃっ!!」
明らかにこの血だらけの男の仲間ではない事が、男の反応で一目瞭然だった。
彼らを見た瞬間、情けない声を上げて男はヴィレンドの背後に隠れたのだ。
【?】「一匹も取り逃すなとの命令なのでな。とりあえず、死んでもらおうか」
【?】「ちょっと待って下さい、所長。何か妙な連中までいますよ」
白銀の髪の少女が、目隠しの男に対し、そう言った。
妙な連中とはルイ達の事だろう。
【?】「誰か知らないけど、その男こっちに引き渡してくれない?」
【?】「僕達が用があるのは、あくまでそいつだけだしさ」
ニッコリ微笑んで、白銀の髪の少女はヴィレンドの陰に隠れる男を指差した。
その言葉の裏にある無常な言葉―――
もうその男以外は殺してしまった、という事を無言のうちに全員の脳裏に悟らせた。
【ルイ】「お前らが反乱軍か…」
【?】「そうだけど…、あんた達誰?帝国の人間?それなら殺すだけだけど?」
【所長】「ゲルド、さっさと終わらせよう。私はもう疲れた」
【ゲルド】「了解しました、所長!じゃあ、さっさと終わらせて帰りましょうか♪」
男の言葉にコロッと態度を変えた少女の周囲を異常な空気が包む。
その空気に絶えられなくなったのか、血だらけの男は一目散に駆け出した。
【ヴィレンド】「ばっ、バカ野郎!」
ゲルドと呼ばれた少女の掌が、背を向けて逃げる男に向けられた。
その瞬間、一瞬の強風がルイ達の間を駆け抜ける。
【男】「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルイ達の背後で絶叫が上がった。
男の体に深々と一本の白い槍のようなものが刺さっている。
まるで串刺し―――
男は当然その場に崩れ落ちた。
【ゲルド】「一丁上がりぃ♪今回の魔術は意外とイケてたかも」
パチンと指を鳴らして、ゲルドは軽やかに笑った。
【ゲルド】「さっ、これで仕事も片付いたし、さっさと帰ってお茶にしましょうね!所長」
【所長】「あぁ、そうだな」
何が起こったのか、ルイ達にはさっぱり分からない。
だが、一つだけ確かに分かる事はあの少女があの男を殺したという事。
相手は奇妙な魔術で大の男を一瞬にして殺してしまう程の実力者。
勝てる見込みは少ない。
だが、ルイは剣を引き抜かずにはいられなかった。
銀色の光を放つ切っ先が、二人組を真っ直ぐ捕える。
【ゲルド】「あれぇ?何、君?僕達とやる気なの?」
【所長】「懸命ではないと思うぞ。お前は帝国の人間じゃないのだろう?」
帰りかけていた二人はルイが剣を構えたのを見て、そう言う。
【ルイ】「それでも、俺は同じ人としてあんた達が許せない。帝国の人間なら、戦意の無い人間でも殺していいって言うのか?」
それはルイの静かな怒り。
ルイの背後にいたナイア達もルイの行動には驚いたが、その意見には賛成だった。
全員がルイに習い、各々の武器を構える。
そんなルイ達の様子を一瞥して、ゲルドは溜め息をついた。
【ゲルド】「僕達、結構多忙なんだよねぇ。一々、あんたらの正義に付き合ってらんないの。だから…」
【ゲルド】「――即効で終わらせてもらうからね」
再び向けられたゲルドの左手に魔力が集中する。
【ラフィエル】「ナイア!」
【ナイア】「OK、ラフィ!先手必勝!喰らえ、修行の成果!!風刃(エアスラスト)!!」
ゲルドの魔法が発動するより先にナイアがゲルドに向かって掌を向けた。
その瞬間、ナイアの手から暴風がゲルドに向かって発せられ、彼女の体を後方へぶっ飛ばす。
【所長】「ほぉ、風系の魔術か。ゲルドを吹き飛ばすとは中々の威力だな」
【ゲルド】「でも、大した事は無いですよ。実践不足ってやつじゃないかな?」
ニヤリと笑ってゲルドは両足を踏ん張って、それ以上後方に吹き飛ばされるのを堪えた。
【ラフィエル】「やはり付け焼刃の魔術じゃ、こんなもんですかね」
【ナイア】「こんなもんって言うな!俺、頑張ったんだぞ!柄にもなく!」
冷静にそう言ったラフィエルにナイアが泣きそうな顔をして言った。
【ラフィエル】「よそ見してる場合じゃないですよ、ナイア。…来ます!」
【ナイア】「へっ?」
ラフィエルの言葉にナイアが間抜けな声を出して前方を振り返ると、ナイアの目の前に強力な風の渦が広がっていた。
驚きのあまり避ける事を忘れ、呆然と立ち尽くすナイアをラフィエルが突き飛ばす。
間一髪、ナイアとラフィエルの間を風の渦が通り過ぎていった。
【ルイ】「ラフィ!ナイア!」
【ラフィエル】「大丈夫です、ルイ。私もナイアも無事ですよ!」
【ナイア】「これが…無事なのか?」
ラフィエルに突き飛ばされた拍子に茂みに頭から突っ込んだナイアが、髪に葉っぱを大量につけた状態でラフィエルを恨めしげに睨む。
【ラフィエル】「私の助けがなければ、もっと酷い事になってたんです。それより、マシでしょう?」
恨めしげなナイアの視線を浴びてもまったく動じず、ラフィエルは涼しげな表情でそう言い放った。
【ヴィレンド】「しかし、多少相手が悪いかもな。…こりゃ、卑怯とかフェアじゃないとか言ってられん。全員でかかるぞ」
【ルイ】「はい」
ヴィレンドの言葉にルイは素直に頷き、剣を真っ直ぐ構えた。
それに倣い、セリア、エルフィーは己の剣を構え直し、ラウス、ラウジエルは後方で弓を引いた。
【所長】「…これは少々骨が折れそうだな」
【ゲルド】「いいじゃないですか!僕の新作魔術を試す良い機会ですよ」
無邪気な笑みを浮かべ、ゲルドは掌に魔力を集中させた。
【ゲルド】「まずはこいつ!名付けて、爆弾魔球(バブルスボム)!」
少女の掌からシャボン玉のような球体が次々放たれる。
【ナイア】「何だ、これ?」
【ラウス】「ナイア!油断するな!」
ラウスがナイアに向かって鋭く叫んだその瞬間、ナイアの近くを漂っていたシャボン玉が爆発した。
その爆風により、ナイアの体が後方の茂みの中へ吹き飛ぶ。
【ラウス】「ナイア!」
【ナイア】「大丈夫!爆風は凄いけど、ダメージはほとんど無い!」
また頭から枝を生やし、ナイアは茂みから姿を見せた。
その言葉通り、特に怪我がない所を見ると爆風ほど威力はないらしい。
【ゲルド】「うぅ〜ん、失敗か。やっぱり相反魔術は無理だったかなぁ」
【ゲルド】「それよりも、もう少し比率を調整して…」
【所長】「ゲルド、あまり油断しない方がいいと思うぞ。…こいつら、何か―――」
少女に注意を促しかけた目隠しの男の言葉が途中で切れた。
その理由はルイが男の背後に回り込んで、回し蹴りを喰らわせたため。
強烈な蹴りが目隠しの男の脇腹を殴打する。
【所長】「グッ!?」
【ゲルド】「所長!?〜〜っ、このガキ!よくも所長に!!」
可愛らしい顔を憎々しげに歪めて、ゲルドはルイを睨みつけた。
【ゲルド】「黒焦げになりな!雷光陣(オーバーフラッシュ)!」
ゲルドの身体から目も眩むほどの閃光を伴いながら、雷が発生した。
今のルイの体勢は目隠しの男を蹴った勢いでバランスを半ば失っている。
この状態での回避は無理だ。
【ラウジエル】「ルイ様!」
まともに食らうと覚悟したルイとゲルドの間にラウジエルが割って入った。
【ラウジエル】「避雷壁(ヴォルトシルド)!」
ラウジエルの前で放たれた雷が曲った。
逸れた雷は周囲の木を焦がす。
【所長】「避雷の壁でゲルドの電撃を受け流すか…中々、戦い慣れているな」
服に着いた汚れを払いながら、目隠しの男は平然と立ち上がった。
ルイの蹴りがもろに入ったと言うのに、あまり堪えた様子はない。
【ゲルド】「それだけじゃないですよ、所長。ねぇ、あんたさぁ…僕と一緒じゃない?」
探るような目付きでゲルドはラウジエルの胸元に視線を向けた。
【ゲルド】「こんな所でまさか同類と出会うとはねぇ…その様子じゃ、性別化はしていないみたいだけど?」
鼻で笑って、ゲルドは自分の服の胸元を肌蹴させた。
肌蹴た服の隙間から覗く白い胸元には、直接結晶が埋め込まれており、その周りを奇妙な幾何学模様が包み込んでいる。
まるで胸元に華が咲いたかのように彩るソレを見せつけられ、ラウジエルは顔を顰めた。
【ラフィエル】「結晶の華…?」
【ヴィレンド】「あの女は結晶人か」
【リュウラン】「何?どういう事?」
分かったように話すラフィエルとヴィレンドに、リュウランは杖を構えたまま尋ねた。
【ヴィレンド】「結晶人ってのは、生まれつき胸元に結晶体を持つ一族の事だ。無性体として生まれ、その結晶に触れられる事で初めて性別が分かれる珍種の一族。見た目が人間と変わらないからな、狩られないように人に紛れて生活してるやつもいる」
【ラフィエル】「その性別化が済んだ証が、あの“結晶の華”…結晶人の一人前の証で、男女で模様が異なるそうですよ。私も初めて目にしましたけど…」
【リュウラン】「ラウジエルさんもその結晶人なの?」
【ラフィエル】「あの人の言葉通りならそうなりますね」
ラフィエルの言葉にメンバーの視線はラウジエルへと向かう。
その様子を見たゲルドはクスクスと笑い始めた。
【ゲルド】「何あんた、正体隠してたの?そっかぁ…じゃあ、皆が見てると恥ずかしいから”挨拶”が出来ないのかぁ〜」
【ラウジエル】「…っ!」
結晶人の種族慣習として、挨拶をする際は互いの結晶を見せ合うというものがある。
互いの性別を確認するというのもあるが、本来の理由は結晶人が住む里に部外者が侵入することを防ぐというのが目的だ。
結晶人の涙は結晶化し、とても貴重であるため民族狩りに目をつけられやすい。
その為の自衛手段として互いに結晶を見せ合うという風習が生まれた。
それが”挨拶” 。
ゲルドの言葉に顔を歪ませながら、ラウジエルも己の服の胸元を肌蹴させた。
同じような結晶体がその体に埋め込まれているが、ゲルドのような幾何学模様はない。
【ゲルド】「やっぱりネ。性別化も済んでないんじゃ、見せるのも恥ずかしいか」
【ラウジエル】「黙れ!!」
【ゲルド】「挨拶も出来ない半人前が僕の邪魔をしようなんて、百年早いよ!」
【ラウジエル】「ッ!!」
ゲルドが掌を向けたのと同時にラウジエルはルイを突き飛ばした。
押されてよろめいたルイの前に白い槍のような物体が突き刺さる。
先程男を串刺しにしたアレだ。
ラウジエルの反応が遅ければ、確実にルイの身体を貫いていただろう。
【ゲルド】「同類だからって、容赦しないよ。特に僕の所長を傷物にしたそのガキには、責任とってもらう!!白虎の牙(ホワイトファイング)!」
言葉通り、容赦なく白い槍の嵐がルイ達に襲いかかった。
ルイを集中的に狙っているようで、避けても避けても白い槍の雨が襲う。
他の皆も降り注ぐ槍を防ぐのが精一杯だ。
そんな中、ルイの足が盛り上がった木の根に躓いた。
【リュウラン】「ルイ!」
バランスを崩したルイに気が付いたリュウランは、咄嗟にルイの方へ駆け寄ろうとした。
だが、その背後に槍が迫っているのに気が付いたルイは、崩れたバランスのまま地面を大きく蹴った。
【ルイ】「リュウラン!」
リュウランの体を咄嗟に抱え、ルイは後方に倒れ込む。
庇われたリュウランは、そのまま中々起き上がろうとしないルイに戸惑った。
【リュウラン】「ル、ルイ?」
ルイの腕に手を置き、揺すろうとした時、リュウランの手にヌルッとした感触が伝わる。
生暖かいその感触に嫌な予感を覚えながら、ルイの体の下からリュウランは起き上がった。
そして、見た。
ルイの脇腹に深々と刺さる白い槍のような物体―――
【リュウラン】「ル、ルイ…?」
【ラウジエル】「ルイ様!!」
【ナイア】「ルイ!?」
リュウランの目に蒼白で痛みに顔を歪めるルイの顔と腹部に広がる真っ赤な血が映る。
【ラウジエル】「ルイ様!?大丈夫ですか!?」
【ラフィエル】「私が治療します!どいて下さい!」
ラウジエルとラフィエルがルイの下に駆け寄る。
それ以外のメンバーはルイを心配しつつも、今だ容赦なく襲ってくる白い槍を防ぐ事に専念した。
【ラフィエル】「とにかく出血を止めないと…!」
ラフィエルがルイの脇腹に刺さる槍を抜き取る。
苦痛に歪むルイの顔と、槍を抜き取った瞬間に溢れ出す血を見たリュウランは、ルイに負けないほど蒼白な表情をしていた。
【リュウラン】(わ、私…また助けられた?ルイに?私…また足手まといになった?)
手についたルイの血を見つめ、リュウランは自分の体が震えているのを感じた。
【リュウラン】(いや…私のせいで……私のせいでルイが……そんなの嫌っ!!)
手をギュッと握り締め、リュウランはルイの傍からゆっくり立ち上がった。
突然、立ち上がったリュウランを見てラフィエルが怪訝な顔をする。
【ルイ】「リュ…ラン…?」
蒼白な血の気の失せた表情のルイが虚ろな瞳でリュウランを見上げた。
【リュウラン】「ルイ、ごめんね。私が…私が助けてあげるから!」
瞬間、弾かれるようにリュウランの頭の中に言葉が浮かんでは消えていった。
…そして、最後に―――

―――呼びなさい―――

一度目を閉じ、再び開けたその瞳は鋭い。
そして、流れるように言葉を紡いだ。
【リュウラン】「そなたの翼は我が背にあり 刃は我が手にあり 納めよ」
【リュウラン】「そして 目覚めよ 我が血の契約の下 その姿を我が前に曝け出せ!」
リュウランの持つ杖を中心に巨大な魔術円が一瞬で描かれ、水面のように地面が波打った。
その場にいた全員が、それと共に起こった強風に顔を顰めた。
真っ黒な水面のようになった地面から、黒い水の球体が浮かび上がる。
鼓動のように脈打ったその球体は突然、黒い水飛沫を散らし、破裂した。
悪魔を思わせる黒い翼、血のように紅い三つの瞳、褐色の肌を持ち、赤黒い長い髪を持ったモノがその球体から飛び出す。
一見人間のようにも見えるが、そのモノの覆う禍々しいオーラは尋常ではなかった。
【?】『あ”ぁ?…俺を呼んだのは貴様か?』
直接心に響くような声で、そのモノは一気にリュウランの目の前まで迫った。
血を思わせる紅い三つの眼がリュウランを捕える。
【?】『あぁ…その紫暗の瞳(め)は確かにミネルバの血を引く証だな。…俺に力を貸して欲しいってのか?』
【リュウラン】「えっ?」
【?】『二度も言わせんな!俺の力を借りたいのか?借りないのか?』
その言葉に戸惑ったような表情を見せたリュウランにそいつはそう怒鳴った。
【リュウラン】「わ、私は…強くなりたい!ルイを助ける力が欲しい!だから、貴方の力を貸して!サタン!!」
【サタン】『ハッ…上等だぜ。お前を後継者と認めてやるよ!』
リュウランの言葉を聞き、サタンは鋭い牙を見せつけて笑った。
【エルフィー】「な、なんだい…?アレは…」
【セリア】「分からない…だが、リュウランのチュリが光ったような気がした」
【ロゼッタ】「チュリが…?そうなりますと、あれは…」
【ヴィレンド】「……精霊、なのか?まさか、あのお嬢ちゃんは…」
皆が目の前のそいつに気を取られていると、目隠しの男は少し後ずさった。
【所長】「ゲルド、これは…マズイぞ」
【ゲルド】「僕もそう思います、所長。これは早急に片をつけるべきですね!」
ゲルドの掌に、先程よりも更に魔力が集まる。
何か強力な魔術を放とうとしている証拠だ。
【ゲルド】「喰らえ!僕の自信作!名付けて、紫電の嵐(ライジングストーム)!」
電気を帯びた強力な竜巻がサタンに向かって放たれる。
普通の人間なら、間違いなく死んでしまう威力の魔術だ。
だが―――
【サタン】『拡散(ディザブル)!』
叫びと共にサタンに向け、放たれた魔術は全てその掌に掻き消されてしまった。
【ゲルド】「なっ!?」
【サタン】『俺様に魔術は効かないぜ。何故なら、俺様は全てのマナを操る最強の精霊・サタン様だからだ!』
唖然とする敵に向かって、サタンは不敵に微笑んだ。
【サタン】『さてと、今度はこっちの番だな。久々の外だ。思いっきり暴れさせてもらうぜ!』
サタンが手を上に伸ばす。
強力なマナがダークボールのように固まった球体として姿を見せる。
【サタン】『潰れちまいな!』
不敵な笑みと共にサタンが重力の塊を目隠しの男達の方へ投げ付けた。
【所長】「くっ!大きい!」
【ゲルド】「所長、ここは僕が!!」
ゲルドが手を翳し、防御魔法を張る。
だが、その強力な重力の前では無意味に等しかった。
バキッという嫌な音と共に防御魔術の結界が壊れる。
【所長・ゲルド】「グアァァァァァァ!!」
男達はその重力の塊に押し潰され、苦しげな声を上げた。
だが、サタンの攻撃は容赦なく続く。
【サタン】『次行くぜ!熱いのは好きか、貴様ら!』
空に浮かぶ、サタンの周囲に鬼火とも言える青い火の玉が次々と浮かぶ。
それらはサタンが手を翳すと一斉に二人に向かって降り注いだ。
【ロゼッタ】「凄い…」
その光景を見ていたロゼッタの口から思わずその言葉が漏れた。
それは皆が先程から思っていた事の代弁。
圧倒的な魔術、圧倒的な力―――
これが精霊・サタンの力。
そのサタンを呼び出したリュウランも相当のものだ。
【サタン】『さぁて…そろそろ仕上げと行くか』
完全に息を切らしボロボロになった男達に、サタンは悪魔と呼ぶにふさわしい微笑を向けた。
だが、急にサタンの様子に変化が訪れた。
ビクン!と体を震わせて、その体が徐々に透け始めたのだ。
【サタン】『グッ!?やべぇ…やり過ぎたか!』
妙に慌てたサタンの視線の先にはフラフラになりながら立ち続けるリュウランの姿があった。
【ナイア】「え?リュウラン、どうしたんだ…?」
【ヴィレンド】「まずい、魔力が切れかけているんだ!精霊を呼び出し続ける事自体、相当なはずだぞ!」
【ラフィエル】「何ですって!?過度な魔力の使用は死を招きます!これ以上は無理です!!」
【リュウラン】「……………」
【ヴィレンド】「嬢ちゃん!もういい!もうやめるんだ!!」
【ルイ】「リュウラン!?」
ルイが名を叫んだのとほぼ同時にサタンの姿は消え、リュウランはその場に倒れ込んだ。
【ルイ】「リュウラン!」
【ラフィエル】「ルイ!まだ治療が終わってません!動かないで下さい!」
【ルイ】「でも…リュウランが!」
【ヴィレンド】「任せろ。嬢ちゃんは俺がみる」
暴れるルイの肩にそっと手を置き、ヴィレンドが優しげに微笑んだ。
その時、ルイは感じた。
肩に置かれた手から体の中を駆ける例の感覚を―――――――――
【ルイ】「これは…?」
ヴィレンドの右腕のアンクレットが鈍いダークの輝きを放つ。
それはルイの中を駆け巡るあの感覚と同調しているように思われた。
唖然としてルイがヴィレンドを見上げると、ヴィレンドは安心させるように頷く。
【ヴィレンド】「俺もお前らと同じ"精霊の守護者"なんだ…」

【シュライヤ】「あれを操るには、あの姉ちゃんじゃ力不足だったみたいだな」
数十メートル離れた高い木の上。その枝に腰掛け、シュライヤは呟く。
離れた所の状況を、双眼鏡も何もなしの肉眼でシュライヤは把握していた。
【シュライヤ】「あんな精神状態でサタンを呼び出すなんて、無謀だね」
【シュライヤ】「でも、あれを呼び出せるって事は正当なミネルバの血族…これはレイに報告だな」
【シャライヤ】「私、メーちゃんとスラちゃん、拾ってくる。たぶん、死んでないし」
シュライヤの隣に立つシャライヤが、楽しそうに笑う兄に向かってそう言った。
【シュライヤ】「あぁ…それもレイに報告しとかなきゃな」
小悪魔のような微笑を浮かべて、シュライヤはクスクス笑い続ける。
そんな兄に同調するようにシャライヤもクスッと笑い、木の上から姿を消した。
一瞬遅れて、シュライヤも木の上から姿を消す。

<目次に戻る>

ライン

【シナリオ11】

あの事件から二日が経過し、ルイ達は風の谷と呼ばれる渓谷に入っていた。
あの二人組はいつの間にかその場から消え去っており、生死は確認出来なかった。
ルイの傷もラフィエルの回復魔術のお陰で痕も残らず、今は綺麗に塞がっている。
だが、リュウランだけはサタン召喚の魔力の消費が激しかった為か、眠ったままの状態が続いた。
【ルイ】(それにしても…)

*(まさか守護者だったなんて)
;ヴィレンド+2

【ヴィレンド】「ん?どうした?」
【ルイ】「あ、いえ。まさかこんなところで守護者の人に会うなんてって思って」
【ヴィレンド】「それをいえば俺だって。まさか、こんな坊主が自分の主人になるなんて思いもしなかったよ」
笑いながら大きな手でルイの頭をわしわしと撫でる。
【ナイア】「なぁ、そんなことよりリュウランは大丈夫なのか?ずっと眠りっぱなしだけど…」
【ヴィレンド】「心配すんな。必要以上に魔力を消費した反動だ」
【ヴィレンド】「魔力を消費した分、それを回復させるために一時的に眠りについているだけにすぎん。命の危険性はない」
一番体が大きいという理由で眠ったリュウランを背負っているヴィレンドが、心配そうなナイアに向かって安心させるようにそう言った。

*(大丈夫かな)
;リュウラン+1、ヴィレンド+1

リュウランをじっと見つめていたルイの視線に気が付いたヴィレンドは、ルイの頭に自分の大きな手を置いた。
【ヴィレンド】「心配すんな、ルイ。必要以上に魔力を消費した反動だ」
【ヴィレンド】「魔力を消費した分、それを回復させるために一時的に眠りについているだけにすぎん。命の危険性はない」
一番体が大きいという理由で眠ったリュウランを背負っているヴィレンドが、心配そうなルイに向かって安心させるようにそう言った。


【ルイ】「眠ってるだけ…良かった」
【ナイア】「でもさ、リュウラン凄かったよな!」
【ラフィエル】「そうですね。まさか私も、噂の"召喚"を間近で見られるとは思っていませんでしたよ」
【ルイ】「噂?」
【ラフィエル】「おや、知りませんか?何十年か前に浮上した話です」
【セリア】「"精霊を呼び出す"…"召喚"を生業としている女がいる、というやつだったな」
【ラフィエル】「ええ、彼女の噂は私の里にも伝わっていました。"精霊"という異形を呼び出す事が出来る…とても興味がある話でしたね」
【ラフィエル】「まぁ、その話もすぐに消えてしまいましたが…」
【ナイア】「消えた?」
【セリア】「ああ。噂が出て数年後、急にその話題が無くなった。だから結局の所、ただのガセだったんじゃないかと言われている」
【ルイ】「でも実際は…」
【ラフィエル】「リュウランも"召喚"が出来た。ということは、昔の噂も本当だったようですね」
【ヴィレンド】「その通りだ。彼女は精霊を召喚して、魔物退治や土地に恵みを与えたりと様々な事をしていたらしい。召喚するには膨大な魔力を使用するが、彼女はそれを厭わず各地で活動していたようだ」
【ルイ】「ヴィレンドさんはどうしてそこまで知ってるんですか?いるかいないかの噂でしかなかったのに…」
【ヴィレンド】「…直接現地に行って話を聞いたからな。彼女を探していたんだ」
【ルイ】「そうだったんですか?」
【ヴィレンド】「ああ、…人に頼まれてな」
【ルイ】「へぇ…それにしても、ヴィレンドさんは本当にいろいろ知ってますね」
【ヴィレンド】「ん?まぁ、俺も大分歳をとってきたしな…」
【ルイ】「"精霊の守護者"の事もそうですけど、俺…自分の持つ"時の力"についても何一つ知らなかった……」
自分の事なのに知らない事が多過ぎる――
前々から思っていた事であるが、ヴィレンドと出会ってからルイはそれを更に痛感した。
【ヴィレンド】「ん…まぁ、"精霊の守護者"や"時の力"の話は一種の伝説話だからな…年寄りか考古学者ぐらいしか知らない話だ。俺だってこの"闇のチュリ"に選ばれるまでは全く知らなかったしな」
お前みたいな若者が知らなくても不思議はない、とヴィレンドは言った。
【ヴィレンド】「これから知っていけばいい話だ。俺でよければ、いろいろ教えてやろう」
【ルイ】「ありがとうございます!…師匠(せんせい)!」
パァッと表情を明るくして答えたルイの言葉にヴィレンドがずっこけた。
【ルイ】「大丈夫ですか?」
【ヴィレンド】「あ…あぁ…だが、ルイ。何故、いきなり"師匠"なんだ?」
【ルイ】「? 人生や戦いに置いて師と思える人は師匠と呼びなさい、って父さんが…」
【ヴィレンド】「…ルイ、お前クソ真面目だと言われた事無いか?」
【ルイ】「何で分かるんですか?」
大真面目にルイが聞き返すと、ヴィレンドはやや疲れたような表情で「何となくだ」と答えた。
【?】「…やっと来ましたね」
ヴィレンドの様子にルイが首を傾げたその時、そう言う声がした。
前方の岩場にもたれかかり、こちらを見つめる赤茶けた短髪に片目のモノクルをかけた男性。
【ルイ】「…あっ!」
仮面のような笑顔を浮かべる男にルイは思わず声を上げた。
ビンズバーグの町で、ルイにぶつかってきたあの男だ。
その証拠に彼のもたれかかっている岩の上には、見覚えのある金髪の少年がいる。
【?】「どうやら、覚えていて頂けたようですね。これは光栄」
岩から背を離し、モノクルの男はルイに向かってニッコリと微笑んだ。
その微笑みにヴィレンドが少し警戒の色を示す。
【ヴィレンド】「ルイ…こいつらはお前の知り合いか?」
【ルイ】「いや、そういうわけじゃないけど…」
ただすれ違っただけの自分を待っていたかのような発言をする男に、ルイは戸惑うような視線を向けた。
そんなルイの視線を構う事無く、男は口元に手を当て観察するようにルイ達を眺める。
【?】「ふむ、見た所帝国軍の方ではないようですが…それにしても意外ですね。まさか貴方方があのスラヴゲルド殿とヴィシュメール殿を倒すとは」
【ナイア】「? 誰だ?そのスラ…何たらってのと、ビシュ何たらって?」
長い名前を聞き取れなかったらしいナイアが、首を捻ってそう言う。
【?】「おや、ご存じない?あなた方が最近、迷いの森で戦われた方達ですが」
笑顔で言うその言葉に全員が目の前の男に警戒を示した。
名前は知らなくとも、最近戦った者…それはあの二人組以外に他ならない。
【ヴィレンド】「お前は…反乱軍の一味か?」
【ザジ】「えぇ、私の名はザジ。この子はルキニン。私達はレイ様の指揮する、反乱軍の人間です」


所変わって、反乱軍の拠点。
今、広間にはレイ以外のメンバーは一人もいない。
静かに窓の外を呆然と眺めていたレイの視界で、木々がざわめく。
【レイ】「…シュラか?」
【シュライヤ】「何だ、バレてたの?」
そう言ってレイの座る椅子の裏から、シュライヤがつまらなそうな表情で現れる。
神出鬼没とは彼のための言葉かもしれない。
【レイ】「何の用だ?」
【シュライヤ】「報告。レイに頼まれてた件のね」
背後から現れたシュライヤに目もくれていなかったレイは、その言葉で微かに表情を変えた。
【レイ】「何か分かったのか?」
【シュライヤ】「愚問だね、レイ。俺達が何の情報も無しに帰って来るとは思ってないだろ?」
【レイ】「前置きはいい。結果は?」
【シュライヤ】「レイの予想通り。あの姉ちゃん、ミネルバの血を引いてるよ」
椅子の肘掛に腰掛けたシュライヤはそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、普段からあまり感情を表に出す事のないレイの顔に変化が訪れる。
【レイ】「間違いないのか?」
【シュライヤ】「あの姉ちゃんが、サタンを呼び出した時点で決定事項だろ?」
【レイ】「なるほど…サタンを呼び出したか。なら、お前の言うとおりで間違いないな」
そう呟いて、レイは椅子から立ち上がった。
シュライヤは椅子の肘掛に腰掛けたまま、レイの背中を見やる。
【シュライヤ】「レイ?」
【レイ】「シュラ、イフスとバルドを呼び出せ。一仕事、頼みたい事がある。それから先生にも来て頂いてくれ」
【シュライヤ】「了解♪」
ニヤッと笑って、シュライヤが姿を消す。
部屋に再びレイだけが残る。
【レイ】「まさかとは思ったが…生きていたなんて――――」

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ライン

【シナリオ12】

自身が反乱軍のメンバーであることを明かしたザジと名乗る男は、胸に手を当て優雅にお辞儀をしてみせた。
しかし、ルイたちは"反乱軍"である男たちに対し戦闘態勢をとる。
自分たちに剣を向けられると、ルキニンと呼ばれた少年が岩から飛び降りる。
素早くザジの隣に構えたが、それを片手で制してザジは変わらず笑みをルイ達に向けた。
【ザジ】「そう警戒なさらずに…別に、私達は仲間の敵討ちに来たわけじゃありませんから」
【ルイ】「じゃあ、何しに来たんだ」
腰の剣に手を伸ばしながらルイが尋ねると、ザジはスッと目を閉じた。
【ザジ】「私はただ確かめに来ただけです。貴方方が、私達の行く手を阻む者かどうかを…」
言葉と共に再び目を開いたザジの浮かべた微笑みは先ほどとは異なる冷笑。
直視したルイの背を、ゾクッと寒気が走った。
その顔が抱かせるのは"恐怖"―――…
【ルイ】「っ…!」
思わず気負いしたルイの剣先が一瞬だけ下がる。


するとルイを庇うように前に出る人影があった。
【ルイ】「!」
その背中はいつも一緒に前線で戦ってくれる人――

デフォルト
エルフィーの友好度が高い
ナイアの友好度が高い
ラウスの友好度が高い

*ラウジエル
;ラウジエル+1

それはラウジエルのものだった。
【ラウジエル】「ルイ様はお下がり下さい」
そう言うと再度武器を構え直し、照準をザジへと合わせる。
その様子に、ザジは笑みを深めた。
【ザジ】「なるほど…リーダーは貴方ですか」
ザジの掌が、ルイに向かって向けられた。
【ザジ】「阻む壁(ベルリンブロック)」
ルイ達の間に巨大な半透明の壁が出現し、ルイ達を分断した。
【ザジ】「さぁ…これで余計な邪魔は入りません」
【ロゼッタ】「ルイさん!!ラウジエルさん!!」
突然出現した、ルイ達を分断させた壁を叩きながらロゼッタが叫んだ。
【ヴィレンド】「退け!」
ロゼッタを退かせ、リュウランをセリアに預けたヴィレンドが壁に向かって攻撃を仕掛ける。
しかし、強固な壁には傷一つ付かなかった。
【ヴィレンド】「クソッ!駄目か…」
【セリア】「闇属性の防御魔法だ。この壁はどんな物理攻撃・魔法攻撃も通さない。しかし、これだけの広範囲に展開させるとは…あの男、かなりの腕だぞ」
リュウランを支えながら、セリアが厳しい目をしてザジを見た。
ルイだけを分断させるつもりだったらしい壁のこちら側には、ラウジエルが共にいた。
【ザジ】「一名余分な方もいらっしゃいますが…彼のお相手は貴方にお願いしますね、ルキニン」
【ルキニン】「任せて!兄貴!」
ザジの言葉に元気に答えて、ルキニンは軽くジャンプした。
着地した瞬間に地を蹴り、一瞬で間合いを詰めたルキニンにラウジエルの反応が遅れた。
【ラウジエル】「チッ!」 
細身の体から繰り出された強烈な蹴りにラウジエルの体が吹き飛び、岩場に叩きつけられた。
【ルイ】「ラウジエルさん!!」
【ザジ】「あの方を心配している余裕はないですよ」
耳元に響いた声にルイはハッとしてラウジエルに向けていた視線を前に戻した。
思いの他近い場所にザジの顔があり、ルイは思わず仰け反りながら剣をザジに向かって薙ぎ払った。
それを剣で容易に受け止め、ルイの目の前でザジが綺麗に微笑んだ。
【ザジ】「貴方は不思議な魔力を纏っていらっしゃいますね………あの方に似た…誰よりも澄んでいて、強い力……」
剣を持っていない方のザジの手がルイの頬を滑った。
触れた指先は死人のように冷たく、ルイの動きを一瞬だけ凍らせた。
ルイの剣を握る力が弱まったのを感じ、ザジはスッと目を細め、剣を弾き飛ばした。
【ルイ】「あっ!?」
弾き飛ばされた剣がルイの手を離れ、地面を滑った。
【ザジ】「しかし…残念な事にその力を持て余しているようですね。折角の力もこれでは意味がない」
無防備になったルイの首筋に剣が当てられる。
その剣の硬質な冷たさに、ルイは再び動きを止めた。
ザジが少しでも腕を引けば、ルイの首から真っ赤な血が噴き出す事は間違いない。
【ザジ】「貴方がこの力を使いこなすようになれば、少々厄介な存在となりそうですね…折角お知り合いになれたのに、残念ですが貴方とはここでお別れしたいと思います」
剣を持つザジの手に、力が入ったのが分かった。
【ラウジエル】「ルイ様!」
【ルキニン】「兄貴の邪魔はさせないよ!」
ラウジエルがルイの元に駆け出そうとするが、ルキニンが行く手を阻んだ。
体をコマのように回転させ、連続で蹴りを放つルキニンにラウジエルは前に進めない。
全ての蹴りを紙一重で避けながら、ラウジエルは苛立つように叫んだ。
【ラウジエル】「っ邪魔だ!轟け!雷光陣(オーバーフラッシュ)!」
ラウジエルを中心に目も眩むほどの閃光を放ちながら、落雷が発生する。
【ルキニン】「あうぁッ!!」
肉をも焦がす高熱が腕を掠め、ルキニンはバックステップで後退した。
ザジは一瞬だけルキニンに視線を走らせたが、直ぐにルイに視線を戻す。
【ザジ】「さようなら」
言葉と共に剣が引かれる気配がした。
【ルイ】(死にたくない!)
ルイはギュッと目を瞑った。
その瞬間、突然何かに弾かれ、ルイの体は後方に転がった。
【ルイ】「な、何っ!?」
衝撃に身を起こし、ルイが周りを見回すとザジも何かに弾かれたような形で倒れていた。
【ルイ】「えっ…」
【ラウジエル】「ルイ様!」
何が起こったか分からず、戸惑うルイの元にラウジエルが駆け寄った。
【ラウジエル】「ルイ様、ご無事ですか!」
【ルイ】「えっ…う、うん…」
頷いた瞬間、首筋がピリッと痛んだ。
どうやら少し斬れているらしい。
【ルイ】「ラウジエルさんが助けてくれたの?」
【ラウジエル】「?…何を仰っているのですか?」
呆然とラウジエルを見つめて尋ねるが、本人は困惑したような顔を浮かべた。
【ルイ】「じゃあ…」
【ザジ】「なるほど…そういう事ですか」
ルイの言葉を遮るように、いつの間にか立ち上がっていたザジがこちらを見ながら呟いた。
ラウジエルは、そんなザジの視界からルイを庇うように前に出る。
その様子をジッと見つめ、何を思ったかザジは剣を鞘に戻すと指を鳴らした。
ルイと仲間達の間を隔てていた壁がスッと消える。
【ルイ】「えっ?」
急に戦闘態勢を解いたザジを見て、ルイをはじめナイア達も怪訝な顔をする。
【ザジ】「貴方の実力は見せて頂きました。本当はもう少し見極めさせて頂きたかったのですが、何しろ帰還命令を無視してここにいますので、あまり長居もしていられないのです。非常に残念ではありますが、失礼致します」
一礼しながらそう言うザジの横にルキニンがスッと移動する。
【ルイ】「ま、待て!」
【ザジ】「では、失敬」
その瞬間、目も開けていられないほどの強風がザジとルキニンを中心にして巻き起こり、ルイ達が目を開けたその時にはもう影も形もなくなっていた。
ただ、風に巻き起こされた木の葉が虚しくそこに舞っているだけ。
【ルイ】「な、何だったんだ?」

<共通ルートに合流する>

*エルフィー
;エルフィー+1

それはエルフィーのものだった。
【エルフィー】「ルイは下がってな」
そう言うと再度武器を構え直し、照準をザジへと合わせる。
その様子に、ザジは笑みを深めた。
【ザジ】「なるほど…リーダーは貴方ですか」
ザジの掌が、ルイに向かって向けられた。
【ザジ】「阻む壁(ベルリンブロック)」
ルイ達の間に巨大な半透明の壁が出現し、ルイ達を分断した。
【ザジ】「さぁ…これで余計な邪魔は入りません」
【ロゼッタ】「ルイさん!!エルフィーさん!!」
突然出現した、ルイ達を分断させた壁を叩きながらロゼッタが叫んだ。
【ヴィレンド】「退け!」
ロゼッタを退かせ、リュウランをセリアに預けたヴィレンドが壁に向かって攻撃を仕掛ける。
しかし、強固な壁には傷一つ付かなかった。
【ヴィレンド】「クソッ!駄目か…」
【セリア】「闇属性の防御魔法だ。この壁はどんな物理攻撃・魔法攻撃も通さない。しかし、これだけの広範囲に展開させるとは…あの男、かなりの腕だぞ」
リュウランを支えながら、セリアが厳しい目をしてザジを見た。
ルイだけを分断させるつもりだったらしい壁のこちら側には、エルフィーが共にいた。
【ザジ】「一名余分な方もいらっしゃいますが…彼のお相手は貴方にお願いしますね、ルキニン」
【ルキニン】「任せて!兄貴!」
ザジの言葉に元気に答えて、ルキニンは軽くジャンプした。
着地した瞬間に地を蹴り、一瞬で間合いを詰めたルキニンにエルフィーの反応が遅れた。
【エルフィー】「なっ!?」
細身の体から繰り出された強烈な蹴りにエルフィーの体が吹き飛び、岩場に叩きつけられた。
【ルイ】「エルフィー!!」
【ザジ】「あの方を心配している余裕はないですよ」
耳元に響いた声にルイはハッとしてエルフィーに向けていた視線を前に戻した。
思いの他近い場所にザジの顔があり、ルイは思わず仰け反りながら剣をザジに向かって薙ぎ払った。
それを剣で容易に受け止め、ルイの目の前でザジが綺麗に微笑んだ。
【ザジ】「貴方は不思議な魔力を纏っていらっしゃいますね………あの方に似た…誰よりも澄んでいて、強い力……」
剣を持っていない方のザジの手がルイの頬を滑った。
触れた指先は死人のように冷たく、ルイの動きを一瞬だけ凍らせた。
ルイの剣を握る力が弱まったのを感じ、ザジはスッと目を細め、剣を弾き飛ばした。
【ルイ】「あっ!?」
弾き飛ばされた剣がルイの手を離れ、地面を滑った。
【ザジ】「しかし…残念な事にその力を持て余しているようですね。折角の力もこれでは意味がない」
無防備になったルイの首筋に剣が当てられる。
その剣の硬質な冷たさに、ルイは再び動きを止めた。
ザジが少しでも腕を引けば、ルイの首から真っ赤な血が噴き出す事は間違いない。
【ザジ】「貴方がこの力を使いこなすようになれば、少々厄介な存在となりそうですね…折角お知り合いになれたのに、残念ですが貴方とはここでお別れしたいと思います」
剣を持つザジの手に、力が入ったのが分かった。
【エルフィー】「ルイ!」
【ルキニン】「兄貴の邪魔はさせないよ!」
エルフィーがルイの元に駆け出そうとするが、ルキニンが行く手を阻んだ。
体をコマのように回転させ、連続で蹴りを放つルキニンにエルフィーは前に進めない。
全ての蹴りを剣で受けながら、エルフィーは苛立つように叫んだ。
【エルフィー】「邪魔なのはあんただよ!喰らいな!鬼火(ゴーストフレア)!」
エルフィーの周りに青白い炎が浮かび上がり、ルキニンに向かって突進して行く。
【ルキニン】「うわっ!?」
襲いかかってくる青い炎を紙一重で交わしながら、ルキニンは後退した。
ザジは一瞬だけルキニンに視線を走らせたが、直ぐにルイに視線を戻す。
【ザジ】「さようなら」
言葉と共に剣が引かれる気配がした。
【ルイ】(死にたくない!)
ルイはギュッと目を瞑った。
その瞬間、突然何かに弾かれ、ルイの体は後方に転がった。
【ルイ】「な、何っ!?」
衝撃に身を起こし、ルイが周りを見回すとザジも何かに弾かれたような形で倒れていた。
【ルイ】「えっ…」
【エルフィー】「ルイ!」
何が起こったか分からず、戸惑うルイの元にエルフィーが駆け寄った。
【エルフィー】「無事かい!」
【ルイ】「えっ…う、うん…」
頷いた瞬間、首筋がピリッと痛んだ。
どうやら少し斬れているらしい。
【ルイ】「エルフィーが助けてくれたのか?」
【エルフィー】「何言ってんだい?」
呆然とエルフィーを見つめて尋ねるが、本人は困惑したような顔を浮かべた。
【ルイ】「じゃあ…」
【ザジ】「なるほど…そういう事ですか」
ルイの言葉を遮るように、いつの間にか立ち上がっていたザジがこちらを見ながら呟いた。
エルフィーは、そんなザジの視界からルイを庇うように前に出る。
その様子をジッと見つめ、何を思ったかザジは剣を鞘に戻すと指を鳴らした。
ルイと仲間達の間を隔てていた壁がスッと消える。
【ルイ】「えっ?」
急に戦闘態勢を解いたザジを見て、ルイをはじめナイア達も怪訝な顔をする。
【ザジ】「貴方の実力は見せて頂きました。本当はもう少し見極めさせて頂きたかったのですが、何しろ帰還命令を無視してここにいますので、あまり長居もしていられないのです。非常に残念ではありますが、失礼致します」
一礼しながらそう言うザジの横にルキニンがスッと移動する。
【ルイ】「ま、待て!」
【ザジ】「では、失敬」
その瞬間、目も開けていられないほどの強風がザジとルキニンを中心にして巻き起こり、ルイ達が目を開けたその時にはもう影も形もなくなっていた。
ただ、風に巻き起こされた木の葉が虚しくそこに舞っているだけ。
【ルイ】「な、何だったんだ?」

<共通ルートに合流する>

*ナイア
;ナイア+1

それはナイアのものだった。
【ナイア】「無理すんなよ、ルイ!」
そう言うと再度武器を構え直し、照準をザジへと合わせる。
その様子に、ザジは笑みを深めた。
【ザジ】「なるほど…リーダーは貴方ですか」
ザジの掌が、ルイに向かって向けられた。
【ザジ】「阻む壁(ベルリンブロック)」
ルイ達の間に巨大な半透明の壁が出現し、ルイ達を分断した。
【ザジ】「さぁ…これで余計な邪魔は入りません」
【ロゼッタ】「ルイさん!!ナイアさん!!」
突然出現した、ルイ達を分断させた壁を叩きながらロゼッタが叫んだ。
【ヴィレンド】「退け!」
ロゼッタを退かせ、リュウランをセリアに預けたヴィレンドが壁に向かって攻撃を仕掛ける。
しかし、強固な壁には傷一つ付かなかった。
【ヴィレンド】「クソッ!駄目か…」
【セリア】「闇属性の防御魔法だ。この壁はどんな物理攻撃・魔法攻撃も通さない。しかし、これだけの広範囲に展開させるとは…あの男、かなりの腕だぞ」
リュウランを支えながら、セリアが厳しい目をしてザジを見た。
ルイだけを分断させるつもりだったらしい壁のこちら側には、ナイアが共にいた。
【ザジ】「一名余分な方もいらっしゃいますが…彼のお相手は貴方にお願いしますね、ルキニン」
【ルキニン】「任せて!兄貴!」
ザジの言葉に元気に答えて、ルキニンは軽くジャンプした。
着地した瞬間に地を蹴り、一瞬で間合いを詰めたルキニンにナイアの反応が遅れた。
【ナイア】「うわっ!!」
細身の体から繰り出された強烈な蹴りにナイアの体が吹き飛び、岩場に叩きつけられた。
【ルイ】「ナイア!!」
【ザジ】「あの方を心配している余裕はないですよ」
耳元に響いた声にルイはハッとしてナイアに向けていた視線を前に戻した。
思いの他近い場所にザジの顔があり、ルイは思わず仰け反りながら剣をザジに向かって薙ぎ払った。
それを剣で容易に受け止め、ルイの目の前でザジが綺麗に微笑んだ。
【ザジ】「貴方は不思議な魔力を纏っていらっしゃいますね………あの方に似た…誰よりも澄んでいて、強い力……」
剣を持っていない方のザジの手がルイの頬を滑った。
触れた指先は死人のように冷たく、ルイの動きを一瞬だけ凍らせた。
ルイの剣を握る力が弱まったのを感じ、ザジはスッと目を細め、剣を弾き飛ばした。
【ルイ】「あっ!?」
弾き飛ばされた剣がルイの手を離れ、地面を滑った。
【ザジ】「しかし…残念な事にその力を持て余しているようですね。折角の力もこれでは意味がない」
無防備になったルイの首筋に剣が当てられる。
その剣の硬質な冷たさに、ルイは再び動きを止めた。
ザジが少しでも腕を引けば、ルイの首から真っ赤な血が噴き出す事は間違いない。
【ザジ】「貴方がこの力を使いこなすようになれば、少々厄介な存在となりそうですね…折角お知り合いになれたのに、残念ですが貴方とはここでお別れしたいと思います」
剣を持つザジの手に、力が入ったのが分かった。
【ナイア】「ルイ!!」
【ルキニン】「兄貴の邪魔はさせないよ!」
ナイアがルイの元に駆け出そうとするが、ルキニンが行く手を阻んだ。
体をコマのように回転させ、連続で蹴りを放つルキニンにナイアは前に進めない。
【ナイア】「退けよ、お前!!退かなきゃ怪我するぜ!暴風雨(デビルストーム)!!」
ナイアを中心に立っていられないほどの強風が巻き起こる。
【ルキニン】「クッ!〜〜〜〜ッ!!」
何とか踏ん張って耐えようとしたルキニンだが、強風に足元を掬われ、岩場に吹き飛ばされた。
【ナイア】「ざまぁみろ!って、オワッ!!」
暴風雨を使った反動で、ナイア自身の身体も岩場に吹き飛ばされた。
ザジは一瞬だけルキニンに視線を走らせたが、直ぐにルイに視線を戻す。
【ザジ】「さようなら」
言葉と共に剣が引かれる気配がした。
【ルイ】(死にたくない!)
ルイはギュッと目を瞑った。
その瞬間、突然何かに弾かれ、ルイの体は後方に転がった。
【ルイ】「な、何っ!?」
衝撃に身を起こし、ルイが周りを見回すとザジも何かに弾かれたような形で倒れていた。
【ルイ】「えっ…」
【ナイア】「ルイ!!」
何が起こったか分からず、戸惑うルイの元にナイアが駆け寄った。
【ナイア】「ルイィィィ!大丈夫かぁ!」
【ルイ】「えっ…う、うん…」
頷いた瞬間、首筋がピリッと痛んだ。
どうやら少し斬れているらしい。
【ルイ】「ナイアが助けてくれたのか?」
【ナイア】「へっ?何が?」
呆然とナイアを見つめて尋ねるが、本人は困惑したような顔を浮かべた。
【ルイ】「じゃあ…」
【ザジ】「なるほど…そういう事ですか」
ルイの言葉を遮るように、いつの間にか立ち上がっていたザジがこちらを見ながら呟いた。
ナイアは、そんなザジの視界からルイを庇うように前に出る。
その様子をジッと見つめ、何を思ったかザジは剣を鞘に戻すと指を鳴らした。
ルイと仲間達の間を隔てていた壁がスッと消える。
【ルイ】「えっ?」
急に戦闘態勢を解いたザジを見て、ルイをはじめナイア達も怪訝な顔をする。
【ザジ】「貴方の実力は見せて頂きました。本当はもう少し見極めさせて頂きたかったのですが、何しろ帰還命令を無視してここにいますので、あまり長居もしていられないのです。非常に残念ではありますが、失礼致します」
一礼しながらそう言うザジの横にルキニンがスッと移動する。
【ルイ】「ま、待て!」
【ザジ】「では、失敬」
その瞬間、目も開けていられないほどの強風がザジとルキニンを中心にして巻き起こり、ルイ達が目を開けたその時にはもう影も形もなくなっていた。
ただ、風に巻き起こされた木の葉が虚しくそこに舞っているだけ。
【ルイ】「な、何だったんだ?」

<共通ルートに合流する>

*ラウス
;ラウス+1

それはラウスのものだった。
【ラウス】「お前は下がっていろ」
そう言うと再度武器を構え直し、照準をザジへと合わせる。
その様子に、ザジは笑みを深めた。
【ザジ】「なるほど…リーダーは貴方ですか」
ザジの掌が、ルイに向かって向けられた。
【ザジ】「阻む壁(ベルリンブロック)」
ルイ達の間に巨大な半透明の壁が出現し、ルイ達を分断した。
【ザジ】「さぁ…これで余計な邪魔は入りません」
【ロゼッタ】「ルイさん!!ラウスさん!!」
突然出現した、ルイ達を分断させた壁を叩きながらロゼッタが叫んだ。
【ヴィレンド】「退け!」
ロゼッタを退かせ、リュウランをセリアに預けたヴィレンドが壁に向かって攻撃を仕掛ける。
しかし、強固な壁には傷一つ付かなかった。
【ヴィレンド】「クソッ!駄目か…」
【セリア】「闇属性の防御魔法だ。この壁はどんな物理攻撃・魔法攻撃も通さない。しかし、これだけの広範囲に展開させるとは…あの男、かなりの腕だぞ」
リュウランを支えながら、セリアが厳しい目をしてザジを見た。
ルイだけを分断させるつもりだったらしい壁のこちら側には、ラウスが共にいた。
【ザジ】「一名余分な方もいらっしゃいますが…彼のお相手は貴方にお願いしますね、ルキニン」
【ルキニン】「任せて!兄貴!」
ザジの言葉に元気に答えて、ルキニンは軽くジャンプした。
着地した瞬間に地を蹴り、一瞬で間合いを詰めたルキニンにラウスの反応が遅れた。
【ラウス】「ッ!?」
細身の体から繰り出された強烈な蹴りにラウスの体が吹き飛び、岩場に叩きつけられた。
【ルイ】「ラウスさん!!」
【ザジ】「あの方を心配している余裕はないですよ」
耳元に響いた声にルイはハッとしてラウスに向けていた視線を前に戻した。
思いの他近い場所にザジの顔があり、ルイは思わず仰け反りながら剣をザジに向かって薙ぎ払った。
それを剣で容易に受け止め、ルイの目の前でザジが綺麗に微笑んだ。
【ザジ】「貴方は不思議な魔力を纏っていらっしゃいますね………あの方に似た…誰よりも澄んでいて、強い力……」
剣を持っていない方のザジの手がルイの頬を滑った。
触れた指先は死人のように冷たく、ルイの動きを一瞬だけ凍らせた。
ルイの剣を握る力が弱まったのを感じ、ザジはスッと目を細め、剣を弾き飛ばした。
【ルイ】「あっ!?」
弾き飛ばされた剣がルイの手を離れ、地面を滑った。
【ザジ】「しかし…残念な事にその力を持て余しているようですね。折角の力もこれでは意味がない」
無防備になったルイの首筋に剣が当てられる。
その剣の硬質な冷たさに、ルイは再び動きを止めた。
ザジが少しでも腕を引けば、ルイの首から真っ赤な血が噴き出す事は間違いない。
【ザジ】「貴方がこの力を使いこなすようになれば、少々厄介な存在となりそうですね…折角お知り合いになれたのに、残念ですが貴方とはここでお別れしたいと思います」
剣を持つザジの手に、力が入ったのが分かった。
【ラウス】「ルイ!」
【ルキニン】「兄貴の邪魔はさせないよ!」
ラウスがルイの元に駆け出そうとするが、ルキニンが行く手を阻んだ。
体をコマのように回転させ、連続で蹴りを放つルキニンにラウスは前に進めない。
【ラウス】「悪いが、お前の相手をしている暇はない!」
全ての蹴りを受け止め、ラウスはルキニンを睨みつけた。
鋭い眼光にルキニンの攻撃の手が一瞬だけ止まった。
【ラウス】「氷王の息吹(ウェンディゴブレス)」
ラウスの放った矢がルキニンの腕を掠める。
その傷口からルキニンの右腕が凍り始めた。
【ルキニン】「あうぁっ!!」
冷たい氷であっても焼けるほど熱いと感じる凍傷に、ルキニンは思わず後退した。
ザジは一瞬だけルキニンに視線を走らせたが、直ぐにルイに視線を戻する。
【ザジ】「さようなら」
言葉と共に剣が引かれる気配がした。
【ルイ】(死にたくない!)
ルイはギュッと目を瞑った。
その瞬間、突然何かに弾かれ、ルイの体は後方に転がった。
【ルイ】「な、何っ!?」
衝撃に身を起こし、ルイが周りを見回すとザジも何かに弾かれたような形で倒れていた。
【ルイ】「えっ…」
【ラウス】「ルイ!」
何が起こったか分からず、戸惑うルイの元にラウスが駆け寄った。
【ラウス】「無事か?」
【ルイ】「えっ…う、うん…」
頷いた瞬間、首筋がピリッと痛んだ。
どうやら少し斬れているらしい。
【ルイ】「ラウスさんが助けてくれたの?」
【ラウス】「いや…俺ではない」
呆然とラウスを見つめて尋ねるが、本人は困惑したような顔を浮かべた。
【ルイ】「じゃあ…」
【ザジ】「なるほど…そういう事ですか」
ルイの言葉を遮るように、いつの間にか立ち上がっていたザジがこちらを見ながら呟いた。
ラウスは、そんなザジの視界からルイを庇うように前に出る。
その様子をジッと見つめ、何を思ったかザジは剣を鞘に戻すと指を鳴らした。
ルイと仲間達の間を隔てていた壁がスッと消える。
【ルイ】「えっ?」
急に戦闘態勢を解いたザジを見て、ルイをはじめナイア達も怪訝な顔をする。
【ザジ】「貴方の実力は見せて頂きました。本当はもう少し見極めさせて頂きたかったのですが、何しろ帰還命令を無視してここにいますので、あまり長居もしていられないのです。非常に残念ではありますが、失礼致します」
一礼しながらそう言うザジの横にルキニンがスッと移動する。
【ルイ】「ま、待て!」
【ザジ】「では、失敬」
その瞬間、目も開けていられないほどの強風がザジとルキニンを中心にして巻き起こり、ルイ達が目を開けたその時にはもう影も形もなくなっていた。
ただ、風に巻き起こされた木の葉が虚しくそこに舞っているだけ。
【ルイ】「な、何だったんだ?」



【レイ】「遅かったな、ザジ」
【ザジ】「申し訳ありません、レイ様。少々野暮用がございまして」
【レイ】「ヴィシュメールを倒した者達との戯れがか?」
レイのその言葉にザジは微かに眉を動かした。
彼の後ろで、ルキニンがヤバッと顔を露骨に顰める。
【ザジ】「…よくご存知で。シャライヤ殿ですね」
特に否定する事も無く、ザジは笑顔を浮かべ、あっさり認めた。
【レイ】「あぁ…お前の様子を監視しろと、シャラに伝えた」
【ザジ】「流石アニマですね。動物の力とはよく言ったもの…正に獣並み。…この私ですら、彼らの気配に気が付かないとは」
ザジの蔑むような言い方にレイは微かに眉を寄せた。
【レイ】「戯言はいい。お前にはしばらく謹慎を言い渡す。余計な事はするな」
【ザジ】「はい。…では、失礼致します。行きましょう、ルキニン」
意外と何の文句も言わず、ザジはルキニンと共に引き下がっていく。
そのザジの後姿をレイは冷ややかに見つめた。
そんなレイの後から椅子の陰に隠れていたセルコウシュとラジノイドが姿を見せた。
【セルコウシュ】「何を考えているんだろうか、あの男は」
【レイ】「さぁな。アイツの考えだけは俺でも理解出来ん」
【ラジノイド】「まぁ、裏切るような素振りを見せたら俺が始末してやる」
鞘から剣を引き抜き、ラジノイドがレイに向かってそう言う。
【レイ】「あいつは帝国の策士だ。また寝返らんとも限らんが、しばらくは大丈夫だろう」
【セルコウシュ】「それはお前の勘か?」
【レイ】「勘といろいろ考えた末の結論だ」
レイの言葉に隣に並んだセルコウシュは顎で軽くラジノイドに剣を仕舞うよう促した。
それを見て、軽く舌打ちしたラジノイドは剣を鞘に収める。
【レイ】「…お前達に話しておきたい事がある」
【ラジノイド】「何だ?」
【レイ】「今、イフスとバルドが俺の命令で任務に就いているが、これは帝国軍の残党を処理する仕事じゃない。というよりも、それとはまったく関係のない事だ」
レイがそう言うとセルコウシュとラジノイドは軽く顔を見合わせた。
【セルコウシュ】「それは…この間、お前がいつか話すと言っていた事か?」
頷く。それは肯定の意味だ。
【ラジノイド】「話す気になったんだな。一体何の話だ」
【レイ】「あぁ…俺の―――…」



*ザジの労り
;ラウス・ラウジエル選択時のみ出現

【ザジ】「…」
【ルキニン】「兄貴…どうかした?」
レイの元から離れて、廊下で突然立ち止ったザジ。
その様子をいぶかしんで、ルキニンが顔を覗き込む。
【ザジ】「ルキニン」
【ルキニン】「ん?」
【ザジ】「腕を出しなさい」
【ルキニン】「へっ?」
ザジの言葉にルキニンが戸惑ったのも束の間、頭の後で組んでいた腕を取られる。
【ルキニン】「イッ!?」
握られた腕に鋭い痛みが走り、ルキニンは痛みに顔を顰めた。
その反応に溜息を吐いて、ザジは腕を掴む力をそっと緩めた。
【ザジ】「ルキニン…貴方、いくつ仕込めるようになりました?」
【ルキニン】「へ?えっと……三十二個かな?」
腕を掴まれたまま、ルキニンは自分の身体を見回し答えた。
【ザジ】「では、覚えた魔術の数は?」
【ルキニン】「えっ!?えぇっと………」
その問いには言葉を濁し、笑って誤魔化そうとするルキニンにザジはまた溜息を吐いた。
腕を握る手とは反対の手を、ルキニンの傷にかざす。
ホワッと暖かい光がザジの掌から発せられた。
【ザジ】「回復術くらいは覚えなさいと教えたはずですがね…」
【ルキニン】「ごめん……でも、兄貴が一緒にいてくれれば平気だろ?」
ヘヘっと笑って答えたルキニンの言葉に、ザジの動きが一瞬だけ凍った。
直ぐに元に戻ったザジはペシッと軽くルキニンの腕を叩く。
【ルキニン】「イテッ!」
【ザジ】「何を、甘えた事を言っているんですか」
口元に笑みを浮かべ、ザジはルキニンの腕を離すと再び歩き出した。
【ルキニン】「あっ!待ってよ、兄貴!!」
慌てて後を追うルキニンの腕は何事もなかったかのように綺麗に治っていた――

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ライン

【シナリオ13】

【ラウス】「リュウランはまだ目覚めないのか?」
風の谷を越え、一晩を明かしたセルニーナの町を出発する際、ヴィレンドの背にまだ眠ったまま負ぶさっているリュウランを見てラウスが言う。
もう、リュウランが魔力回復のため、眠りについてから三日が経過した。
それだけ、あの召喚に使った魔力が膨大だったのと、リュウランの経験不足が原因で回復が遅いのだとヴィレンドは言っていた。

【ヴィレンド】「だが、大分回復してきているはずだから、もうじき目覚めると思うぞ」
【ルイ】「そっか…良かった」
少しホッとしたような表情でそう言うと、メンバー全員に出発を呼びかけた。
正直、リュウランが眠りについたこの三日の間、まさかこのまま目覚めないのではないかと思うと少し恐かった。
ルイにとって、リュウランはずっと一緒に育ってきた友達―――家族同然なのだ。
家族を失う事はルイにとっては辛い過去を思い起こさせる。
そう…リュウランが倒れた時、母を亡くした時と同じ感覚がルイの中をよぎった。
まだ幼かったルイを残し、死んで逝った母の最後の姿を、その時の心にポッカリと穴が開いたようなあの感覚をルイは今も鮮明に覚えている。
だから、ルイはリュウランに早く目覚めて欲しかった。
この感覚を消す、笑顔を見せて欲しかったのだ。
セルニーナの少し先にあるゴラス林で隣を歩いていたエルフィーにその事を言うと彼女はつまらなさそうにこう返してきた。
【エルフィー】「じゃあ、何?ルイにとってリュウランは母親と同じなわけ?」
【ルイ】「同じってわけじゃないよ。リュウランはリュウラン、母さんは母さんだし」
【エルフィー】「そうじゃなくてさぁ…」
ルイの答えにエルフィーは呆れて溜息を吐き出した。
だが、エルフィーが呆れる意味が分からないルイはその隣でキョトンとしていた。
【エルフィー】「ルイに色恋沙汰はしばらくありえないね…」
【ルイ】「はぁ?どういう意味だよ?」
【エルフィー】「お子様は分かんなくていいよ」
【ルイ】「お、お子様って…ちょっ、エルフィー!!」
ルイが呼び止める間もなく、エルフィーは歩く足を速め、先頭を歩いていたラウス達の方へ歩み寄って行った。
【エルフィー】「あんたは、同じくお子様のナイアと一緒に歩いてな」
【ナイア】「誰がお子様だって!エル姉!!」
【エルフィー】「あんただよ、あ・ん・た!」
逆上気味のナイアをエルフィーはヒラヒラと手を振るだけでかわす。
お子様扱いされたナイアは憮然とした表情でルイの隣を黙々と歩き続けた。
その後ろで、ラフィエルがクスクスと忍び笑いを漏らしているのにも気が付かないほどに。
その時、ルイの少し前を歩いていたヴィレンドが急に立ち止まる。
【ヴィレンド】「ラウス!止まれ!!」
鋭いヴィレンドの言葉に先頭を歩いていたラウス達は動きを止めた。
そして、ヴィレンドの声に篭もった警戒の意を同時に受け取った彼らは各々武器に手をやり、周囲を警戒する。
一番後方を歩いていたラウジエルも、ヴィレンドの言葉でルイを庇うように前に立つ。
【ルイ】「師匠?」
【ヴィレンド】「二人…だな」
【ルイ】「は?」
【ヴィレンド】「おい、そこの前方に見える木、下から五番目の枝の辺りを射ろ」
小声でヴィレンドが近場にいたラウジエルにそう命じた。
命令され、少し機嫌が悪そうな表情をしながらもラウジエルは背から矢を引き抜き、指示された五番目の枝を狙って矢を射る。
ラウジエルの放った矢は正確に下から五番目の枝の辺りに吸い込まれた。
その直後、ドサドサッという音と共に木の上から何かが落ち、その落ちてきた何かにルイ達は警戒を強める。
だが、そんな警戒心を崩す、のん気そうな声が発せられた。
【?】「いったぁ…お尻打った」
【?】「俺よりマシだろ!俺はお前の下敷きだぞ!?」
【?】「ゲッ!何で僕の下にいるのさ、イフス」
【?】「お前が落ちてきたんだろうが!」
【?】「僕のせいじゃないよ!急に飛んできた矢のせいだってば!!」
そう言って、言い合いをしているのは、黒髪の少年二人。
まるで、鏡を見合わせたように同じ顔をした少年達が、落ちた時のままの体勢で言い合いを続けている。
暫く呆然とそれを見つめていたルイだったが、ハッと我に返った。
【ルイ】「ごめん。驚かせちゃって…君達、この辺の子?」
敵と間違えてしまったと案じたルイは彼らに近付こうとしたが、その肩をラウジエルが掴んだ。
【ルイ】「ラウジエルさん?」
【ラウジエル】「ルイ様、こいつら…ただの子供ではありません」
【ラウス】「そいつの言うとおりだ。こいつら、俺の警戒網に引っ掛からなかった」
気配を隠す事に慣れている、と弓を構えながらラウスが呟く。
そう言われ、ルイも警戒して言い争いを続けている少年二人を見つめた。
【?】「あぁ〜ぁ、折角の計画台無しじゃねぇ?」
【?】「こんなあっさりバレるなんて思わなかったねぇ」
周囲に広がった雰囲気に気が付いたのか、今まで言い争いを続けていた少年二人は同時に溜息を吐いた。
【?】「隙を見て、攫うつもりだったのなぁ…」
【?】「でも、この人達意外と隙なかったし、その作戦元々無理だったんじゃない?」
【?】「じゃあ、どうするってんだよ」
【?】「頼んでみるとか?」
片方が小首を傾げながらそう言うと、もう片方がルイ達の方を見た。
【イフス】「一応挨拶しといた方がいいのかな?俺、イフス」
【バルド】「僕はバルド」
【イフス】「俺達はレイの命令で、その姉ちゃんを攫いに来た」
【バルド】「って事で、大人しくその姉ちゃん渡してくれる?」
二人同時に手を差し出して、そう言う少年二人にルイは唖然とした。
【ルイ】(何だって?レイの命令で、その姉ちゃんを攫いに来た?その姉ちゃんって、リュウランの事か?大人しく渡してくれるって…はぁ???)
【ラウス】「お前ら、そんな事言われて大人しく渡すとでも思ってるのか?」
【イフス・バルド】「やっぱ、駄目?」
ルイと同じく唖然とした表情でラウスがそう言うと、イフス・バルドと名乗った少年二人は揃って悪戯が見つかった子供のような笑みを浮かべた。
【ナイア】「当たり前だろ。大体レイって何処のどいつさ」
【ヴィレンド】「まさか…レイ=マグレイドか?」
ナイアの言葉にヴィレンドが半信半疑に答えた。
その名に同じように「まさか」というような顔をしたのはラウジエルとラウスの二人。
イフスとバルドは意外そうな顔をした。
【イフス】「あれ?おっちゃん、何でレイの名前知ってんの?」
【バルド】「もしかしてレイの知り合い?」
二人の言葉に「そうなのか?」とナイアがヴィレンドに視線を向けた。
【ヴィレンド】「名を知っているだけだ。あの帝国に宣戦布告した男…反乱軍リーダー、魔術師のレイ=マグレイド」
【ナイア】「反乱軍のリーダー!?」
想像だにしなかった人物にナイアが素っ頓狂な声を上げた。
【ラフィエル】「そんな人が、リュウランを攫って一体どうしようというのですか?」
ラフィエルが厳しい目付きでイフスとバルドを睨む。
だが、そんな視線をものともせず、イフスとバルドは同じ顔を見合わせた。
【バルド】「攫ってどうするって…レイの命令、連れて来いだけだったもんね」
【イフス】「俺達が知る訳ないじゃん。なぁ?」
【バルド】「うん」
【ラウス】「反乱軍の指導者に命令された、という事は…お前達は反乱軍なのか?」
【イフス・バルド】「そうだよ」
声を揃え、イフスとバルドはラウスの質問に頷いた。
【ナイア】「最近、よく反乱軍と会うよな、俺ら」
【ラフィエル】「そういう運命…なんじゃないですか」
ナイアとラフィエルはそう言い合うと、お互い戦闘態勢に入った。
いくら相手が子供でも、反乱軍の一員と分かれば、油断する訳にはいかない。
他のメンバーもいつでも動けるように各々、戦闘態勢に入る。
それを見て、イフスとバルドはまた互いに顔を見合わせた。
【イフス】「あらら?ひょっとして俺らとやる気?言っとくけど、俺ら強いよ?」
【ナイア】「やってみなきゃ、分かんないだろ!そんなの!!」
剣を構え、ナイアがそう言うとイフス、バルドは面白そうに笑い合った。
【バルド】「あーあ。やる気満々らしいよ、イフス」
【イフス】「じゃあ、ゲームだな。俺とバルド、攻略方法を教えてやるよ」
【ナイア】「は?」
【イフス】「俺、兄イフスの戦闘方法は魔術専門!」
【バルド】「僕、弟バルドの戦闘方法は武術専門!」
【バルド・イフス】「さぁ、姉ちゃんを奪われる前にどっちがどっちか、当てられるかな?」
声を揃え、二人は不敵に微笑むと同時に地面を蹴った。
ルイ達の周りを少年二人が囲む。
【?】「遊んであげるよ!」
【ナイア】「クソッ!こっちはどっちだよ!?」
そう言いながら、自分に向かって来る少年が兄の方だと思ったナイアは魔術攻撃に備えて相手との距離を詰めた。
魔術を使う相手なら、スピードを活かし、術を使う前に潰せばいい。
だが、それが間違っていた。
【バルド】「残念でした!僕は弟の方だよ!」
斬りかかったナイア以上に素早い動きで、弟・バルドはナイアの足元にしゃがみ込み、その足を掃った。
お陰で、ナイアはバランスを崩し、前方に倒れかける。
その下に待ち構えていたのは、バルド。
地面に手をつき、その反動でナイアの腹を蹴り上げる。
思いっきり、鳩尾に蹴りを喰らったナイアはラウジエルの上に落ち、そのまま気を失った。
【ルイ】「ナイア!」
【?】「ハイ、よそ見はしない事!」
ルイがナイアに気を取られている一瞬のうちに少年が距離を詰めていた。
【ラウジエル】「ルイ様!」
気を失ったナイアをどかし、ルイに襲いかかろうとしている少年に向かって5本の矢を一片に放つ。
【?】「うわっっと!?危ないなぁ!」
【ラウジエル】「ちっ!」
ラウジエルの矢に気を取られ少年に出来た隙をルイは見逃さなかった。
すかさず剣を振り下ろすが、寸での所でルイの剣先が蹴られた。
【ルイ】「くっ!」
【バルド】「ちょっと何してんのイフス!やられたいの!?」
【イフス】「悪ぃ!助かったよバルド」
【イフス・バルド】「あ、名前言っちゃったじゃん」
【ヴィレンド】「チャンスだ!見逃すな!」
後方で女性陣を守っているヴィレンドが声を上げる。
【イフス・バルド】「残念でした!シャッフルタイムでーす!」
少年たちは互いに手をとりその場で回ると、左右に分かれて再度ルイ達をとり囲んだ。
【ルイ】「くそっ!分からなくなった…!」
【?】「よっしゃっ!行くぜっ俺のターンだ!」
攻撃に備えていたルイの背後で、突然少年の声が聞こえた。
【?】「喰らえ!飛礫の豪雨(クラッシュレイン)!!」
【ルイ】「!!」
何の防御も出来ないまま、無数の石飛礫がルイに向かう。
やられると思った瞬間、石飛礫はルイにぶつかる事無く砕け散った。
【ルイ】「…?」
【セリア】「結界の章(セイントフィールド)。間に合ったようだな」
次の瞬間ルイの周りを囲んでいた光の障壁が消えた。
セリアが咄嗟に防御壁を出してくれたらしい。
【ルイ】「助かりましたセリアさん!」
【イフス】「げっ!まじかよ〜、おいバルド!シャッフルだ!!」
【バルド】「しっかりしてよね、もう!」
魔術を放った事で自分が兄であることを晒してしまったイフスは、バルドに再度指示を出した。
【ラウス】「ちっ、キリがない!」
【ルイ】「どうにかしないと…」
【ラウジエル】「ルイ様、お下がり下さい!ここは俺が…」
【?】「兄ちゃんがリーダーだな?あんたさえ潰しちゃえば終わりだ!」
【ラウジエル】「させん!」
【?】「おっと!」
ラウジエルの放った矢を避けて少年は距離をとると、何やら呟き始めた。
ラウジエルはそれに気付くと一気に少年との距離を詰める。
【ラウジエル】「詠唱する暇など与えない!」
【ルイ】「それじゃあこっちが!」
弟の方だと思い近くにいた少年との距離をとる。
その瞬間2人の少年がにやりと笑った。
【?】「残念でした!まんまと俺の作戦に引っかかったな!」
【ルイ】「何っ!?」
一瞬の動揺が命取りとなり、その隙に間合いを詰められてしまう。
【?】「吹き飛…ゴボッ!?」
ルイに攻撃が及ぶかと思われたその時、ルイと少年の間に水が噴出した。
【ラフィエル】「水球牢獄(アクアケージ)」
ルイと少年との間を遮った水はそのまま、少年を飲み込んで水の中に閉じ込めてしまった。
【?】「ゴボッ!ゴボボッ!!」
【ラフィエル】「無理です。あなたは兄の方でしょう?魔術を使う際は言葉を発しなければ発動しない。なら、水中でその言葉をなくしてしまえばいい事です。あぁ、一応息は出来るはずですからご心配なく」
水中の中、もがく少年にラフィエルはニッコリ微笑んだ。
【ラウス】「じゃあ、残ったこっちは弟の方って訳だな。なら、これで十分だ。足枷氷(アイスロック)!」
ラウスが弟の足元に弓矢を放った。
それを寸での所で避けたバルドだったが、地面に刺さった矢を中心に地面が急速に凍っていく。
地面を伝ってその氷はバルドの脚に届き、その脚を地面ごと凍らせた。
【バルド】「な、何だよ!これ!?」
氷に動きを封じられ、動けなくなったバルドは何とか氷から脚を引き抜こうと足掻いたが、強固な氷の枷はビクともしなかった。
【イフス】「ゴバベ!バンベゴベガッ!」
【ラフィエル】「ん?何で兄だって分かったかですか?」
ラフィエルがそう聞き返すと、イフスは水中でコクコクと頭を縦に振った。
それを見て、ラフィエルが得意そうに微笑む。
【ラフィエル】「簡単な事です。あなた達は、それぞれ一人称が違うんです。兄の方は自分の事を"俺"と言い、弟の方は自分の事を"僕"と言う」
【ラフィエル】「つまり、先ほど自分の事を"俺"と言ったあなたは兄の方という事です。ね、簡単な事でしょう?」
ラフィエルがそう説明すると水中のイフスも、氷で動きを封じられたバルドも「あっ」といった表情をする。
【ラフィエル】「さてと、この子達どうしますか、ルイ?」
【ルイ】「そうだな…とりあえず、いろいろ聞きたいことが…」
【?】「悪いが、その二人は連れて帰らせてもらおう」
突如そう言う新たな声が聞こえ、ルイ達は慌てて声がした方向を振り返った。
その直後、イフスを包んでいた水球が破裂し、バルドの動きを封じていた氷が砕け散る。
ルイ達がその音に反応し、再び振り返った時には、イフスとバルドはいつの間にか巨漢の男に抱えられていた。
【イフス】「お、おっちゃん…!?」
【バルド】「何でこんな所にいんの!?」
両脇に抱えられた状態で、イフスとバルドは自分達を抱える男を見て、驚愕した。
【?】「お前達だけじゃ心配だ、とレイがな。途中見失ったが、間に合って良かった」
【イフス】「何?レイってば、俺らを信用してなかったの?」
【バルド】「それって、結構ショックなんだけど…」
【?】「ハハハッ!そう拗ねるな!それより、逃げるぞ。この人数相手では私もさすがに分が悪いからな」
豪快にそう笑った男の言葉にイフスとバルドは焦ったような表情を見せる。
【イフス】「えっ!?ちょ、ちょっと待って!俺達、まだ任務が…」
【?】「ちょっとはジッとしておれ!行くぞ!」
【バルド】「ちょ、ちょっと!おっちゃん!!」
両脇で暴れるイフス、バルドを抱え、男は林の中に姿を消した。
男が姿を消してしばらくした後、完全にフリーズ状態だったルイ達は一斉に覚醒した。
【ラフィエル】「何だったんでしょうね、今の?」
【エルフィー】「さぁね…。でもあの男、あんたの水球を簡単に破裂させて、ラウスの氷をいとも簡単に砕けさせた。ただ者じゃないよ」
【ロゼッタ】「まぁ、どっちにしてもあの方達はお逃げになりましたし。リュウランも無事ですから、良かったですわね、ルイさん」
【ロゼッタ】「…ルイさん?」
笑顔でルイにそう語りかけたロゼッタは彼の表情が硬直している事に気が付いた。
何かとんでもない失敗をしたかのような、そんな表情―――
その表情にロゼッタの隣にいたセリアも気が付き、ルイに声をかける。
【セリア】「どうした、ルイ?」
【ルイ】「リュウランが…」
【セリア】「? リュウランがどうした?」
【ルイ】「リュウランが…、――――いない」
ルイのその言葉に気を失ったナイアを除く、全員が顔を硬直させた。
イフスとバルドが現れた際、安全のため木陰に下ろしていたリュウランの姿が影も形もなくなっている。
【ルイ】「リュウランが………攫われた!?」

<目次に戻る>


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